第39話:Cランク昇格試験
最近、俺の周りで奇妙な事が起こっている。
他の冒険者に挨拶をすると「あひぃ!?」と悲鳴を上げて腰を抜かすのだ。
人混みを歩いていても誰かが俺に気づくと、人が海のように割れて自然と道ができる。
いったいなにがあったんだろう。
彼らに距離を置かれるような事をした記憶はないので不思議でたまらない。
「最近みんなから距離を置かれているような気がするんだが、マルスはなにかわからないか?」
冒険者ギルドは酒場と併設しており、そこでは食事を取る事もできる。
たまたまマルスが食事を取っている最中だったので相談してみた。
マルスはオークの厚切りステーキを食べていたのでもう一つ同じものを注文した。
「おそらく《オークジェネラル》の件が関係していますね」
「オークジェネラル?」
「この前のヴィッド大森林の件ですよ。先生がオークジェネラルを爆裂魔法で倒したではありませんか」
「あー、思い出した。あの巨大オークの事ね。アイツがどうかしたのか?」
オークジェネラルとは、二週間くらい前に俺が倒した巨大オークのことだ。
大した敵じゃないけど、無駄にでかいからインパクトがある。
「オークジェネラルを倒すことはとてもすごい事なんです。
他の皆さんは、そんな化け物をいとも容易く葬った先生の強さに、恐れを抱いているんですよ」
「冗談だろ? ただの巨大な豚だぜ?」
オークは豚の一種なのでトンカツにすると超美味しい。
俺が把握している基本情報はこれだけだ。それ以外に語るべき事がないもんオーク種。
動きは単純だし知能も低い。俺からしてみれば負ける方が難しいんだけどなぁ……。
「オークジェネラルをただの豚扱いする方を生まれて初めて見ました。先生は本当にすごい方ですね」
「俺がすごいかどうかは置いておくとして、オークジェネラルを倒した事がそんなにまずかったのか?」
「あの場にはたくさんの冒険者がいたじゃないですか。
先生が『一人』でオークジェネラルを倒している光景をみんな見てしまったんです」
俺が一人でオークジェネラルを倒す……。
ま、まさか!?
俺が間違ってないかを確かめるために一応聞いておこう。
「もしかしてオークジェネラルの素材って超高級なのか?」
「はい、超高級ですよ。ワイバーンより貴重ですし、全部売れば家くらい買えると思います」
名探偵ロイド。謎が解けちゃいました。
ずばり、『人の獲物を横取りするヤバイ奴』って扱いを受けているのか。
魔族もそうだけど、狩人は自分の獲物にこだわる習性があるからね。
でもアレは仕方ないじゃん。
放っておくわけにもいかないし、こっちに向かって来ていたら倒さざる得ないよ。
「いや、でも、こっちも命の危険がかかっているんだからさ。
そんな小さな事で恨まれても困るよ」
「恨み……?
まあまあ、先生の気持ちもわかりますけど、初日に話したではありませんか。
マスター級はどうしても注目を浴びてしまうんですよ。
他にも、アイリスさんの件でもご活躍なさっていました。
国際指名手配犯の黒鴉を捕まえ、《幽遠の大墳墓》の浄化にも貢献した。
これまでの小さな出来事が積み重なって、皆さんの認知に繋がったんだと思います。
ミネルバの冒険者の方は全員、先生を『マスター級魔導士のロイド』としてしっかり認識しています」
最悪だ。
マスター級に強いこだわりはなかったが、ここまで悪い噂になると心に刺さるモノがある。
人の獲物を勝手に奪う史上最悪のマスター級のロイド。
マルスはきっとそのように忠告したいのだろう。
「今さらなんだけど、やっぱり目立たない方がいいのかな?」
「もう手遅れだと思いますよ。みんな先生の素晴らしさを理解してます。この際だから受け入れちゃいましょうよ」
マルスは笑顔でそう答えた。
素晴らしさとか変に気を使う言い回ししなくてもいいよ。
ド直球にヤバイ奴と言ってくれた方が開き直れる。
「どうすればみんなと仲良くなれるかな?」
「えっと、他の皆さんに魔法の指導をなされば喜ばれるんじゃないでしょうか?
先生の使用する魔法は珍しい魔法が多いですから、会話のきっかけになると思います。
人間、よく知らないモノに一番警戒します。
逆に考えれば、先生の事を深く知れば、先生に対する見方も変わるかもしれません」
「マルスの言っている事は尤もだが、魔法の指導はちょっとなぁ……」
弟子を取れるような立派な立場でもないし、Dランクが偉そうに教えてたら、ますますヤバイ奴と思われる可能性が高い。
そもそも魔法は隠匿性が高い技術だ。師弟関係を築いて教えるのが基本となる。
ほいほいと気軽に教えていたらそれだけで他の魔導士に嫌われる。
『あいつー、Dランクの雑魚魔導士のくせに一丁前に魔法の指導してるよー。きんもー!』
『前職で超無能だったくせに冒険者では先輩面してて許せませんね。ぶっころです!』
絶対にこんな反応になる。
俺はもうこれ以上みんなから嫌われたくないんだ。スローライフ先では愛されキャラでいたい。
「なかなか難しい問題ですね。
数日考えさせてください。
先生がCランクに昇格する頃には、案がまとまっていると思いますので、その時またお話ししましょう」
「ほんと助かるよ。お前は心の友だ」
その後、オークステーキが運ばれてきたのでマルスにすべて譲った。
その日、俺は合わせてCランクの昇格試験の申請を行った。
Dランクの依頼を随分とこなしてきたので、昇格試験を受けることができるようになったのだ。
「Cランクの昇格試験は主に討伐クエストとなります。
コッコロ坑道の骸骨戦士を10体倒せばクリアとなります」
「骸骨戦士か。Cランクの依頼だったのか。
てっきりDランクの依頼だと思ってたよ」
「ロイドさまならそう思われても不思議ではありませんが、油断は禁物ですよ。彼らは中々強いですからね」
「はーい」
「昇格試験と名前はついてますが、基本はいつものクエストと同じです。
実際にCランクの依頼を引き受けてもらう形になります」
白髪でケモミミを生やした女性職員がそのように説明する。
彼女は冒険者新規登録の時も担当してくれた優しい方だ。
「クエストはパーティで臨んでも全然構いません。ご自身の安全第一でお願いします」
「へえ、仲間を連れて行ってもいいんだな」
仲間の同行までOKなのは意外だ。てっきり一人で達成するものだと思っていた。
「むしろロイドさんのようにソロで活動してるほうが珍しいですよ」
痛い所を突かれてしまった。
ソロは相手に気を使わなくて済む。でもみんなとワイワイ冒険者をやりたい。
二つの想いがあって、俺は前者をこれまで優先していた。
俺は基本的にコミュ症だからね。赤の他人に話しかけるのは今でもちょっと緊張する。
それでも昔に比べると改善したほうだ。Cランクになったら積極的に色々なパーティに参加してみよう。
「その代わり、当日に試験監督を行う騎士がやってきますから、クエストを行う日程を事前に報告してもらう必要があります」
試験監督がいるのか。これは気が抜けないな。
「なるほど、こちらの行動一つひとつに対して点数つけるのか。コッコロ坑道だけに」
「あっ、それ0点ですね。
魔導士としてのセンスはピカイチでも、ギャグはイマイチですね」
女性職員は苦笑いでそう答えた。
どうやら俺にギャグセンスはないようだ。
「試験監督はクエスト中にどれくらいの指示を出すんだ?」
「基本的に受験者側の裁量になります。
ただし、質問をされたらキチンと答えてください。
いくらクエストが成功でも、あまりにも内容が酷いと不合格になる場合もあります」
Cランク冒険者としての知識は備わっているか。
Cランク冒険者としての戦闘力は備わっているか。
この二つが主な評価観点で性格や人間性は一切見ていないそうだ。
冒険者に変わり者が多いのは人間性ではなく実力を重視しているからだ。
人間性を見られないのはかなり嬉しい。
人間性で判断されると100%落ちる自信がある。
「試験監督も危険な土地に赴くので、試験監督が危険だと判断したら、中止になる可能性もあります。
Cランク相当のクエストになるので、普段のクエストよりもどうしても危険度が高いんですよ。
詳しい説明は騎士から聞いて下さい」
「わかりました。とても丁寧に説明していただいてありがとうございます」
「いえいえ、職員として当然の事をしてるだけです」
女性職員は人当たりの良さそうな笑顔でそう答えた。
その後、試験日の日程を決めてギルドをあとにした。
試験日当日、冒険者ギルドに赴くと、予想外の人物が俺を出迎えた。
セフィリアさんが受付の所に立っていたのだ。
セフィリアさんはアイリスの従者の一人で瀟洒なメイドさんだ。
黒色のカチューシャと雪のように白い銀髪が特徴で、髪は肩付近で短く切り揃えられている。
メイド服には可愛らしいフリルがたくさんついており、荒くれ者が多い冒険者ギルドには似つかわしくない。
昨日の女性職員に呼ばれ、セフィリアさんが今回の試験官であると伝えられる。
「お初にお目にかかり光栄です。
本日、ロイドさんの試験監督を務めさせていただく、セフィリアと申します」
まるで初対面のような挨拶をするセフィリアさん。
アイリスと一緒の時に何回も喋ったはずなんだけど……。
「あんな美しい女性が試験監督なんて羨ましい!」
「Dカップか。Cランクの昇格試験クエストなのに!」
「剣聖が直々に昇格試験の監督をするなんて、やはりロイドいう魔導士は底が知れないな」
周りの反応はセフィリアさんオンリー。
なるほど、セフィリアさんの意図が読めたぞ。
見ての通りセフィリアさんは有名だ。
もし、このタイミングで身内だとわかったら不正を疑われる。
だから初対面のフリをして俺に気を利かせてくれたのか。
流石セフィリアさんだ。
「どうも初めましてロイドです。本日はよろしくお願いします」
俺もセフィリアさんに合わせて挨拶を行った。
お互いに息がぴったりだな。
ギルドを離れてミネルバ山脈行きの馬車に乗る。
そして、馬車の中で先ほどのお礼を言った。
「セフィリアさん、先ほどは俺のために演技をして下さってありがとうございます」
「え? 演技とはいったい……」
俺の言葉に対してセフィリアさんはポカンとした表情。
「え?」
「……あっ、ご友人様ではありませんか。いつもお嬢様がお世話になっております」
おい、マジで俺のことを忘れてたんかい!
思い出してくれたからいいけど結構ショックだよ。
気を取り直して話を続ける。
「どうしてセフィリアさんがこんなところにいるんですか?」
「ご領主様のお屋敷にご厄介になっているので、ときどき騎士としてお手伝いをしているんですよ」
そういえばセフィリアさんは聖騎士だったな。
アイリスの話によると『剣聖』の二つ名を持っているすごいお方らしい。
「なるほど理解しました。
ギルド長に頼まれて、それで本日は試験監督をすることになったんですね」
「そうなります。
試験監督をするのは今日が初めてとなりますので、少しお手数をおかけしてしまうかもしれませんが、どうかよろしくお願いします、ご友人様」
セフィリアさんは丁寧な方だな。
「こちらこそよろしくお願いします。
俺もセフィリアさんが試験監督で少し安心しました。
赤の他人と一緒にクエストをすると気を使いますからね」
セフィリアさんもこくこくと頷いている。
どうやらセフィリアさんも顔馴染みじゃないと緊張するタイプのようで、俺を対応するとわかり、内心ホッとしたそうだ。
「ところでご友人様。一つご質問があるんですが、試験官って具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」
「え?」
セフィリアさんの質問にびっくりしてしまう。
もしかしてギルドで聞いてこなかったの!?
ま、まあセフィリアさんも初めてだからな。
要領が掴めない所もあるのだろう。
女性職員も『試験監督の質問にはキチンと答えて下さい』と言ってたから試験の一環と考えて答えていこう。
「えっと、不正がないか確認すればいいと思いますよ。
一応昇格試験なので、もしかするとチェックシート的な書類を渡されたかもしれませんね」
「評価項目……。もしかしてこれのことですか?」
セフィリアさんはポーチから書類を取り出した。
「それですそれ。
俺は受験生なので確認できませんが、俺の動きに合わせて評価をお願いします」
「なるほど。ご友人様はお詳しいのですね。試験監督としてご友人様のクエストに立ち会えるのは本当に誇らしいです」
「そいつはどうも。
なにか分からないことがあればいつでも聞いてください」
「とても助かります。
早速質問なんですが、このCランク冒険者として相応しくない実力とは具体的にどんなものなんですか?」
「えっと、骸骨戦士を倒せない奴とかじゃないでしょうか」
なんで受験生の俺が試験監督に説明してるんだろう。
だんだん心配になってきた。
セフィリアさんは良い人ではあるんだけど、これまでのメイド業務を見てきた感じ、天然な所も多い事がすでに判明している。
「骸骨戦士を倒せるか否か。
なるほどなるほど、ご友人様のおかげでCランク冒険者の目安がなんとなくわかってきました。
要するに骸骨戦士を倒せたら合格、倒せなかったら不合格ってことにすればいいんですね」
「多分それで大丈夫だと思います!」
「ご友人様のおかげで試験監督としてやっていけそうな気がします。本当にありがとうございます」
セフィリアはしたり顔でそう答えた。
少し自信がついたみたいで何よりだ。
馬車の中でセフィリアさんと世間話をした。
そういえば、セフィリアさんとプライベートで喋る機会って今までなかったかも。
休日は何をしているか質問してみた。
すると動物と戯れているそうだ。
モフモフしてる動物がとても好きらしいので俺とも趣味が合いそうだ。
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2022/08/29のお昼19:00に次話を更新します!




