第35話:幽遠の大墳墓
マルス達と再会して二週間が過ぎた。
俺は冒険者ギルドから引き受けたクエストを順調にこなしていた。
受付職員の話によると、あと二つほど依頼をこなせばCランクに昇格できるそうだ。
仕事だけでなく私生活も順調だ。
ワイバーンのお肉と素材を売った事で財布も潤い、一年ほど働かなくても問題なくなったからだ。
というか、ワイバーンがあんな高く売れるとは思わなかった。
またワイバーン現れないかな。100匹くらい同時に現れたら一瞬でお金持ちになれるじゃん。
「今日は何のクエストをやろうかな。まだ決まってないけどなんとかなるだろう」
そんなある日、冒険者ギルドで依頼を選んでいるとイゾルテさんより声をかけられた。
イゾルテさんは女王陛下からご依頼があったことを俺に伝え、ピンク色の手紙を渡した。
その差出人はメルゼリア王国の女王陛下である。女王陛下の直筆のサインもあった。
手紙の文面を読んでみると、《幽遠の大墳墓》で土地の浄化を行うアイリスの護衛を頼みたいとの事だ。
「アイリスにも同じ内容の手紙が届いているのですか?」
「ああ、もちろんだ。お前とアイリス宛てに一枚ずつ。私に対しては、それを伝えるようにという手紙が届いた。わかっているとは思うが、女王陛下のご依頼だから断るのはできれば控えてくれ」
「別に断ったりしませんが、どうしてアイリスの護衛者が俺一人なんですかね? 護衛の数が少なすぎるのも気になりますし、俺はまだDランクの冒険者ですよ。アイリスの護衛としては力不足だと思います」
本来、土地の浄化を行う際は、複数のベースキャンプを配置してお互いに連絡をとりながら慎重に行うものだ。
それはすべて聖女の安全を守るため。
聖女は国宝であり、呪いに対抗できる唯一の生命線である。
だが今回は俺以外に誰も護衛者がいない。
さらに、アイリスとロイドの二人で依頼を達成せよと、わざわざ文言を追加している。まるで他の介入を許さないような感じだ。
「すまん、それは私にもわからない。
女王陛下はたまに何を考えているのかわからないことがあるからな。
強いて可能性を挙げるなら、お前がワイバーンを単独で討伐した事を手紙で伝えたら、お前に対して女王陛下がやけに食いついてきたな」
絶対にそれやー! なに勝手に伝えとんねんイゾルテ氏。
お土産に渡したワイバーンのお肉が美味しくて、その喜びのあまり俺の事も説明してしまったのだろうか。
でも困ったな。
ワイバーンの件は俺がすごいわけではなく最上級魔法がすごいだけなのだ。
ライトニングストームさえ使えるなら誰にだってできることだ。
実を言うと、このタイプの仕事をするのは今回が初めてだ。仕事風景も実際に見たわけではない。あくまで情報として知っているだけ。
だから、アイリスを護れるかどうかちょっと不安である。
「お前が不安に思うのも無理はない。
だが案ずるな。
陛下がエレガント以外のことで、他人に興味を持つなんて滅多にないんだ。
お前はその名誉ある一人に選ばれた。
だから自信を持ってアイリス様をお守りしてくれ」
イゾルテさんがそのように太鼓判を押すのなら信じてみようかな。
もしかすると名誉回復にも繋がるかもしれない。
ワイバーンを倒しただけで女王陛下に興味を持たれるなんてな。世の中何が起こるかわからないもんだ。
目的地の《幽遠の大墳墓》は、ミネルバから日帰りできる距離にあるほど近い。
ここはサウスライト地方で最も巨大な墓地エリアであり、墓地の近くには大きな湖エリアが存在する。《ヴィッド大森林》ほどではないが森林地帯も広がっている。
《幽遠の大墳墓》は、これまで支配領域程度だったが、一週間ほど前からハイオークやシャドウの姿も確認されており、危険領域の兆候があるようだ。
危険領域になるとモンスターの脅威度が一気に上がるので、そうなる前に土地の浄化を任せたいとのことだ。
目的地に到着後、すぐに馬車から降りて、墓地を歩きながら全体を見渡す。
「魔力の霧が漂い始めているな」
10秒に1回ほどのペースで、空間にヒビが入るような現象が発生している。
紫色の霧も漂っており、かなり危険な状況。
これは呪いが進行している証であり、あまり良い傾向とは言えない。
一部のエリアは危険領域に突入しているかもしれない。
「申し訳ありません。ロイド様まで巻き込んでしまうなんて」
現在、この場には俺とアイリスの二人しかいない。アイリスが誇る剣聖セフィリアは同行していない。
「いやいや、気にするな。毒を喰らわば皿までという言葉があるだろ?」
「私は毒ですか?」
「違うんだアイリス! そういうつもりで言ったわけじゃないんだ」
俺は慌てて弁解する。
すると、アイリスはくすりと微笑み、
「ふふっ、冗談ですよ。この依頼が終わったら屋敷で一緒にメルゼリアパイでも作りましょう」
微妙に死亡フラグっぽい台詞だ。
死ぬつもりはないけどさ。
まだ支配領域だし、なんとかなるだろう。未開領域で二週間不眠不休で素材を集めていた頃よりは楽勝のはず。
「ああ、めちゃくちゃ甘いメルゼリアパイを作ろうな」
「それではロイド様、私が浄化を行うまで護衛をよろしくお願いします。秩序神エメロードの祝福があらんことを」
「おう、任せておけ」
アイリスは持ち場へと入り、その場で詠唱を開始して土地の浄化を始める。
アイリスの周りに超巨大な魔法陣が浮かび上がる。
その規模はなんと《幽遠の大墳墓》の全体を包み込むほどだ。
聖女の仕事風景を見たのは生まれて初めてなので他とは比較できないが、よくわからんがすごいことやってるのは肌で理解できた。
アイリス曰く、土地の浄化中は魔物が一時的に活性化するので注意が必要との事。
森の中からナイトコボルトとウォーリアーゴブリンが20体ずつ同時に現れた。
いきなり湧きすぎだろ。
少しびっくりしたが、落ち着いて上級魔法の《氷槍》を彼らに放ってまとめて吹き飛ばした。
彼らの殲滅後すぐに第二波がやってきた。
今度はハイオークが大量に現れた。ざっと数えた感じ40体くらいいる。
ここまで大量のハイオークだと上級魔法を放つだけでは処理が追いつかない。
こちらも《マジックコンボ》を意識した構成で上級魔法を使わねばなるまい。
水魔法と土魔法を融合させた上級魔法の《泥沼》を発動する。
ハイオークがいる地点一帯を沼地状に変化させ、ハイオーク達の動きを封じていく。
奴らが動けなくなったのを確認後、即座に詠唱を行い、地属性・水属性・炎属性・風属性の大量弾幕を展開して、無数の魔法攻撃がハイオーク全体を次々と仕留めていく。
その後もハイオークやら、シャドウやら、報告されていた魔物達が次々と湧いてくるも、《泥沼》からの魔法の一斉射出で片付いていく。
すると突然、森の奥で巨大な魔力反応を感じた。
この魔力の放出量……まさか不死の王か!?
薄々予感はしていたが、やはり危険領域に突入していたか。
不死の王は、モンスターを蘇生させるネクロマンサーの能力を持っているため、野放しにしておくのはかなり危険だ。
一刻も早く処理せねば。
魔力反応は北に1キロほど進んだ先の森か。
とりあえず、その地点に向けてマスター級の《爆裂魔法》を20発連打する。
ズドーン!ズドーン!ズドーン!ズドーン!
空気が急激に膨張して衝撃波が発生し、爆風がこちらまで届いてくる。さらに森をなめつくす劫火が森を侵食する。
さらにトドメと言わんばかりに最上級魔法の《ロイヤルサイクロン》を放って、炎を巻き込んだ巨大な炎の大竜巻を発生させる。
この世の地獄みたいな光景だね。
不死の王の魔力反応が消えたようだ。
やったぜ。
奴が死んだのを確認し、森全体に大雨を降らせて鎮火させた。
キチンと処理ができたことに俺は満足し、大きく頷いた。
アイリスの方に視線を戻すと、アイリスは唖然としていた。
その後は特に問題もなく、土地の浄化が完了した。
不死の王が出現した時はちょっとびっくりしたけど、蓋を開けてみればあんまり大したことなかったな。
土地の浄化が完了したおかげで安全領域へと安全度が上がった。
領域は地域にもよるが、半年に一回くらいチェックしておけば大丈夫との事だ。
「ロイド様のおかげで依頼を達成できました。本当にありがとうございます」
アイリスは丁寧にお辞儀をした。
「アイリスの力になれて良かったよ」
「もしよろしければ、これからも依頼の時は同行してくださいませんか?
ロイド様が側にいてくれるとすごく安心します」
「俺で良ければいつでも力になるよ」
報酬もいいしね。
当然であるが俺にも国から報酬が入る。一時間アイリスを護るだけでなんと金貨100枚だ。
めちゃくちゃ効率的。
専属魔導士みたいに走り回る必要がないだけでも天国だ。
趣味で冒険者をやって聖女関連の依頼で大金を手に入れる。
そんな生活も悪くないかも。
その後、俺たちは仲良くミネルバへと戻った。
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次回は2022/08/14の19:00の更新となります!




