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間章6:黒鴉の復活と天才錬金術師の狂気


【黒鴉視点】

 あの魔導士に敗北して私の中の価値観は大きく変わった。

 これまでの私は《盟主様》の一番になりたい一心だった。

 朝も昼も夜も盟主様の事を想って剣を振るってきた。

 煉獄殺戮団の筆頭として、盟主様のために人生のすべてを捧げてきた。

 盟主様こそ世界の中心だった。


 だが、あの魔導士に負けた事で私の中の価値観が大きく揺らいだ。

 今では盟主様への忠誠心よりも奴への復讐心が圧倒的に勝っている。

 朝も昼も夜もあの魔導士の事ばかり考えている。

 あのニチャァという気持ち悪い笑い方を思い出すだけで自然と殺意と憎悪が湧き出てくる。

 奴が私に対して敗北を認め、必死に命乞いをする無様な姿を拝みたい。


 さらに、あの魔導士は私にとって決して許せない禁忌も犯した。


 私の真名は『桜花インファ』である。

 しかし、その名前を実際に口にする者は盟主様を除いては一人も存在しない。


 私の故郷である《凛桜国りんいんこく》において真名とは己の命に匹敵する価値を誇る。

 本当に心を許した人物のみにしか明かさない本当の呼び名だ。


 武人としても、女性としても屈辱を味わった。

 決して奴を許すことはできない。


 この屈辱を癒す事ができるのは、やはり奴への勝利のみ。

 勝利でしか私の未来は拓けない。


 奴を倒すのはこの私だ。

 これだけは誰にも譲らない。



 王都にやって来て一か月が経過した。

 今の私は魔力拘束具によって魔力を練る事ができない。

 体内の魔力を拘束具に吸収されてしまうからだ。

 だが、所詮は人間の浅知恵。


 人間の上位存在である『魔人』の私にはこんな小細工は通用しない。


 深呼吸のように大気中の魔力を吸収する。

 そして、意識を《魔眼》に集中させて、魔眼の力を開放させる。


 次の瞬間、私の周囲に衝撃波が発生する。

 手足の動きを封じている忌々しい拘束具が、木端微塵に消し飛ぶほどの威力。

 拘束具だけなく、罪人を閉じ込めておくための鉄格子すらも同時に吹き飛ばした。

 鉄格子は衝撃で完全にねじ曲がり、瓦礫に塗れた廊下が露わになっている。


 あまりにもあっけない。

 実を言えば、脱出自体はいつでも容易にできた。

 私はあえてそれをしなかっただけだ。



 理由は、自分への驕りを反省するためだ。

 本来なら私はあの場で死んでいた。

 ロイドの前で気絶する事は武人としては死と同義である。

 いくら油断していたとはいえ負けは負けだ。

 私もそれくらいは理解している。

 奴の甘えによって生かされている事を自覚するために、この屈辱を甘んじて受け入れていたのだ。


 その後、大気中の魔力を操作して魔力を繊維化させ、自身の衣服を再構築する。

 囚人服からいつもの黒装束へと変化させる。

 うん、やはりこの服が一番しっくりくる。


 看守たちが爆発音を聞きつけて慌ててやってくる。

 その数は20名以上。

 そして、泰然とした態度で立っている私を見て、全員が青ざめた。


「どうかしたでごじゃるか?

 緊急事態発生でごじゃるよ、看守さん」


 私は笑顔で看守に警告した。


 その発言から数秒後、私は看守たちを全員叩きのめして全員気絶させた。

 ちなみに殺してはいない。

 私も殺し屋なりのポリシーを持っている。


 私がいま殺したいのはあの魔導士のみ。

 それ以外の連中は眼中にない。


 拘置所を悠々と脱出した私が向かったのは王都の市街地。

 ここで奴の行方を捜そうと思う。

 私を倒した魔導士なのだからきっと有名な魔導士に違いない!



 奴は私の望み通り、とても有名な魔導士だった。

 専属魔導士のロイド。

 それが奴の正体である。


 だが、それは良い意味ではなく悪い意味で有名だ。

 無能で役立たずの専属魔導士。これが世間一般でのロイドの評価であるそうだ。



 奴が無能魔導士と言われると、彼に負けた私まで馬鹿にされたような気分になるので、とても悔しい気持ちになった。

 奴は史上最高の魔導士であって欲しかった。

 それとなく「ロイドはとても強い方ですよ」とヨイショしてあげたが誰にも信じて貰えなかった。

 どんだけ評判悪いんですかこの人。



 情報収集をする中で興味深い話もいくつか耳にしました。


 奴の相方だった錬金術師が少しおかしくなっているそうです。

 新しい専属魔導士がまったく見つからず、せっかく見つかった専属魔導士とも初日で契約解除となったそうだ。

 アトリエに籠りっきりになって依頼の納期が過ぎても謝罪一つないそうだ。

 その錬金術師の事なんて私からしてみれば微塵も興味ないのですが、一応頭に入れておきましょう。

 ロイドへの手がかりが掴めるかもしれない。


 目的のアトリエは思いのほかすぐに見つかった。

 メインストリートからやや外れた路地にある。アトリエの前には豪奢な馬車が停まっていた。


 玄関は鍵が掛かっていなかったので音を立てずに入る。

 一つ先の部屋で声が聞こえるので覗き込むと、二人の男女が口論していた。


「困りますぞアルケミア卿。

 陛下はアルケミア卿とお話をしたいと仰っているのにまだ拒否するつもりですかな?」


「でもお腹が痛くて、アトリエから一歩も出られないんです」


「その言い訳はいい加減聞き飽きたですぞ。

 陛下をお待たせするのはエレガントではありませんぞ。

 そもそも、お腹が痛いなら錬金術で薬を作ればいいではありませんか。

 そのための錬金術ですぞ」


「じゃあアナタは病人に薬を作れとでも言うんですか!?」


「話にならないですな。

 他の錬金術師が作った薬の服用は断固拒否し、ご自身で薬を作る事もしない。

 陛下の使いである私はいったいどうすればいいのですかな?

 アルケミア卿のために三週間も待たされてたいへん困っているんですぞ」


「う、うるさい!

 できないものはできないんだよ!

 そもそも、錬金術をしようにも、あのクロウリーが仕事放棄したから満足に素材を集められないんだ!

 わたしに文句を言うのは筋違いだ!」


「アルケミア卿、何度も言っているではありませんか。

 陛下はその事を含めてアルケミア卿とじっくりお話をしたいと仰っているんですぞ」

 

 話を聞くかぎり、駄々をこねている赤髪の少女がルビーのようだ。

 陛下の所に行くの行かないので揉めているが、ぶっちゃけどっちでもいい。

 それよりもロイドの事が先だ。


 音を立てずに男性の背後まで近づいて、


「ちょっと失礼するでごじゃるよ」

「う!?」


 首の横に手刀を入れる。

 まずは会話の邪魔となるメルゼリア女王の使いを気絶させた。


「お主は錬金術師のルビーで間違いないでごじゃるな?」


 私は看守たちからくすねた剣をチラつかせる。


「わ、私に何の用ですか!?」


「見てわかるだろう?

 拙者の要求に答えれば命までは奪わないでごじゃるよ」

 

 ちなみに私の目標はロイド一人なのでこの脅しはハッタリだ。

 最初から傷つけるつもりはない。


「さ、先に言っておきますがアトリエはいま休業中ですよ。

 依頼はすべてお断りしています。

 何かを作れと命令されても専属魔導士がいないのでいまは作れません」


「安心するでごじゃる。

 最初からお主には用がないでごじゃる」


「は?」


 私の発言に対してルビーの声色に怒気が宿る。

 でも事実だから仕方ない。


「ロイドという専属魔導士をご存知でごじゃるな?

 お主が知っている範囲の情報でいいから奴の情報を教えるでごじゃる」


「あの男に恨みがあるんですか?」


「武人としてもう一度戦いたいだけでごじゃるよ」


 奴がいなくなって随分経ってるらしいから最新の情報への望みは薄い。

 だが、幼馴染という視点で何か手がかりが見つかるかもしれない。


 私の淡い期待を裏切ってルビーは予想外の発言をした。


「アナタまであの無能魔導士の事を褒め称えるんですか?」


「はい?」


 急に何を言ってるんだろうこの人。


「言っている意味がよくわからないでごじゃる」


「言葉通りの意味ですよ。ロイドという魔導士は無能ということです」


「無能かどうかはともかく、拙者が聞きたいのは奴の居場所で」


「私の方があの無能魔導士の数倍優秀だ!!!」


 私の質問を遮るようにルビーは大声で叫んだ。


 とてもじゃないが正気とは思えない。

 話も噛み合わないし、完全に目がイッている。


 さっさと要件を済ませて早くこの場を去ろう。


「最後にもう一度だけ聞くでごじゃるが、奴の事は本当に何も知らないのでごじゃるね?」


「何度も言わせるな! あいつは! 私のアトリエから! 私に無断で逃げ出した! 何の取り柄もない男だ!」


 話になりませんね。

 これ以上ここにいるのは時間の無駄でしょう。


 私はそう判断して踵を返す。そのままアトリエから立ち去ろうとしたその時。

 このルビーという女は思いもよらぬ異常行動をとった。


「そうだ! 良いこと思いついた!

 アトリエを襲撃されたことにしてしばらく身を隠そう!

 しばらく時間をおけば陛下も依頼のことなど綺麗さっぱりと忘れて下さるはず!」


「え?」


 アトリエを襲撃されたことにする?

 最初に剣を突きつけたから間違った事は言ってないが、後半の意味がさっぱりわからない。


「そうと決まれば善は急げ! こいつがアトリエにいる内にアトリエをめちゃくちゃにしないと!」


 ルビーは私を押し飛ばして一階の作業部屋へと走る。

 これから何をするのか気になった私は彼女のあとを追っていく。


 そして、私は衝撃の光景を目の当たりにしてしまう。


 作業部屋の中央には大きな錬金釜。

 そして、そのすぐ側にはルビーが立っている。

 手には杖が握られている。彼女の背丈とほぼ同じくらいの長さ。

 ルビーは杖を大きく振りかぶり、錬金釜に向かって思いっきり振り下ろした。


 恐ろしい事に自分の商売道具であるはずの錬金釜を突然破壊し始めたのだ。


 ガンガンガンガン!!


 何度も杖を振り下ろして狂ったように錬金釜を叩き続ける。


「壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!」


 呪詛のようにひたすら同じ言葉を繰り返している。


 な、なんだこの女……。

 頭がおかしい。

 私も人のことはとやかく言えないがこいつはヤバイ。

 私がいままで見た人間の中で一番の○○○○『ピー』だ。


 私は目の前の女に恐怖を覚えて、思わずアトリエから逃げ出した。


 恐ろしいものを見てしまった。まさかあそこまで狂った人間がいるなんて思いもしなかった。


 はやくロイドに会いたい。

 アナタを倒すのはこの私です。


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○黒鴉の一人称(※本編中ではわかりづらいので補足です)

本当の一人称は私。拙者は殺し屋としてのキャラです。激怒すると素の口調に戻ります。

ごじゃる口調も同様で、《盟主》に対しては丁寧語で話します。


2022/08/25の19:00に更新します!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり全財産貰って嘘言い続けるじゃないですかーやだー 早くもっと報われて欲しい主人公が 頑張れーと祈ってしまいます
[良い点] 意外とちゃんとした思考能力持ってる黒鴉ちゃんだった。 [気になる点] この常識人っぷりで戦闘時にあの発言とこのキャラ作り… 魔人なのでイマイチ人類の普通の範囲がわからず、売名行為が行き過ぎ…
[一言] 仲間を無能と軽蔑して活躍したら嫉妬する輩は一番厄介ですね、他の人作品だと更に憎しみに染まり邪魔をして結果倍返しに合い逆恨みしてその結果悲惨な末路を迎えるがテンプレですね
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