第34話:コッコロ坑道
ミネルバ山脈の麓の村までは《馬の魔導人形》を使って移動する。
二ヶ月ぶりのアルテミスであり、大自然の中を思いっきり走らせるのはとても気持ちよかった。
麓の村に到着後、さっそく聞き込みを行ってコッコロエリアの最新情報を仕入れていく。
一週間ほど前からワイバーンの目撃情報が多発していることがわかった。
複数の個体がいるというよりも同じ個体が何度も目撃されている感じだ。
かなり気性が荒い個体で、見かけた際は戦わずに岩陰に隠れることを推奨された。
また、目的地のコッコロ坑道ではコンパスと地図が必須であることも判明した。
コンパスはすでに所持してるので地図を商人から購入した。
ちなみにここで支払ったお金は、冒険者として稼いだお金だ。
ルビーに渡したのは前職の財産であって冒険者時代に稼いだ分は渡していない。
まあ当然だよね。
「コッコロ坑道に入るなら、コボルトの尻尾を10個持ってきてください。
私が持っているとても珍しいモノと交換しますよ」
商人は明るい笑顔でそう言った。
とても珍しいモノってなんだろう。地味に気になる。
ちょうど依頼とターゲットが同じだから、コボルトの尻尾を10個集めてこよう。
いざという時に備えて携帯食料やランタンの燃料も補給して準備万端。
納期は三週間後なので時間はたっぷりあり、時間に追われる心配もない。
麓の村を出発してテクテクと街道を歩いていくと景色が徐々に山岳地帯へと変化する。
大自然の景色を楽しみながらティルルさんに貰ったサンドイッチを口へと運ぶ。
うんっ、美味しい。
ティルルさんは本当にお料理上手だな。ハムサンドの味付けも完璧だ。
「おや、これはなんだろう?」
バスケットの隅に青色の小袋が添えられていた。
それを開けるとクッキーと手紙が入っていた。
どうやらアイリスがティルルさんと一緒に作ったクッキーらしい。
暇だったので作ったと書かれているが肝心の味はどうなんだろう。
口に運んでみるととても美味しかった。
でも、クマさんやウサギさんや、俺が楽しめるように型抜きされており、一生懸命作ったんだなってのが伝わってくる。
料理に一番大事なのは真心だよね。
お腹もいっぱいになってますますやる気が出てきた俺。
標高が低いとはいえ山岳地帯であるため魔物の分布は森や草原と比べると若干変化する。
上空を優雅に飛んでいるハーピィの姿を見つけた。
ハーピィとは女面鳥身の美しい乙女の魔物。
魔力繊維によって服を構築できるほど知能が高い。
羽根の色は多種多様で、今回上空を飛んでいるハーピィの翼の色は緑色。
妖精の一種とされており、魔力が大自然の中に溶け込んでいる。
そのため、純正の妖精ほどではないが魔力反応を感じ取りづらいので奇襲を受けやすい。
人間達による乱獲が原因で数が激減し、メルゼリア王国においてはこのコッコロエリアでしか出現しないレアモンスター。
乱獲された理由であるが、羽根が美しく高級素材であるからと、本人たちが美女なので愛玩奴隷として好まれているからだ。
そのような経緯もあるため、人間に対しての警戒心も強く、姿を現しても基本的に近づいて来ない。
考えている側からゴブリンが三体出現する。
俺の姿を確認するや即座に襲い掛かってくるこのテンプレ感。
噂によるとゴブリンは西方大陸のほぼ全域で出現するらしい。
ゴブリンの生命力の高さには俺も脱帽する。
すげえよこいつら、感無量だ。
感動した証拠というほどでもないが最上級魔法のライトニングストームを放ってゴブリン三体をまとめて消し飛ばした。
上空を見上げると、ハーピィが唖然とした表情でこちらを見下ろしていた。
笑顔で手を振ってあげると、ハーピィは悲鳴を上げて飛び去っていく。
クレーターを横切ってさらに奥へと進む。
ゴブリン、ゴブリン、ハーピィ、ゴブリン。
出現率がゴブリンに偏っている。
この山道には狼モンスターのダイアウルフが存在するはずなんだけど一度も姿を見かけない。
恥ずかしがり屋なのだろうか。ダイアウルフをテイムして一晩中モフモフしたかったのに残念だ。
モフモフで思い出したが、『メルゼリア王国の剣聖』もモフモフで有名な白狐族だったな。
500年以上も昔の人なので名前は忘れちゃったが、最上級クラスのモンスターでもワンパンで黙らせるほど強かったらしい。
この剣聖は正真正銘、真のマスター級だね。
俺もこの人のような立派なマスター級になりたいな。
そんな事を呑気に考えてると、大きな魔力反応がこちらに迫ってくるのを感じ取った。
魔力反応の正体は亜竜の一種とされているワイバーンである。
コイツが噂の気性が荒い個体か。
麓の村では隠れることを推奨されたが、村人たちも困っていたみたいだし、ここで処理しておく事を決めた。
ワイバーンは俺に気づくと、大地を揺るがすほどの咆哮を上げる。
俺の何倍もある黒い巨体が悠々と地面に着地し、大きな地響きが鳴り響いた。
ワイバーンは上級モンスターなので結構強い。
ただ、こいつは明確に弱点が存在しており、雷属性を当てれば一発でノックダウンする。
最初のゴブリン三体とまったく同じ要領でライトニングストームを放つ。
ワイバーンは断末魔を上げて糸の切れた人形のように巨体が地面に倒れた。
あっさりと討伐完了。たぶんこの魔法が一番早いと思います。
「やはりライストはすべてを解決する」
ライトニングストームの偉大さに感謝しながら先へと進む。
その後、さらに1時間ほど歩いて、目的地のコッコロ坑道へとようやく到着する。
ここまで結構長かった。意外とコッコロ山道って長いのね。
コッコロ坑道は鉱山としても有名な山なので人によってはコッコロ鉱山と呼ぶ人もいる。
俺としてはまあどっちでもいい。
坑道は人の手が入っているので入り口付近は整備されていた。
さっそく中に入ろうと一歩踏み出したが、
「おっといけない。坑道に入る前に数値をチェックしないとな」
と、足を止めて、辺りに計測器がないか探す。
本来、坑道の入口には計測器がある。
これは後続の冒険者の道しるべとなるモノなのでしっかりと記載しなければならない。
また、坑道の中では崩落の危険性があるので、『上級以上の攻撃魔法』を使用してはいけない規則がある。
これはヴィッド大森林での『炎魔法を使用してはいけない』というルールと一緒だろう。
まだ入り口付近なので使う人はいないと思うが、この注意書きはとても重要だ。
上級魔法を使用できないルールは魔導士にとっては結構厳しく、耐久力のあるモンスターとエンカウントした場合に処理が遅れてしまう。坑道においては魔導士よりも剣士や僧侶が重要となってくるだろう。
現在の日時、気温、気圧を記載する。
最後に冒険者が坑道に入ったのは一週前みたいだ。
ワイバーンの目撃期間と大体一致してるな。
でももう大丈夫だよ。ワイバーンはお星さまになったから。
坑道の中は真っ暗で、明かりがないと数歩先もわからないほどだ。
俺は生活魔法の一種であるシャインを発動する。
生活魔法というのはその名の通り、魔力さえあれば誰でもすぐに扱える初級魔法の事だ。
シャインは光の玉みたいな奴で一度発動すると1時間ほど長持ちする便利な魔法。
坑道全体を明るく照らしてくれるので、とても見通しが良くなった。
獣人モンスターのコボルトを発見した。
二足歩行で歩き、全身がモフモフで頭部が犬。
コボルトは数年に一度のペースで尻尾が生え変わる種族で、切り離された尻尾は二メートルほどの長槍に形状変化する。
普通の槍ではなく、魔力が宿っている魔力槍なので人気が高く、市場にも多く出回っている。
コボルトはこちらを見るや槍を構えて迫ってくる。
「悪いなコボルトくん、時代は飛び道具なんだ」
コボルトの長槍がこちらに届く前に、中級魔法の《アイスキャノン》をコボルトの胴体にぶち込んで射殺した。
魔法は槍よりも強し。これは名言ですな。
その後、俺はコボルトが使用していた槍を拾う。
槍をアイテムボックスに収納したので、今度は風魔法で手際よくコボルトを捌いていく。
解体は前職で嫌というほどやったのでお手の物だ。
一体あたり3分ほどで皮と内臓と肉に分けられていく。
皮と尻尾は素材として、内臓は焼却処分、肉は食材へと変わる。
440→450/1000
今回のアイテムボックスは槍1、肉7、尻尾1、毛皮1の区分けとなった。
肉を7つに分けた理由は部位ごとに格納したかったからだ。
カルビとロースは俺も大好物なので意図的に区別しておいた。
お肉の一部はお世話になったイゾルテさんへお土産にするつもりだ。
コボルトのお肉は臭みもなくあっさりしてて人気があるのでイゾルテさんも喜んでくれるだろう。
アイテムボックス内の食材には保護魔法をかけているので一か月程度は大丈夫。
それでも新鮮な方が美味しい事には変わりないし、早くお届けしたいね。
その後もコボルトを仕留めては解体の作業を繰り返していき、一時間ほどで目的の十体討伐を見事達成した。
帰り道でもコボルトが襲ってきたので、魔法で肉体を強化して拳を振るう。
拳を突きだすと衝撃波が発生し、コボルトを壁際へと吹き飛ばし、そのまま壁に叩きつけた。
その際、衝撃で岩壁が剥がれたようで『隠し通路』を見つけた。
「この通路、なんだかお宝の匂いがするニャ」
でも、今回は感覚を取り戻すための準備運動なので、わざわざ隠し通路に入る理由はないだろう。
今度ここに来たときに入ってみようかな。
その時は剣士と僧侶も連れて来よう。
土魔法を使って壁を塞いでおき、俺は元来た道を引き返す。
そういえば、ワイバーンの素材も回収しておかないとな。
前職では倒した魔物を解体する余裕もないほど納期に追われていたからターゲット以外はすべてスルーしていた。
でも、冒険者になってからは納期に余裕が出てきたからターゲット以外にも充分時間を割けるようになった。
冒険者になって良かったなぁ……。
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