第48話:信頼関係
本格的な復興作業は二日目以降と決まり、初日の活動はそれで終了した。
その日の夕食はみんなで豚汁パーティ。
みんなで囲んで食べる豚汁はとても美味しくて、参加者全員の絆が高まるのを肌で感じた。
「あったけえ……」
豚汁を飲みながらマルスが言った。
「なんの変哲もない普通の豚汁なのに、今日はやけに美味しく感じますね」
レラの言葉に俺は無言で頷いた。
夕食後、ベースキャンプを離れて魔法の鍛錬を行っていると、イゾルテさんがやってきた。
彼女の金色の髪は夜間でも見事に輝いていて、ほどけたターバンみたいに腰付近まで流れている。
「鍛錬中に申し訳ないが、いま少し時間は空いてるか?」
「大丈夫ですけど、何か俺にご用ですか?」
「個人的に相談したい事があるんだ」
相談?
俺からイゾルテさんに相談する事はあっても、イゾルテさんの方から相談してきた事は一度もなかったので、俺は首を傾げた。
でも、俺自身の気持ちとしては素直に嬉しい。
断る理由もないので、イゾルテさんの相談を快く受け入れた。
「俺で良ければなんなりと仰ってください」
「うむ、そう言ってくれると私も心が軽くなるよ。実は、土地の整地策で少し悩んでいるんだ」
土地の整地策かー。
これはまた長くなりそうな話だ。
魔法とは全然関係のない内容なのも俺にはちと難しい。
立ち話もなんなので、俺は土魔法によってベンチを設置して、そこに二人で腰かける。
「ギルド長の質問に答える前に土地の整地って具体的どんなことやるのか、俺の方から聞いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ、詳しく話そう」
イゾルテさんは解説した。
現在、牧場の周辺は隕石の影響で急な傾斜や大きな段差などがあちこちにできている。
とてもじゃないが建築ができるような土地ではないので、まずは土地を平たくする必要があるとの事だ。
「お前の意見を聞かせて欲しい」
真剣な顔で俺を睨んでいる。
いつもながら、目力が強くてちょっと怖い。
だけど、かなり真面目な相談だ。
話ぶりから察するに基本的な知識は所有してるみたいだ。
次期領主として様々な事を学んでいたのかもしれない。
正直なところ俺の方からアドバイスできるようなことはない。
ただ、これまでの整地として大きく違うのはドワーフを用いるところだ。
「基本的な流れはギルド長の仰っている手法で問題ないと思います。
素人目から見ても、特別おかしいと感じるような部分はありませんでした」
「それなら、コッコロ坑道からやってくるドワーフはどう扱えばいいと思う?」
「ウチの冒険者と同じように扱っていいと思いますよ。
もし心配でしたら、ドワーフが到着した初日にドワーフレスリングを開催するのはいかがでしょうか?」
「ドワーフレスリング? なんだそれは?」
イゾルテさんは怪訝な顔をする。
どうやらドワーフレスリングの存在は、イゾルテさんにも認知されてないようだ。
あの世界チャンプって本当に世界を制してるのか?
ドワーフレスリングのルールと、彼らがその競技を大変好んでいることを彼女に伝えた。
「なるほど、結構面白そうだな。
せっかくだから優勝した奴に指揮権でも渡すか」
イゾルテさんは冗談混じりに笑った。
さらっととんでもない事を言ってるような気もするが、よく考えるとイゾルテさんも昔はガチガチの武闘派だったわ。
聖騎士って実力至上主義っぽいからな。
体育会系は新たな体育会系を呼ぶ。
これぞ筋肉のバトンだ。
「色々と助かった。とても参考になったよ」
「ギルド長の力になれて良かったです!」
俺はそのように答えた。
その後、イゾルテさんは立ち去り際に、
「ところでロイドよ、私たちも知り合ってそろそろ半年になるんだ。
そらそろギルド長ではなく、イゾルテと気軽に呼んでくれてもいいんじゃないか?」
わお!
イゾルテさんの方から名前で呼ぶ事を認めてくださった。
「よろしいんですか?」
「本人が呼んでいいと言ってるんだから全然問題ないぞ」
「それじゃあ……イゾルテ、さん」
「なんだか他人行儀だな。やり直しだ!」
イゾルテさんはまた笑った。
聖騎士でも、貴族令嬢でも、ギルド長でもない、『普通の女性』としての優しい笑顔だった。
この笑顔を見れただけでも相談に乗った甲斐があったな。
本当の意味でイゾルテさんと『友達』になれた瞬間だった。
ドワーフがやってくるまでの数日間、冒険者たちは瓦礫の撤去作業に尽力した。
男女問わず一丸となって瓦礫を撤去する冒険者たちの姿は感動的で、人々のために懸命に働くその姿は後世の見本となり得る素晴らしい光景であった。
ドワーフが合流後、イゾルテさんは俺の献策に従ってドワーフレスリングを大会を始めた。
最終的に指揮権はドワーフ側になった。
ドワーフが陣営に加わると作業の効率はさらに良くなった。
彼らは建築の知識にも明るい筋肉人であるため重い木材も一人で担ぐことができる。
うんうん、良い調子だ。
やはり世界チャンプの言っていたとおり、筋肉はジャスティスだな。
だが、四日目以降からは『不穏な空気』が流れ始めた。
男性冒険者たちの間で空前の筋トレブームが到来したのだ。
事の発端は、重い木材を一人で運ぶドワーフを眺めていたアイリスが発言した、
「あんな重いものを一人で運べるなんてかっこいいですね!」
という何気ない一言である。
「私、筋肉モリモリの男性が大好きです!」
という意味合いに受け取ったようで、多くの冒険者たちがドワーフになろうとしていた。
ドワーフを真似して一人で木材を運ぼうとして自滅する者。
ルミナスから筋肉増強剤を6ダースほど買ってきてそれを一気飲みして腹を壊す者。
仕事中に突然筋トレを始める者などが一挙に現れた。
これまで筋トレをあまりしてこなかった魔導士職に多いんだが、
「おい、ヒョロガリ。俺と《魔法バトル》しろよ」
一人の男性魔導士が喧嘩腰で話しかけてきた。
俺は、今日何度目かわからないため息を吐いた。
作業効率? なにそれおいしいの?
そんなの良かったのは最初の一週間だけだよ。
いまはこの世の地獄みたいな状況。
筋トレのおかげで自信がついたのか、俺が活動しているエリアは、一瞬でも目が合うといきなり《魔法バトル》を仕掛けられるヤバい環境になりつつあった。
「えっと、すいません。いまクエスト中ですから。イゾルテさんに怒られますよ」
できるだけ丁寧な口調で《魔法バトル》を拒否する。
もちろん相手はまったく納得せずに怒りだした。
「はあ? Aランクの俺からの《魔法バトル》を断るだと?
新人のくせに生意気だなお前。
ちょっと他より魔法ができるからって、イゾルテ様と親しく名前で呼び合いやがって、マジ許せん。
俺は名前で呼ばれたことも、さん付けで呼んだことも一度もないのにお前だけズルいぞ」
後半にいたっては、もはや個人的な嫉妬である。
基本的に因縁をふっかけてくる連中は、みんなこんな感じだ。
白い歯を見せながら満面の笑みを浮かべる筋トレモンスター。
隙あらば相手を殴り倒そうとする危険な輩が量産されたのだ。
精神面を鍛えてくれる指導者って偉大だったんだなぁ……。
基本的に因縁をふっかけてくる連中は無視した。
その日の夕方。
マルスとレラに俺の置かれた現在の状況を相談した。
レラは大爆笑しながら腹を抱えて地面の上を転がっている。
対照的にマルスは同情的であった。
こんな薄情なエルフ娘よりマルスが一番だな。
「まあまあ、落ち着いて下さいよ先生。
理由はどうであれ、先生に話しかけてくる人が増えて良かったじゃないですか。
昔の先生はどこか話しかけづらかったし、会話のきっかけってこういうくだらない理由でもいいと思うんですよ」
マルスの意見は一理あるが俺もこういう形で話しかけられるのはあまり嬉しくない。
てか、昔の俺って話しかけづらかったのか。地味にショックなんだけど……。
「そうですよロイドさん。
現状を受け入れましょうよ。
それに考えても見てくださいよ。
すべての魔法バトルに勝利して、彼らの所持金を半分ずつ徴収すれば、あっという間にお金持ちですよ、ふひひ」
レラは涙を拭いながらマルスに続ける。
「そのお金徴収システム、みんな普通に受け入れてるけど、結構ヤバイと思うんだよね」
レラの発言に対して俺は苦笑いをした。
この《魔法バトル》は、相手に勝利すると相手の所持金を半分強奪できる、という謎ルールがある。
冒険者は実力主義の無法地帯であるため、こういった賭け事も平気で横行している。
レラの提案で冒険者になったが、徐々にブラック職であることが浮き彫りになっていく今日この頃。
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