第61話:ミネルバへの帰還
翌朝、ウンディーネ様に見送られながら首都エスカルロを出発した。
お土産もその時たくさん頂いて、アイテムボックスの枠が50個くらい埋まってしまうほどだった。
最初はどうなる事かと思ったけど終わってみれば結構楽しかったな。
ウンディーネ様も終始優しかったし、怒らせてしまうような失態もなかった。
フェルメールさんの『ウンディーネ様ご機嫌計画』は無事達成できた事になる。
帰りのキングタートルの上で、俺はフェルメールさんに何度も感謝された。
「ロイド様のおかげでウンディーネ様の機嫌はすごく良くなりました。本当にありがとうございます」
「その言葉を聞いてこちらこそ安心できたよ。メルゼリア王国が吹き飛ぶ心配はもうしなくていいんだな」
俺は冗談交じりに答えた。
「あはは……ロイド様には本当に迷惑をかけました。もし何か困った事があればいつでも言ってください」
その後、フェルメールさんからもお礼の品を頂いた。
それは楽器だった。人魚がよく使用してるイメージがある。
支柱は青く、弦は白く光り輝いていて、台座の部分には複雑な紋章が刻まれていた。
「これは私が昔愛用してたハープです。弦の部分は私の魔力が練り込まれているので、水中まで音色がはっきりと届きます」
「こんな素晴らしい楽器を俺が頂いてもよろしいんですか?」
「もちろんです。主柱の部分には私のサインが書かれてるので、我々の力を借りたい時はどうぞご利用ください。私の知り合いだと察して協力してくれると思います」
へー。サインはそういう使い方もあるのか。知らなかった。
そういえば、レラから貰った『妖精の弓』やドワーフレスリングのチャンプから貰った『チャンピオンベルト』もサインが書かれてたような気がする。
ちなみに『妖精の弓』は的当てミニゲームの後。『チャンピオンベルト』はコッコロ坑道での対決の後だ。
2時間後、無事港に到着した。
俺はフェルメールさんに別れの挨拶をする。
「フェルメールさん、本日はありがとうございました。またアトランタ王国に行く機会があれば、その時はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ロイド様は対ウンディーネ様の切り札的な存在ですからね。これから何度もお世話になると思います」
「流石にそれは勘弁して欲しいですね」
と苦笑いで答えると、
フェルメールさんも「冗談ですよ」とクスクスと微笑んだ。
ハープを頂いた件でもう一度感謝の言葉を伝えて、今度こそ俺達は別れた。
ミネルバにやってきて半年が経った。
徐々に交流が広がっているのを実感する。
エルフ族のレラも含めると森、山、海の三つの部族とそれぞれ交友関係を築いた事になる。
『妖精の弓』『チャンピオンベルト』『人魚のハープ』
彼らから頂いたこの3つは一軒家を買った時に自室に飾りたいと思う。
今のところ使う要素はない。
この三つを揃えし時――――伝説の神殿の扉が開く。
このような夢のような事は絶対に起きないだろうしな。
そんな事を考えながら俺は港を立ち去った。
◆ ◆ ◆
時計を確認すると時刻は午前10時過ぎ。
ミネルバに到着するのは正午頃だろう。
愛馬を使用すれば、時間を短縮できるので、もっと早く到着するだろう。
アイリス達には迷惑をかけちゃったから早めにお礼を言いたいな。
出発の前にアイテムボックスを出現させて中身を確認する。
アイリスのお土産ヨシ。マルスのお菓子ヨシ。レラのお土産ヨシ。ティルルさんのお土産ヨシ。イゾルテさんのお土産ヨシ。セフィリアさんのお土産ヨシ。魔王のお土産ヨシ。
……魔王?
ふと脳裏をよぎったのは聖戦の予定表だ。
恐るおそる、スケジュールが記載された手帳を確認してみる。
○本来のシフト
三日目:アイリス&ティルル
四日目:ロイド
【五日目:セフィリア】
今日:セフィリア
○変更後のシフト
三日目:セフィリア
四日目:アイリス&ティルル
【五日目:ロイド】
今日:セフィリア
やっちゃったー。
海水浴のためにセフィリアさんの聖戦を俺が代わりに引き受けたんだった。
一応メモってはいたんだけど、カレンダーに反映してなかった。
これは完全に俺の不手際だ。
どんな理由があるにせよ、俺はセフィリアさんとの約束を破った形となる。
ミネルバに到着したらまずはセフィリアさんに謝罪しないとな。
俺は愛馬を急いで走らせてミネルバへと帰還した。
到着後すぐにセフィリアさんを見つけた。
セフィリアさんは駅舎の方へと歩いて向かっていた。
グッドタイミングだ。
行き違いにならなくてよかったと安堵する。
「セフィリアさーん!」
馬上で手を振りながらセフィリアさんを呼び止める。
セフィリアさんもこちらに気づくと、その場で立ち止まり、気品良く丁寧に挨拶をした。
「ご友人様、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりであります」
「セフィリアさんに会えて俺も嬉しいです。突然なんですが、まずは一言言わせてください」
俺は馬上から降りるや、すかさずセフィリアさんに土下座する。
「申し訳ありません!」
俺の土下座にセフィリアさんもやや驚いた表情を浮かべており、セフィリアさんの方から事情を尋ねてきた。
聖戦の件だと伝えるとセフィリアさんは優しく笑った。
「ご友人様、謝るのはむしろ私の方ですよ」
「え? どういう意味ですか?」
「ウンディーネの件は、二日前にメイド長が説明して下さったんです」
どうやら帰宅後にティルルさんがスケジュールの歪みに気づいたようだ。
アイリス・ティルルさん・セフィリアさんの三人が相談して解決したらしい。
「そうだったんですか」
「はい、その日は時間が空いてましたので私が代わりにやっておきました」
「いやはや、セフィリアさんには助けられてばかりです。本当にありがとうございます、すごく助かりました」
俺は改めてお礼を言った。ティルルさんとアイリスにもお礼を言わないとな。
それにしても、俺は色々な人に助けられてばかりだな。
本当に感謝以外の言葉が見つからないよ。
「セフィリアさん。もしかしてこれから聖戦ですか?」
「はい、今日は私の当番でしたからね」
昨日は俺の不手際で迷惑をかけて、今日も働かせるのは申し訳ないな。
セフィリアさんは全然気にしてないみたいだけど、友達として責任を感じる。
今日は俺が代わりに引き受けたいけれど、セフィリアさんは責任感が強いからその提案はNGだ。
言い方をちゃんと考えなければならない。
「あの、セフィリアさんには決して迷惑をかけませんので、今回は俺も同行してもよろしいですか?」
「別に構いませんが、長旅でお疲れではありませんか?」
「アトランタ王国でたくさん休憩できたのでむしろ元気が有り余っているくらいですよ」
「それなら一緒に出発しましょう。ところでご友人様、ミネルバから帰宅後、お嬢様の所へ出向きましたか?」
「あっ、いえ、まだですね」
「それでしたら、聖戦にはまだ時間があるので、いったんお屋敷に戻りませんか? お嬢様がご友人様を大変心配しておられましたので」
「わかりました」
セフィリアさんの提案に俺も頷いた。
セフィリアさんと一緒に屋敷へと赴いた。
屋敷にはイゾルテさん、アイリス、ティルルさん、マルス、レラの5人がいた。
マルス達がイゾルテさんの屋敷にいるのはちょっと珍しいな。クエスト関係で同席してるのかな?
再会を喜んだあと、自然とアトランタ王国の話になった。
アトランタ王国はどんな場所なのか、ウンディーネはどんな人だったか。
この二つが中心だった。ウンディーネが先日の精霊少女と同一人物と教えた時は、アイリスは案の定驚いていた。
アトランタ王国の話は一時間ほど続いた。
「お嬢様、そろそろお時間です。依頼された披露宴に向かいましょう」
「はーい、それではマルスさんも一緒に行きましょう」
「そうですね、遅れないようにしましょう」とマルスが返事をする。
なぜマルスも一緒に行くんだろう?
不思議に思っているとレラが一言。
「マルスくん、今回依頼された方の縁者なんですよ」
「へー、どんな方なんだ?」
「《アルババ大商団》の方とだけ聞いています。ただ、私は披露宴に参加しないので詳細を聞かれても上手く答えられませんね」
冒険者ギルドが存在するように『商業ギルド』なるものも存在する。
畑違いなので詳しくはわからんけど、《アルババ大商団》は商業ギルドの中でもかなり上位の大組織だった気がする。俺でも名前を知ってるくらいだしね。
マルスの家系って地味に謎だったけど商人の系譜だったのか。
「レラはマルスの出身を知ってるか?」と尋ねてみる。
レラは、無言で首を振ったあとに言った。
「申し訳ありません。マルスくんは自分の事をあまり語りたがらないので……。今回の件も私に内緒でいつの間にか決まってました。†裏社会に君臨する闇の権力者†がきっと裏で関わってますよ」
レラは少しだけ面白くなさそうに答えた。
いつも一緒にいるレラでもわからないことはあるんだな。
アイリスとティルルさんは、マルスと一緒に知人の披露宴に出かけていった。レラは弓の訓練に出かけて、イゾルテさんは政務に戻った。みんなそれぞれ忙しそうだ。
ネロさんのお店に軽く立ち寄って、俺はセフィリアさんと一緒に馬車で出発した。
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次回の更新は2022/11/30となります!




