第40話:セフィリアの剣技
ストーリーを少しだけ修正しました。
2022/08/30
骸骨戦士の等級は中級である。
特殊な能力はないので戦闘面において注意することはないが、突然地面から生えてくるので心臓に悪い。
また、ゴブリンよりも瞬発力が高いので思わぬ反撃をくらうこともある。
このような点がCランクの依頼として取り上げられる理由だろう。
コッコロ坑道に到着して俺が最初にやった事は計測器の確認である。
坑道内の気温・気圧・魔力濃度が確認できるので間接的に中の状況を把握できる。
気温と気圧は問題ないが魔力濃度が1000の数値を上回っていた。普段の数値は100なので10倍近くも濃度が高くなっている。
「計測器に異常が見られますので、坑道内のどこかで大型モンスターが出現していると思われます」
「いったん引き返しますか?」
セフィリアさんが一般人ならここで引き返しているが、彼女はマスター級なのでこのまま突き進んでも問題ないだろう。
「いえ、このまま進もうと思います。大型モンスターの正体を確認する必要があります」
骸骨戦士が出現するのは《地下3階》だ。
領域レベルも支配領域なので出現するモンスターもたかが知れている。
アルラウネクイーンのようなマスター級のモンスターが出現することはないだろう。
「承知しました。何かあればすぐにお申し付けくださいませ」
二週間ぶりにコッコロ坑道の内部へと足を踏み入れる。空気はひんやりとして肌寒さを感じた。
人の手によって整備された地下空間なので通路は碁盤上の直線的なモノだ。四人パーティが問題なく連携を組めるように想定されているので道幅も思いのほか広い。
現在、俺たちは二人しかいないので戦闘面で不自由が生じることはないだろう。
「前方にモンスターがおりますね。あれはえっと……」
「コボルトですね。初級モンスターの一種であります」
「そうそう、コボルトでございました。一目でモンスターを言い当てるなんてご友人様は博識でございますね」
セフィリアさんは尊敬の眼差しで俺を見つめる。
「専門家ほどではありませんが、ある程度のモンスターならすぐに情報として引き出せます」
「誇らしきご友人様。このセフィリア、ご友人様の謙虚さにとても感動しました。もしお嬢様より先にご友人様にお会いしていたら、私はきっとご友人様に仕えていたでしょう」
セフィリアさんの好感度が上がったぞ。この調子で昇級試験の合格を目指そう。
詠唱を唱えて目の前のコボルトを《炎の矢》で葬り去った。
「ほう」
セフィリアさんは感心したような声を発する。
その後もモンスターと戦闘するたびに、「ふむふむ」「なるほど」「これは加点対象ですね」「素晴らしい」と発言をしている。
「セフィリアさん。今の俺の点数ってどれくらいですか?」
現在の採点結果が気になった俺はセフィリアさんに話しかけた。
「ご友人様の点数ですか? えっと、なんと申し上げればいいのか……」
セフィリアさんは困ったように口ごもる。
「こちらこそ失礼しました。先ほどの発言は取り消させて下さい。受験生が点数を尋ねるのはマナー違反ですよね」
セフィリアさんを困らせてしまったので質問に対して謝罪する。
「誇らしきご友人様。こちらこそ勘違いをさせてしまうような発言をして申し訳ございません。
点数をお答えできないのではなく、最初から採点していないだけなのです」
「え? じゃあさっきの意味深な発言はなんだったんですか?」
「あれは骸骨戦士が出現した時に備えてイメージトレーニングをしていただけでございます、誇らしきご友人様」
まさかのイメトレ。
セフィリアさんの発言に衝撃を受けてしまう。
本人の性格が真面目なのは伝わってくるが、やはり変な所でズレている。
だがそこがいい! セフィリアさんの天然さは俺の癒しに繋がる。
さらに通路を進んでいくと景色が変わった。露天掘りのように切り開かれた巨大な採掘場が視界に広がっている。中央には巨大な大穴が存在し、地下の奥深くへと何キロも続いている。見下ろしているだけで穴の中に吸い込まれそうだ。
巨大な大穴の上を跨ぐように中央には何本も線路が敷かれており、定期的にトロッコが線路の上を走っている。
「どうやらここが採掘現場のようですね。見た感じ、ここで働いているのはドワーフだけのようです」
ドワーフとは人間よりも少し背丈の低い種族だ。
種族全般が採掘技能を得意としており、目の前に広がっている複雑な空中線路もドワーフ達の高い建築技能がなければ作る事は困難だろう。
彼らの作業風景を眺めていると、土嚢を担いでいるドワーフに突然怒鳴られた。
「おい、そこの冒険者! ボーっと立ってないであそこの採掘現場を手伝ってこい!」
「もしかして俺たちに言っているのか?」
俺は困惑しながら自分を指差す。
「お前たちの他に誰がいるんだ。他の冒険者たちはもうすでに持ち場に入っているぞ!」
「俺たちは作業を手伝うためにここに来たんじゃないんだが……」
「黙れゆとりが! つべこべ言ってないでさっさと働け! 最近の冒険者は指示がないとまともに仕事もできんのか!」
あまりにも理不尽すぎる。ドワーフはこちらの発言をすべて無視してそのまま自分の持ち場へと歩いて行った。
建築・採掘では右に出るものはいないが高圧的で頑固者で気性が荒いので少々接しづらい。
「どうやら他の冒険者と勘違いされてるみたいですね」
「俺たちも他にやる事があるのでこのまま無視して行きましょう」
「はい」
先ほどのドワーフの言葉は無視して先へと進んでいく。
どうやらこの鉱山では紫水晶がよく取れるみたいで、どのトロッコも紫結晶が積まれている。
「ドワーフ達の労災はどうなっているんでしょうか? かなり危険な場所で仕事をしておりますね」
セフィリアさんの口から労災というワードを聞くとは思わなかった。
地味にショックだ。
お花に名前をつけて話しかけてそうな天然オーラがあったのに労災というワードで現実に引き戻されてしまった。
セフィリアさんには一生純粋なままでいて欲しかった。
ドワーフ達は普通に線路の上を歩いているのでとても危ない。線路から落ちたらあの世へと一直線だ。
まあ、俺たち冒険者も人の事はとやかく言えないけどね。
死んだら自己責任で遺族への保障なんて一切ない。アトリエの労働環境がゴミすぎたせいで天国に見えるだけで一般人からしてみれば冒険者も大概なのだ。
現在、俺たちは採掘場の上層の地点にいる。
採掘場全体をぐるりと周回するような螺旋階段状の造りとなっているので、普通に進むと少し時間がかかりそうだ。
ちょうどその時、採掘場全体に大きな地震が発生する。そして、地響きと共に上級モンスターのサンドワームが出現した。
採掘場の最深部では全長15メートル級の巨大ワームが縦横無尽に動き回っている。
最後にサンドワームを見たのはマルスとレラに出会ったあの馬車の中なので大体四か月ぶりか?
これまでに紫水晶を捕食しまくったせいか肌の表面が紫色になっている。
このまま奴を放っておけば採掘場が荒らされて大惨事になるのは火を見るより明らかである。
いつもの《爆裂魔法》で遠距離から爆殺しようと考えたが、そういえば坑道内で上級以上の攻撃魔法を使ってはいけない制約を思い出した。
「じゃあフルグロウでいいや」
攻撃魔法がダメなら補助魔法に切り替えて対処しよう。
《全力肉体強化》を発動して、その場から中央の線路へと飛び移る。
ちょうど動いているトロッコの上に着地し、サンドワームの真上の地点まで進んだタイミングで飛び降りて一気にショートカット。
「《属性付加》」
愛杖に風属性の魔力を同時に込めて巨大な《風の大剣》を構築する。
その長さは3メートルにもおよび、重力による勢いを加えた一振りでサンドワームを頭から真っ二つにした。
切り口の部分からサンドワームの全体に風魔法のエネルギーが伝わっていき、サンドワームは木端微塵に爆散した。
それを確認後、風車のように杖を回転させて魔力を霧散させた。
それから数秒後、セフィリアさんも空中から降ってきた。
優雅に地面に着地し、メイド服に付着した土埃を払いながら丁寧に話し始めた。
「誇らしきご友人様。
サンドワームの討伐おめでとうございます。
とても素晴らしい太刀筋でした」
セフィリアさんは称賛の言葉を口にした。彼女の言葉には嫌味がないので褒められるとすごく嬉しくなる。
「ありがとうございます。試験監督の立場で今の戦闘は何点でしょうか?」
「討伐対象である骸骨戦士ではないので厳密な点数を出すことはできませんが、素晴らしいの一言に尽きます」
やったぜ。マスター級剣士に褒められて喜んでいると、サンドワームから逃げていたドワーフ達が集まってきた。
「す、すげえ! あんな巨大なモンスターを一撃で倒すだなんて信じられねえ!」
「人間にしては見どころがある奴だな」
彼らはサンドワームを倒した俺を称賛した。
偶然ではあったが採掘場の危機を救ってしまった俺。
この出来事がキッカケで俺はドワーフ達と交流を持つようになった。
今回の出会いが本格的に役立つのは、これから少し後の出来事になる。
「随分と下の階層まで落ちてきましたね。ここはいま地下何階でしょうか?」
商人から購入した地図を開くと現在地は《地下35階》と表示されていた。
サンドワームの時に道を大きくショートカットしたので、その時に何十階層も飛び越えてしまったのだ。
骸骨戦士の出現する階層は《地下3階》なのでめちゃくちゃ距離が離れている。
てか、地上まで戻るのも一苦労だな。
俺は小さくため息を吐いた。
「僭越ながらご友人様は《ゴブリンドラゴン理論》をご存知ですか?」
「《ゴブリンドラゴン理論》?」
「そこにゴブリンとドラゴンがいたとしてどちらかを倒さなきゃいけないとします。
そこでどちらを選ぶかでその人の人間性がわかると言われています」
「それと現在の状況の何が関係してるんですか?」
「へ? えっと……………………このまま深層まで突き進めばおのずと答えが見えてくるでしょう」
返答に困ったセフィリアさんは論点を変えてごまかした。
あらかじめ用意している答えと違う事を言われて戸惑った人がよくやるやつだ。
というか、深層まで進んじゃダメだよ。俺たちが目指す必要があるのは低層の地下3階だよ。
セフィリアさんの奇妙な質問は置いておくとして、俺たちは案内役のドワーフと共に地下3階へと赴いた。
地下3階への入口はサンドワームが出現した地点の直後にあった。
道なりに歩いていると上級モンスターの骸骨剣豪とエンカウントした。
「案内人様、あれは骸骨戦士ではありませんよ」
セフィリアさんの仰るように、あれは上位個体の骸骨剣豪だ。
骸骨戦士よりも一ランク上の上級モンスターであり、本来なら低層に現れるようなモンスターではない。
「もしかして階層を間違えたのではないですか?」
「そんなわけねえ。骸骨戦士はこの階層にいるはずだ」
うーん、話が微妙に食い違っているな。
嘘を言っているみたいにも思えないし、きっと何か理由があるのだろう。
「どうかなさいましたか?」
「えっと、少し考え事をしています」
「……僭越ながらご友人様。
それでしたら、このモンスターは私に譲っていただけませんか?」
「え? もしかしてセフィリアさんが戦って下さるんですか?」
「はい、ご友人様は先ほどサンドワームをお倒しになられたばかりですので、魔力を回復させるのが先決だと判断しました」
ああ、なるほど。
俺を休ませるための口実を作ってくれてるのか。
いまの俺はあんまり集中できていない。このままモンスターと戦闘するのは危険だろう。
ここはセフィリアさんの厚意に甘えよう。
「それでは頼んでもよろしいでしょうか?」
「お任せください。ご友人様は安全な場所で、ゆっくりとお休みください」
セフィリアさんにバトンタッチした。
セフィリアさんの剣技を拝見できるとわかって内心ドキドキしてる。実はまだ一度も戦ったところを見た事がないのだ。
骸骨剣豪の大きさは三メートル。
さらに腕が六本もついており、それぞれの手には剣が握られている。
複数の腕を生かした多段攻撃を得意としているので接近して戦う場合は注意が必要である。
骸骨剣豪とセフィリアさんの体格差は歴然としており、細身のセフィリアさんが子供のように見える。
セフィリアさんは鞘からゆっくりと剣を抜いて敵に向かってゆっくりと歩み寄っていく。
剣を軽く握ってるだけでまったく構えないので、一見すると無防備にしか見えない。
先に攻撃を仕掛けたのは骸骨剣豪。
六刀流というだけあってその攻撃は熾烈を極めており、雨のような斬撃がセフィリアさんに降りそそぐ。
しかし、セフィリアさんはその全ての斬撃をすべて優雅に受け流していく。
彼女の周りだけ時間がゆっくりと進んでいるような錯覚を覚えた。
音の鳴らない神速の一撃で骸骨剣豪の胴体を真っ二つにした。
門外漢の俺でもすぐにわかるほどセフィリアさんの太刀筋は洗練されていた。
最高峰の剣技は強さだけではなく美しさも同時に兼ね備えていることがわかった。
「戦闘が終了しました」
「お見事です。色々勉強になりました」
「まだまだ未熟な剣技でございますが、ご満足いただいてこちらとしても幸いです」
セフィリアさんは謙遜する。
めちゃくちゃ強いのに驕らない所はセフィリアさんの魅力である。
「今日は驚く事ばかりだな。
上級モンスターのサンドワームや骸骨剣豪を、こうも容易く葬るなんて、お前たちいったい何者なんだ?」
何者かと聞かれても、ただのDランク冒険者としか返答しようがない。
セフィリアさんも同様であり、いまは普通のメイドさんなのです。
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