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第60話:水の大精霊 ウンディーネ

 翌朝、テトラ島の港で待っているとフェルメールさんが迎えにやってきた。

 待ち合わせ場所は詳しく定めていなかったけど、無事合流できて良かった。


「おはようございます。二日ぶりですね、本日はよろしくお願いします」


 フェルメールさんは、にこやかにそう言った。


「こちらこそよろしくお願いします」


 俺達は丁寧に挨拶をした。

 さて、アトランタ王国の首都エスカロルは海底に存在するので、生身の人間がそのまま行くことはできない。

 そこで俺は《水中魔法》の一種とされる《ウォータープロテクト》を発動する。

 全身を水の魔力で包み込みこんで、水の中でも呼吸をすることができる。

 フェルメールは俺の魔法を見て驚愕する。


「ロイド様はウォータープロテクトまで扱えたんですか!? す、すごいです!」

「魔導士なのでこれくらい当然ですよ」

「そんな事ありませんよ! このウォータープロテクトを発動できるのは、マスター級魔導士くらいしかいないんです!」


 そうなんだ。

 初級魔法のプロテクトと同じ感覚で使ってたので、マスター級の魔法とは全然考えてなかった。

 俺の方からは魔法に関してはそれ以上触れず、フェルメールさんの称賛を受け入れることにした。

 善意で褒められてるし、別に指摘する必要もないかなって感じだ。


 その後、俺達二人は港を出発した。

 目的地のエスカロルまで円滑に移動するために、フェルメールさんが用意していたキングタートルの甲羅の上に乗って海底を移動する。


 キングタートルのスピードは馬よりも数段速く、水の中をスイスイと進んでいく。

 ここからなら3時間ほどで目的地に到着するそうだ。


 キングタートルでの移動中に、フェルメールさんにウンディーネ様の特徴を尋ねた。

 本で調べるよりも部下から特徴を聞いたほうが一番正確だと判断した。


「ささいな事にはあまりこだわらない方ですが、また恋愛絡みでトラブルが生じたばかりなので、そっち方面の話題を控えたほうがいいでしょう」

「わかりました」


 フェルメールさんの話によると、今回はメルゼリア王国出身の人間の男性に恋をして、こっぴどくフラれてしまったそうだ。

 その結果、ウンディーネ様は大いに嘆き悲しんで、メルゼリア王国の近郊の海で二か月近くも大嵐を引き起こしたらしい。

 ちなみに現在は落ち着きを取り戻しており、嵐もすでに収まったそうだ。


「フェルメールさんの話を聞けば聞くほど、生きて帰れる自信がなくなってくるんですけど、大丈夫ですよね?」

「ご安心ください、ロイド様。普段のウンディーネ様はとてもお優しいので大丈夫ですよ。それに今は機嫌がいいのでタイミング的にもバッチリです!」


 今は大丈夫と何度も念押しするが、どう見てもフラグにしか聞こえない。

 それにしても……俺が知らない間にそんな大事件が起きていたなんてな。

 現在は怒りが鎮まったみたいだけど、それでもやっぱり怖いなー。


 正直、今すぐにでもミネルバに帰りたいけど、一度引き受けたからには最後までやり通さないとマズイよな。

 もし俺がここで帰ったりすれば、ウンディーネ様は間違いなくブチ切れるだろう。


 ウンディーネ様との謁見では、細心の注意を払って、文脈に関わらず否定的な言葉は使わないようにしよう。

 名付けて、ぽかぽか言葉大作戦だ。

 ありがとうございます、うれしいです、光栄です、とても感激です。

 この四点セットを基本にしていこう。


 俺は、改めて気を引き締める。


 

 数時間後。

 アトランタ王国の首都エスカロルに到着した。

 海底なので太陽の光は届かないが、《海光石》によって都市全体がエメラルド色の淡い光を放っている。

 そして、この海光石は水の中でも苔が付着しない特殊な鉱石であり、アトランタの建物はすべてこれで造られている。

 都市全体に幻想的な雰囲気が漂っており、街中を悠々と魚の群れが泳いでいるのは不思議な気分だ。


 フェルメールさんに案内されながらエスカロルの街並みを泳いでいく。

 街中には、超巨大なホタテ貝の休憩所も多数存在していた。

 エスカロルの建物は、人間社会とまったく同じというわけではないが、共通してる部分も多かった。

 その理由をフェルメールに尋ねてみる。


「それは私もよくわかりませんが、アトランタ王国は一万年前から存在するほど歴史ある王国なので、アトランタ王国の建築技術が地上に伝わったのではないでしょうか?」


 なるほどー。

 海から地上に技術が継承された感じなのか。フェルメールさんの推測なので本当かどうかはわからないけれど、あり得そうな感じはする。

 それにしても、一万年前から存在するって地味にすごいなー。そんなに長く続く秘訣ってなんだろう?


「一万年前から存在していたなんて本当にすごいですね。王朝がそんなに長く続く秘訣ってなんですか?」

「それはもちろんウンディーネ様のおかげですよ。ウンディーネ様に勝てるような生き物はこの世に存在しませんから」

「ウンディーネ様ってそんなに昔から生きてたんですか?」

「その『生きてる』の表現はやや難しいですね。ウンディーネ様は精霊なので、死んでも100年ほどしたら自然と蘇るんですよ。ただ、記憶の大部分は失ってしまうそうですが」


 そういえば、魔王も不死鳥フェニックスだから転生能力を持っていたな。

 あっちは記憶の大半を引き継ぐから完全な転生に近いけど、こっちは逆に大半の記憶を失ってしまうのか。

 文献によってウンディーネ様の性格の記述が微妙に違うのは、それが理由なのかもしれない。


「あっ、でも失恋した後に王国を津波で吹き飛ばすのは毎回一緒ですよ。恒例行事に近いと思います」


 そういう恐ろしい所は恒例行事にしなくてもいいから……。

 というか、サラッと王国を吹き飛ばすって今話したけど、もしかしてメルゼリア王国ってかなりやばかったのでは?

 俺はその事をフェルメールさんに問いかけてみる。


「そうですね。ロイドさんの言うとおりだと思います。なんとか家臣全員でウンディーネ様を宥めていましたが、中々怒りが収まらなかったので大変だったんですよ。そんな時に、ロイド様のキングクラーケン討伐の朗報が入ってきたんですが、ウンディーネ様の機嫌が一気に良くなったんですよ。これはチャンスと思ってロイドさんをお呼びしたわけです」


 そうだったのか。

 なんか知らないうちに救国の魔導士になっていたみたいだ。


 最初にもフェルメールさんが話したように、ウンディーネ様は待つのが嫌いなお方だ。

 観光は後回しにして、真っ先にウンディーネ様のいる宮殿へと向かった。

 宮殿はとても豪奢な造りとなっており、神殿のような神聖な雰囲気が漂っていた。

 案内された謁見の間はとても広くて、ウンディーネ様は大広間の一番奥にいた。

 ウンディーネ様の左右には魚人の家臣が5人ずつ精霊していた。


 俺とウンディーネ様は、顔を合わせるや否や、お互いに声を発して驚愕した。



 俺の視線の先にいたのは、昨日灯台で出会った精霊少女だったのだ。

 記憶の中では、恋する乙女のような儚げな少女。

 虫一匹殺せないような優しそうな雰囲気があった。

 人と精霊の種族を越えた愛に、俺は思わず心を打たれたものだが、まさか彼女がウンディーネ様だったとは……。

 生まれて初めて腰を抜かしそうになった。


「あれ? もしかしてロイド様はウンディーネ様とお知り合いだったのですか?」


 フェルメールさんの質問に、俺は丁寧に返事をした。

 その後、ウンディーネ様の方角に跪いて丁寧にお辞儀をする。


「お会いできて光栄です。さくじつ、テトラ島の灯台で、アナタ様とお会いしましたロイドです。知らなかった事とはいえ大変失礼しました」


 今でもかなり心臓がバクついているが、なんとか平静を保って俺は言葉を続ける。


「いえいえ、そんな事ありませんよ。アナタともう一人の方、たしかアイリスさんでしたね。アナタ方のおかげでだいぶ気持ちがすっきりしました。こちらこそ本当にありがとうございます」


 ウンディーネ様も玉座に座ったままではあるが、とても友好的な声色でお礼の言葉を述べた。

 彼女の柔らかい態度を見て、少しだけ安堵の息が零れた。

 日頃から他人には丁寧に接しておくべきだね。俺は改めてそう実感した。

 その後、ウンディーネ様の方からフェルメールさんに俺の紹介をする。


「フェルメール、彼は私の恩人でもあるので、最高の待遇でもてなしなさい」

「はっ、承知しました」


 フェルメールさんはハキハキと返事をする。

 主な対応をしたのはアイリスなんだけど、指摘するほどの内容でもないのでスルーした。

 つーか、この状況下で指摘なんてできない。


 ありがたき幸せーって具合に平伏したいくらいだ。

 アイリスがあの時ウンディーネ様の対応してくれたから今の状況があるわけだ。


 アイリスにはお土産をたくさん買ってこよう。



 ウンディーネ様との謁見は一時間ほど続いた。


 普段どこで暮らしているのか、ミネルバはどういう街なのか、アイリスとはどういう関係なのか、アトランタ王国の首都エスカロルは観光したか?


 特に変わった所のない普通の質問が続いた。

 深い部分までは聞かれなかったけどアイリスとの関係も少し尋ねられた。その時は、「仲のいい友達ですよ」と自然な内容で答えた。


 最後に、「エスカロルをもう観光しましたか?」と聞かれたので、「まだ観光はしていません」と答えたところ、エスカロルの名所をいくつか教えて下さった。


「ロイドさん、本日はエスカロルに泊まっていきますよね?」


 そんな言い方されたら泊まるしか選択肢ないじゃんと心の中で思ったが、そこはウンディーネ様に合わせて、


「ウンディーネ様さえよければ、宿泊させて頂けると助かります」


 と最後まで丁寧に返答した。

 そして、ウンディーネに改めてお辞儀をして、俺とフェルメールは謁見の間をあとにした。

 大きな扉が閉まったのを確認して、俺は肺から大きく息を吐き出した。



 はあああああああああああああ死ぬほど緊張した。

 エレガントな女王陛下の10倍緊張した。

 陛下は結構寛大だから俺の発言に多少の粗相があっても笑って許してくれるが、ウンディーネ様はメルゼリア王国が吹き飛ぶリスクを考えると、冗談でもふざけた事が言えない。

 絶対に怒らせてはいけない海底生活24時。


 寿命が三日くらい縮まった気がする。

 昨日今日会話した限りだと、悪い方じゃないとはわかるんだけど、ウンディーネ様との謁見は心臓に悪いよ。

 


 ただ、その後は特に問題もなく過ぎていった。

 フェルメールさんのガイドの下、エスカルロの名所を存分に楽しんだ。

 海底都市ならではの要素もたくさんあった。


 人魚コンサートや人魚リレー、タートルゲーム。

 タートルゲームとは、キングタートルの甲羅に乗って弓矢で的を射抜く遊び。

 俺がルミナス牧場でやっていた乗馬のキングタートルバージョンだ。


 個人的に一番楽しかったのは人魚のコンサートかな。

 人魚の歌声は美しい事でとても有名なので、それを間近で聴くことができたのはアイリス達への良い土産話になったと思う。

 

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次回の投稿は2022/11/25となります!

今回より、次回の投稿日も合わせて記載して参ります!

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