第37話:アルラウネ
自堕落な生活をしてるお嬢様に喝を入れて下さいとティルルさんから頼まれた俺。
お屋敷でゴロゴロしている暇人アイリスを引き連れてギルドへとやってきた。
近くの森でゴブリン狩りしてもいいけどヴィッド大森林は最近行ってなかったし、キャンプでもしながら渓流で釣りをするのも楽しそうだ。
「今回はヴィッド大森林に行こうかな。アイリスもここで問題ないか?」
「はい、あそこは渓流が素敵な楽しいキャンプ場でしたね」
アイリスも賛成のようだ。
選んだクエストはキノコパンチマンの討伐。
その名の通りキノコの形をしている魔人。
近づいてきたら腹パンしてくる野郎だ。
腹パンの威力は領域レベルにもよるが、いずれにせよ大して強くないので今回の二人旅では適しているだろう。
さくっと終わるクエストなら食後の運動にもなって一石二鳥だな。
ティルルさんからカツを入れてくださいと頼まれたからブラックピグのお肉を使ったトンカツ定食でも食べるか。
トンカツは食べると元気が出るしな。ティルルさんもニッコリだろう。
冒険者割引のある食堂でトンカツを食べることにした。
サクサクの衣に包まれた厚切りのお肉はとてもジューシーでアイリスも非常に喜んでいた。
果実と野菜をブレンドして作ったミネルバソースとの相性も絶品であっさりとした味わいだ。
昼食後、駅でヴィッド大森林行きの馬車を待っているとマルスとレラがやってきた。
「こんにちはアイリスさん。これからお出かけですか?」
「これからキャンプに行くんですよ。
ヴィッド大森林をご存知ですか?
あそこの近くにあるキャンプ場です」
俺は依頼も兼ねてだけどわざわざ訂正する必要はないだろう。俺もアイリスの言葉に頷いた。
「へえ、奇遇ですね。
私たちもヴィッド大森林に行く所なんですよ。
こっちはクエストがメインなんですけど、拠点も同じですし、クエストを終えたら一緒にキャンプしませんか?」
「その言い方、まるで俺たちにクエスト手伝えとでも言ってるみたいだな」
「へっへっへ、そうなんすよロイド兄貴」
レラは手揉みしながらそう笑った。
俺は別に構わないけどアイリスがどう反応するかだな。俺一人の旅行じゃないのでアイリスの意見も聞くべきだろう。
「私もお二人のクエストを拝見してみたいです」
どうやらオーケーのようだ。
俺は彼らと一緒の馬車に乗ってミネルバを出発した。
「ところで二人は何のクエストをやる予定なんだ?」
「ヴィッド大森林にいる《アルラウネ》の討伐です。
本来アルラウネはメインルートから大きく外れた所にいるんですが、どういうわけかメインルートの近くに出現したみたいなんですよ。
多くの冒険者が被害を受けたみたいなのでクエストとして並んでいた次第です」
マルスは依頼を引き受けた経緯を説明した。
地図を広げてFエリアの部分を指差す。
Fエリアはヴィッド大森林の中域にある。
ヴィッド大森林はとても広いのでエリアを記号で表記する事が多い。
そして、マルスが言っているアルラウネとは植物型の人型モンスターのことだ。
さまざまな付与効果を持つ花粉をばら撒いたり、遠くの敵に対して触手攻撃をしたり、洗脳蜂を使って周りのモンスターを洗脳する搦め手も使える。
なかなか油断できない相手だ。
強さ的に言えば中級上位くらいか。
俺は苦手意識があるから上級相当だと考えている。
「マルスさん、アルラウネって強いんですか?」
「結構強いですね。痺れ花粉を撒いてくるのが特に厄介です」
「他にも触手の鞭で女王様プレイしたりもしますよ」
レラが付け加える。当の本人は無意識で喋っていたのだろうが、
「女王様プレイ……? ロイド様、いまレラさんが言った女王様プレイってなんですか?」
と、アイリスは頭の上に疑問符を浮かべる。
お、お前。
元聖女のアイリスの前でなんて低俗なキーワードを口にするんだ。俺だってその辺りのキーワードは自重してるんだぞ。
アイリスも答えづらい質問してくるしどうするんだこれ。
赤ちゃんってどうやって生まれてくるの?と同じくらい答えづらい。
アイリスが女王プレイに目覚めたらどう責任取るんだ。
「女王様プレイとはエレガントに鞭を振るう事でございます」と俺は適当な説明をする。
「へえ、そうなんですね」
アイリスは納得してくれたようだ。
俺はキッと鋭い目つきでレラを睨む。
レラは「ごめんなさいー」と一言付け加えて話を変えた。
「また、アルラウネは倒すと大量の蜜玉をドロップするんですが、これがまた絶品で舐めると甘くてとても美味しいんですよ」
食欲旺盛なアイリスは蜜玉の話に見事食いついたようで先ほど以上に興味津々である。どうやら女王様プレイから話題を逸らせたようだ。
「クリーム状にしてパンに塗ったり、生地に混ぜ込んでドーナツにしたりすると最高だ」
「すごく美味しそうですね。アルラウネとの戦いの後が楽しみです」
戦う前からやる気充分のご様子。
馬車に揺られること三日、夕方ごろにヴィッド大森林の手前にあるヴィッド村に到着した。
そこで一泊して早朝から俺たちはヴィッド大森林へと入った。
ヴィッド大森林は狩場としてもかなり人気であり、俺たちの他にも冒険者は多数いた。
アイリスの顔もかなり知られてきたようで、ちょっとした有名人になっている。いろんな冒険者に声をかけられた。
中には一緒にクエストしませんかと誘ってくる輩もいたが、「申し訳ありません。今日は連れがいるのでまた今度誘ってくださいね」とアイリスは丁寧に断っていった。
隊列を組んで地図を確認しながら進んでいく。
最前列は俺とマルス、真ん中にアイリス、背後にレラ。
森の中域になってくると徐々に鬱蒼としてきた。
生い茂った葉によって太陽光は遮られて全体的に薄暗い。
ギルド側が定めているルートから外れなければリスクはほとんどないが、それでも注意は必要だ。
ヴィッド大森林は植物型のモンスターが多いため擬態しているモンスターと遭遇する可能性がある。
言ってるそばからパックンプランターが出現したな。
その全長は2メートル程度。
小さな花に擬態して普段は地中に身を潜めているが、人が近くを通るとボッコーンと地上に飛び出してくるモンスター。
大して強くないが、いきなり現れるので不意を突かれて負傷する冒険者も多い。
驚いて悲鳴を上げるアイリスに対して、俺は冷静に初級風魔法の《ウィング》を放ち、パックンプランターを真っ二つにした。
「大丈夫か、アイリス?」
振り返ってアイリスに声をかける。
「も、申し訳ありません、少し驚いてしまいました」
「いえいえ、最初はみんなそうですよ。レラも最初は驚いて尻餅ついてたんですから」
「もうマルスくん、尻餅の部分は言わないでよかったでしょ」
不機嫌になるレラと、ごめんごめんと謝るマルス。お二人は本当に仲がいいね。
俺はヴィッド大森林の地図を開きながら現在地を確認していく。
「Fエリアって大体この辺じゃないか? ほら、地図にも記載されている大きな切り株があるし」
「そうですね。ロイドさんの仰るようにここが噂のFエリアでしょう」
レラも頷いた。
「それでは昨夜も話し合ったようにロイドさんは《レイン》のサポートをお願いします。
アイリスさんもマルスくんが怪我をした時は《ヒーリング》を頼みます」
大部分の戦闘はマルスとレラが行い、俺たちはそのサポートとなる。
「了解した」
「わかりました。お二人の治療は私に任せてください」
俺の役割は天候魔法の《レイン》を使って範囲的に雨を降らせる事だ。
雨が降っているとアルラウネの痺れ粉が空気中に散布しづらくなるのでこちらが大きく有利になる。
アイリスは聖女としての力を生かして回復のサポート。
レラも治癒魔法は使えるが回復役は多いに越したことはないだろう。
本人も自分たちの役割に集中できるからな。
「先生とアイリスさんのおかげで俺たちも安心して戦えます。
本当にありがとうございます」
マルスはぺこりとお辞儀した。
「二人とも気をつけろよ。アルラウネ種はかなり強いからな」
実を言うと俺はアルラウネをかなり高く評価している。
特に最終進化系であるアルラウネクイーンは最強クラス。
領域の呪いでパワーアップする魔物の共通した特徴であるが、基本的に獣型より植物型の方が圧倒的に強い。
領域の呪いは土地に作用するため、植物型・妖精型のモンスターは呪いの影響を受けやすく、領域レベルが上がるにつれて強さが段違いに上昇する。
支配領域 アルラウネ。
危険領域 ダークアルラウネ。
未開領域 アルラウネクイーン。
アルラウネ種はステータス上昇もそうだが、何より知力も跳ね上がるのが厄介だった。
アルラウネクイーンの知力は特にずば抜けており、人間を遥かに凌駕する。
ステータスも完成しており、魔法への耐久力も異常に高く、爆裂魔法を連打しても超再生能力で平然としていたほどだ。
この化け物共と比べたら俺がこの前倒したワイバーンなんて赤ちゃんだよ。
そのような経緯があるから、アルラウネ種ではどんな時でも油断しないようにしている。
たとえそれが通常のアルラウネであってもそうだ。
辺りを見渡して呪いの浸食度を確認する。
紫色の霧もなく、空間の亀裂も発生していない。
領域レベルは 支配領域で間違いない。
支配領域のアルラウネだからさほど強くないとはいえ万が一という可能性もある。
マルスとレラを一旦呼び止めて補助魔法をかけると伝える。
「あ、ありがとうございます、ロイドさん。
レインのサポートだけでもたいへんありがたいのに補助魔法まで掛けてくださるなんて」
「いやいや、魔導士として当然の事をするまでだ。まずはレラから補助魔法をかけていくぞ」
レラの肩に触れながら詠唱をする。
魔導士の扱う補助魔法は、術式起動時に術式光と呼ばれる光が発せられる。
今回発せられた色は虹彩色だ。
全力肉体強化、全力知覚強化、全自動回復効果、全魔力消費軽減効果、冷却無効効果、雷撃無効効果、胞子無効効果、魔力回復速度向上効果、洗脳無効効果、魔法全反射、物理攻撃全反射、悪夢無効効果、睡眠無効効果、狂化無効効果、猛毒無効効果……。
「待て待て待てロイドさんなにやってるんですか!?」
レラが大声を出すので俺は慌てて詠唱を止める。
「え?」
「突然大声を出してごめんなさい。あの、いま何種類の補助魔法をかけたんですか?」
「ざっとだけど13種類くらいかな、たぶん」
あんまり数えてなかった。まあ誤差だよ誤差。
「13種類も補助魔法をかけたんですか!?」
俺が口にした補助魔法の数に動揺するレラ。マルスもちょっと怯えている。
「せ、先生、いくらなんでもその補助魔法の量はおかしいですよ」
「え? そ、そうなの? 実はこれからあと350種類くらい重ねがけしようかと思ってたんだけど……」
「「350種類もですか!?」」
二人は俺の言葉に絶句した。
どうやら俺の一般常識は一般人とはまだ少しだけズレているみたいだ。
もっと勉強して常識を身につけなければ……。
余談であるが、アルラウネはレラの放った初級氷魔法の《アイス》で跡形もなく消し飛んだ。
誰も怪我しなくてよかったよかった。これにて一件落着。
自分の魔法に唖然としているレラと、マルスの引きつった顔は見なかった事にした。
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次回は2022/08/19の19:00に更新します!




