第50話:復興後のルミナス牧場
ミネルバに牛乳が届くようになって三日後、俺はルミナス牧場に再び訪れていた。
今回の目的は観光で、ルミナス牧場に行ってみたいという、セフィリアさんからの熱い要望だった。
セフィリアさんもいつものメイド服ではなく私服だ。
浅緑色の着物に、丈の長い黒色のスカートを穿いている。
町娘のような素朴な服装は、目新しく映って、別人のように感じた。
「ご友人様、私の頼みを聞いて下さって本当にありがとうございます」
セフィリアさんはお礼の言葉を述べて丁寧にお辞儀をした。
「喜んで頂けて幸いです。俺に出来る事といえば、これくらいですから」
日頃からお世話になっていたので、今回の要望は、セフィリアさんに恩返しができる絶好の機会だった。
入り口には立派な門があり、小さな看板がかかっている。
敷地はとても広大で、その中央には新築したばかりの母屋と家畜小屋があった。
隕石の傷跡はすっかりとなくなっており、敷地には馬などが放し飼いにされていた。
「随分と立派な建物でございますね。ご友人様はどのあたりを担当なさったんですか?」
「俺は母屋の一部かな。あの二階の窓は俺も手伝ったよ」
「どうりであの窓の周りだけ、神々しい赤い光が発せられてるように感じました」
たしか現女王陛下は、出生時に全身から金色の光を発して、人々を大いに驚かせたという謎の逸話がある。
今の発言も、故事になぞらえたお世辞的表現なんだろうけど、建物から赤い光ってそれ完全に火事じゃん。
セフィリアさんの天然さを再確認しながら、まずはウサギとの触れ合いができる《ラビットハウス》に入った。
セフィリアさんは俺と同じく、モフモフとしてる生き物が好きなのできっと喜んでくれるだろう。
牧場で飼育されてるウサギの数は50羽ほどで、オーソドックスな白色から黒色のウサギまでたくさんいる。
目に星が浮かんでるかのごとく感動するセフィリアさん。
さっそくウサギを抱いて優しく背中を撫でている。
「ふわふわした手触りとモフモフした弾力が最高でございます」
セフィリアさんは大変満足して下さったようだ。
普段はポーカーフェイスのセフィリアさんがここまで表情を崩すなんてウサギはすごいね。
また、セフィリアさんは小動物に人気があるようで、最終的に30羽近くのウサギに囲まれていた。
頭にウサギを乗せたり等、セフィリアさんのお茶目な一面を見ることができて大満足だ。
さーて、俺もウサギと触れ合うか。たくさんモフモフしたい。
ニンジンの切れ端を食べさせようとウサギに餌を渡すと、ニンジンではなく指を噛まれた。
なんでや!
ラビットハウスには一時間ほど滞在した。
次は、隕石が落ちた地点に赴く。
そこには巨大な隕石が台座に乗せられて展示物みたいになっていた。
意外に思えるかもしれないが、隕石は牧場から撤去されてない。それどころか観光名所の一つとして再利用されている。
この隕石を目当てにやってくる人も多く、隕石の周りには観光客が集まっていた。
転んでもただでは起きない所に人間のしたたかさを感じる。
そんな具合でルミナス牧場は無事に復興が進んでいた。
この調子なら半年後にはもっと人が増えているだろう。
「噂には聞いてましたが、随分と大きな隕石ですね」
セフィリアさんは隕石を眺めながら感心した。
「セフィリアさんなら真っ二つにできるんじゃないですか?」
腰に装備されてる聖剣を眺めながらそう言った。
もちろん本気で言ってるわけではなく、ただの冗談みたいなもんだ。
「ご友人様、流石の私でも隕石は斬れませんよ」
セフィリアさんは真顔でそう答えた。
流石に難しいかー。
まあ、隕石なんてしょっちゅう落ちてくるものじゃないから、あまり気にする必要はないだろう。
数秒ほど間をおいて、セフィリアさんは言葉を続けた。
「ですが、後ろにご友人様がいらっしゃるなら話は別ですよ」
「え? それってどういう……?」
セフィリアさんは、その問いには答えず、無言で隕石へと視線を戻した。
彼女の横顔は騎士としての風格があり、やっぱりセフィリアさんはかっこいいなと、改めて思った。
その日は丸々一日牧場の観光に費やして、牧場の母屋に一泊させてもらうことになった。
今日の晩ごはんは牧場主特製の美味しいポトフ。あっさりとした味付けのスープに、ジャガイモの甘みが加わって、大変美味しかった。
夕食後、俺達は夜の十時過ぎには同じ寝室で就寝した。
朝、目が覚めるとセフィリアさんの姿が部屋から消えていたので不思議に思っていると、空気を切るような素振りの音が聞こえてきた。
窓から外を眺めてみるとセフィリアさんが木刀を振って剣の鍛錬をしていた。
朝の鍛錬を邪魔するのは悪いと思ったが、興味本位でセフィリアさんの所に行ってみる。
彼女はこちらに気づくと、いつもと同じように、丁寧にお辞儀をした。
「おはようございます、ご友人様」
「おはようございます、セフィリアさん。こんな朝早くに鍛錬をなさってるんですか?」
「はい、もう習慣になってますから」
セフィリアさんは、ごくごく自然な口調でそう答えた。
「ということは、ほぼ毎日!? それはすごい!」
言うは易し、行うは難し。毎日続けるのは意外と大変なモノだ。
セフィリアさんほどの才能のある方でも努力って怠らないんだなぁ……。
俺も見習わなくてはいけないね。
その後、鍛錬の様子を見学させて貰う中で、お話を続けながら、昨日の出来事を順番に振り返っていく。
やはりセフィリアさん的にはラビットハウスが最高だったようだ。
帰る前にもう一回立ち寄ってみようかな。
突然、セフィリアさんに異変があった。
鍛錬の最中、小さくせき込んだのだ。俺はびっくりしてセフィリアさんに走り寄った。
「だ、大丈夫ですか?」
「すいません、前回風邪を引いた時から、ちょっと体調を崩しやすくなっているみたいです」
前回というのは一か月前の事だ。
緊急クエストが始まる直前、俺はセフィリアさんに魔王の件を依頼をした。
セフィリアさんは、その時に長風呂が原因で体調を崩してしまった。
一週間くらいベッドから動けなくなっていたそうだ。
ちなみにセフィリアさんが動けない間、彼女の上司であるティルルさんが魔王の対応していたそうだ。
俺がその事を知ったのは、緊急クエストが終わった後のことだった。
帰って来て早々、セフィリアさんが突然謝罪をしてきた時はマジでびっくりしたなぁ……。
「セフィリアさん。あまりご無理はなさっちゃいけませんよ。アイリスが心配します」
夏が近づいているとはいえ、早朝は肌寒さがある。
風邪を悪化させる原因になりえるだろう。
セフィリアさんは真面目だけど、あまり自分で体調管理ができる人ではない。
休暇で来たのに体調を崩したら元も子もない。
俺はやんわりと、このあたりで鍛錬を止めるようにと促した。
「承知しました」
「それでは部屋に戻りましょうか。その木刀は俺が代わりに持ちますよ」
セフィリアさんは頷いて、俺に木刀を渡して、俺と一緒に客室へと戻っていく。
「ご友人様、昨日は本当にありがとうございました。とても楽しくて久しぶりに童心に戻れたような気がします」
セフィリアさんは改めてお礼の言葉を述べた。
「こちらこそ、セフィリアさんと一緒に観光できて、楽しかったです。もしセフィリアさんさえよければ、また今度、どこか他の所も一緒に観光しませんか?」
「もちろん構いませんよ。私の方も同じように思っていた所です」
俺からの誘いを、セフィリアさんは快く了承してくれた。
よし、これでセフィリアさんも遊びに誘うことができるようになったぞ。
この調子でどんどん交友を深めていきたい所だ。
帰りの馬車に乗ったのは、それから二時間後のことだった。
ミネルバに到着したのはその日の夕方頃となった。
ブックマークと星5お願いします!
皆さんの応援が執筆の励みになります!
次回は2022/10/10の19:00に更新します。次回は重大報告あります!




