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第49話:休暇と射的

 復興作業が始まって二週間が経過した。

 ちょっとしたトラブルはあったが復興は順調に進んで、家畜小屋が完成したことで牛や馬といった家畜たちが続々とルミナス牧場に帰ってきた。

 ほぼ毎日働いていた俺は、イゾルテさんの提案で休暇を一日もらった。

 アイリス、マルス、レラの三人も同日に休暇をとって、俺達は再建された家畜小屋に遊びに訪れた。

 小屋の中では、従業員がピッチフォークを使って牛に牧草を与えていたので、その様子を四人で観察する。


「たくさん食べますねー。一日中眺めていられる気がします」


「わかるよその気持ち。俺もアイリスがお菓子を食べている所、ずっと観察できるもん」


「もう、ロイド様ったら……。

 そんな言い方をすると、まるで私が牛さんみたいじゃないですか」


「ほい、アイリス」


 アイリスのおくちに白色のマカロンを放り込む。


「おいひい! って、なにさせるんですかー!」


 アイリスは可愛らしく怒る。

 すごくかわいいので自然と表情が緩む。


「もう、先生。

 かわいいからって、あまりアイリスさんをからかっちゃいけませんよ」


 マルスにやんわりと咎められた。


「見てくださいロイドさん。あそこで乳搾り体験ができますよ」


 レラが家畜小屋の奥を指差す。

 そこでは牛の乳搾りができるようで、数名の冒険者が乳搾りを体験していた。


「牧場の定番だな。俺達もやってみようか」


 三人は同時に頷いた。

 さっそく俺達も参加してみた。まずは乳搾りのコツを従業員からレクチャーしてもらった。


 従業員は牛の乳頭のつけねをおさえて、下に引っ張り出すように指を閉じた。

 すると乳が綺麗に発射された。乳は木製のバケツの中に溜まっていく。


「中指から小指までを使って、優しく指を閉じれば自然と発射されます。最初はコツが必要ですがすぐに慣れたら簡単ですよ」


 従業員の指示に手本に従って、アイリスが乳搾りに初挑戦する。

 最初は狙った場所に発射する事ができず、自身の顔にかかったりもしたが、次第に慣れて乳を集めることができるようになった。


「すごく楽しいですね!」


 初めての乳搾りにアイリスは感動していた。

 楽しそうで何よりだ。


 残った俺達も順に乳搾りをチャレンジしていく。

 俺の場合、初挑戦ではなく二回目の挑戦だった。

 ルビーと一緒に牛の乳搾りをした記憶がおぼろげに残っていた。

 とはいえ、十年くらい昔の記憶なので、その手触りは完全に忘れており、牛の乳頭に触れた時、柔らかさと温かさにちょっと感動した。

 やっぱり、おっぱいっていいね!


 また、取れたての牛乳を飲むことができるサービスもあるそうだ。

 もちろん四人とも答えは同じ。


「「「「はーい! もちろん飲みまーす!」」」」


 従業員は慣れた手つきで空き瓶にミルクを注いでいく。

 宝石のように輝く白色のミルク。

 見るからに美味しそうだ。


 町で飲む牛乳よりも口当たりがまろやかで甘みがあるように感じた。

 信頼できる仲間と一緒に飲むのだから美味しいと感じるのは当然か。


 他には、山羊にニンジンをあげたり等、この午前中だけでもたくさんの動物と触れ合う事ができた。

 正午になったので一旦ベースキャンプに戻り、四人一緒に昼食を取った。


 今日の昼食は牛乳たっぷりのホワイトシチューだった。

 これまでは牛乳抜きの配給ばかりだったので、ここにきて昼食が覚醒した。

 料理係が大鍋でまとめて作ったので、味もしっかりと効いており、特にスープはクリーミーだ。


「初日はどうなるかと思いましたが、皆さんが頑張ってくださったおかげで、牧場も順調に元の姿を取り戻してますね」


「いえいえ、アイリスさんのおかげですよ。

 アイリスさんが寝る間も惜しんで土地を修復してくださったから、こうやって皆さんが笑顔でいられてるんですよ」


 レラがアイリスを称賛した。

 その言葉にアイリスは照れくさそうに頬を赤らめた。


「そういうレラもよく頑張ってたじゃないか。

 人と協力するのがあまり好きじゃないお前が、他の冒険者達に混ざって作業をしていたのを見た時は、昔のお前を知っているだけにちょっと感動したぞ」


 マルスがいじわるな笑みを浮かべてレラに言った。


「もう、マルスくん。

 そんな言い方をすると、アイリスさんが勘違いするじゃないですか。

 言っておきますが、私は昔からコミュ力抜群でしたよ。

 出会って3秒で友達が私のモットーです」


「そうかー?

 最初期なんて『人間となれ合う気なんてありません。この弓矢で頭部を射抜かれる前に森から消えなさい』って、今と真逆の事を言ってたじゃん」


「ぎゃあああああああ!? それ守護者時代の黒歴史だからやめてくだしいいいい!」


 レラは、顔を真っ赤にしてマルスの口を塞ぐ。


「昔のレラさんは孤高の人だったんですね。かっこいいです!」


 とアイリスは目を輝かせる。

 言われてみれば、最初に会った頃のレラは、あんまり他人に興味を示さなかったな。

 俺やマルスには例外だったけど、基本的に他人には無関心だった。


 彼女も今回のクエストを通して精神的に成長したのかもしれない。


 昼食後、食後の運動をやりたいなと思って牧場を散歩してると、数名の従業員が牧場の中央でなにやら設置作業をしていた。

 三メートルくらいの木の棒を地面に突き刺して、橙色のインクが塗られたまとを目線の高さになるようにぶら下げていく。


 気になった俺達は彼らに話しかけた。


「なにをなさっているんですか?」と俺は訊ねた。

「当時人気だった射的ゲームを再開させようと思っているんです」

「射的ゲーム?」

「ルミナス牧場では、観光客を楽しませるためにいくつかミニゲームがあるんですが、その中でも射的は一番人気のゲームだったんです」


 従業員はルールを説明する。

 牧場の各所には設置されている30個のまと

 それらの的を時間内にいくつ射抜く事ができるか、というルール。


 1~10点 C

 10~20点 B

 20~30点 A


 一つの的を射抜くごとに一点ずつ加算される。ただし、同じ的を何回も狙っても点数は変わらない。

 プレイヤーの矢立には10本という上限があるので、牧場の各所にある補給台を経由しながら矢を補給していく。


「こんな感じのルールです。あと一時間ほどで設置が終わりますので、そのあとチャレンジしてみますか?」


「ええ? いいんですか?」


「はい、牧場再開後初めてのチャレンジャーなので、バランスを確認する上でのテスター的な役割になってしまいますが、協力して下さればグッズも差し上げますよ」


 牧場主は大きな牛のぬいぐるみを俺達に見せた。

 ゆるい顔をしている牛さんだ。お腹を押すとモーと鳴くらしい。


「わあ、とてもかわいいぬいぐるみさんですね!」

「お前の方がもっとぬいぐるみさんだよ」

「先生そこは、お前の方がもっとかわいいよ、が正しい返答ですよ」

「ああ、そうだったな」

「ねえねえ、マルスくん。この牛さんとてもかわいいですよー」


 レラもアイリスを真似してマルスに訊ねた。


「お前の方がもっとかわいいよ」

「え!? いや、本当にそんな事を真顔で言われると照れると言いますか……」


 二人はイチャイチャし始める。


「二人は仲が本当によろしいですね。ほほえましいです」

「ですな」


 俺は射的ゲームにチャレンジする事にした。

 マルスも参加するようで、どちらが多くの的を多く射抜けるかという内容で勝負する事になった。


 まずはマルスの方からチャレンジ。

 こういうのは、あとから始める方が勝率がいいと噂されるので、俺はさりげなくマルスに先行を譲った。


「地味にセコイですね、ロイドさん」


 レラは呆れた表情で俺を見ている。

 大人げない後輩ですまない。どんな手を使ってでも俺は先輩マルスに勝ちたいのだ。


「まずは俺の番だな」


 マルスは勢いよく馬を走らせた。

 ピュン、カン、ピュンピュン、カン、ピュンピュン、カン、カン、ピュンピュンピュン……。


「最終結果は12点ですね」

「くそー、負けたか」


 すごく反応に困る点数だ。

 全然ダメだったり、惜しかった点数だったらこちらも反応できるんだが……。

 マルス自身は得点関係なく楽しそうだからいいか。


 マルスを労おうと口を開きかけた時、従業員たちの話し声が聞こえてきた。


「くくく、バカップル共め。俺達がわざと難しい角度に的を設置したとは思うまい」

「しょーもない点数を取って恥をかくんだな」

「カップル死すべし、慈悲はない」


 なんという心の狭さ。そんなんだからモテないんだよ。

 一気にこのゲームに闇を感じた。

 なるほど、彼の策略でマルスは犠牲になったのか。


「ロイド様頑張ってください!」

「弓矢は苦手だからあんまり期待しないでくれよ」


 馬上で一言そう述べて、馬を颯爽と走らせる。

 アルテミス以外の馬に乗るのは結構久しぶりだ。

 馬上で弓を射るのは中々難しそうだが、はてさて、果たして俺に的を射ぬけるだろうか。


 一本目の矢は的から大きく逸れた。

 なるほど、この弓はこういう感じの動きをするのか。


 二本目、三本目も外したが、放たれた矢は徐々に的へと近づいていく。


 そして四本目、俺が馬上から射た矢は見事、まとの中央にヒットした。

 アイリス達の方から歓声が上がる。


「ふむ、だいぶコツを掴んできたな。そろそろ本番と行くか」


 マルスの動きでどこが難しい地点なのかは、すでに把握している。

 それを頭に入れた上で最適なルートを割り出す。


 難しいと言っても狙っている的は動かない。

 大切なことは馬の速度だ。

 前職では馬上で魔法を放つ事も多くあった。だから偏差撃ちは慣れている。

 その後、一本も外すことなく、牧場に点在するすべての的を射抜くことに成功した。


「あひい!?」

「さ、30点!?」

「いくらなんでも上手すぎる!」


 俺が満点を取った事で衝撃を受け、従業員たちは一斉に腰を抜かした。

 ふう、なんとかマルスの仇は取れたようだ。


「ロイド様! 本当にお見事です! 弓矢の達人ですね!」

「流石です先生」

「今から私の里に来ませんか? 森の守護者として推薦しますよ!」


 レラは目を輝かせて俺をスカウトする。

 そういえば、エルフ族の中で弓矢の技術はとても重要な要素だったな。

 

 最終的に牛のぬいぐるみを二個手に入れた。

 俺とマルスはそれぞれの女友達に献上した。

 二人ともすごく嬉しそうだ。喜んでくれて何より。

 頑張った甲斐があったよ。

 牧場の復興を実感しながら俺達は日が暮れるまで遊んだ。


 翌日、俺達は作業を再開した。

 休暇を挟んだおかげで俺たちのコンディションは絶好調だ。

 イゾルテさんの宣言通り、ルミナス牧場は一か月で復興した。

 その一週間後には、またミルクが届けられるようになった。

 めでたしめでたし。

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4回目から矢が、的に当たっているので、27回目では?
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