間章4:天才錬金術師の失敗 前編
とても長くなりましたので前編と後編に分けます。
※後編は2022/08/08のお昼12:00に更新します。文章の校正をしたいので少し時間を空けます(後編)。
今日は新しい専属魔導士と顔合わせをする日。
私のアトリエにやってくる専属魔導士の名はクロウリー。
魔導協会第一位の魔導士である。
エルフ族の叡智を持つ大魔導士であり、今年で200歳になる男性。
かなりのイケメンと聞いている。
ノック音が聞こえた。
ついにイケメンとご対面!
初印象を良くするために作り笑顔で出迎えると、扉の向こうには容姿端麗な男性がいた。
エルフ族らしい端正な顔立ちにスラリとした高い鼻。さらに高身長だ。
あの無能魔導士の完全上位互換の登場に私の気分は天にも登る気持ちだ。
御年200歳になるとは思えないほどの高身長イケメン。
イケメンで優秀でお金持ちで身分が高くて私だけに優しい。
これは私が求めている専属魔導士の最低条件である。
私は王国が誇る天才錬金術師。
これまでにたくさんのハンデを背負って錬金術を続けてきた不憫な存在なのだ。
この程度のパートナーを望んでも罰は当たるまい。
とりあえず、顔は合格点かな。
「初めまして、私は魔導協会より派遣されたクロウリーです」
クロウリーは優しげな笑顔で挨拶をした。
こちらからも挨拶を返して、クロウリーを応接室へと案内する。
「こちらこそよろしくお願いします、クロウリー様。こちらのソファにおかけ下さい」
「私のような年寄りに対しても懇切丁寧に接していただけるなんて、アルケミア卿はお優しい方ですね」
そうです。
私は誰よりも優しい錬金術師。しかし、その優しさが仇となってこれまで苦労してきた。
クロウリーに対して家庭的な女性をアピールするために手作りクッキーを提供する。
「これはアルケミア卿が焼いたものですか?」
「はい」
「へえ、懐かしいですね。ノワールもお菓子作りが趣味だったんですよ」
ノワールって誰だろう。
疑問に思っていると「ルビーさんと同じくらいの年齢の少女ですよ」と笑顔で答えた。
目の前に美少女がいるのに私以外の女性の話をするなんて失礼だよね。
「うっ!?」
私の作ったクッキーを口に運ぶと、クロウリーの顔が一瞬こわばる。
数秒後、引きつった笑顔で「とても美味しいです」と言った。
私のクッキーはとても美味しいみたいだ。喜んでもらえてよかった。
「失礼ですが、アルケミア卿はいつ頃からお菓子作りをなさっていたんですか?」
「一週間ほど前ですよ。他にやることがなくて暇だったから作ってたんですが、いかがでしたか?」
「優しい味ですね。塩加減が効いており、口に含んだ時に一瞬吐き出しそうになりました」
塩なんて入れてないんだけど、なに言ってるんだろうこの人。
私を和ませようとしているのかな。
でも、その優しさは私がクロウリーに求めている要素ではない。
私だけに優しいのは私からしてみれば当たり前のことである。
それ以上の強みをアピールしてくれて初めてクロウリーを評価できるのだ。
これができなければあの無能魔導士と同じである。
新しい専属魔導士は、すべてにおいて一つ上のグレードの上位互換でないと満足できない。
私ほど向上心のある錬金術師は存在しないだろう。
「失礼ですが、クロウリー様が魔導協会の第一位である事は本当ですか?」
「恥ずかしながら、100年前の魔王討伐メンバーだった事が一番の理由でしょう。私自身は大した魔導士ではありませんよ」
クロウリーさんは謙虚にそう答えた。
勇者パーティの一人!?
「勇者パーティにクロウリーという名前はいなかった気がします」
「当時はクロウリーではなくアレイスターと名乗っていたんですよ」
そ、そうだったんだ。
私が思っていたよりもずっとすごい人でとてもビックリした。
勇者パーティは国の英雄だ。
女王陛下であっても彼らの事を話すときは必ず敬語で喋るほどだ。
少し驚かされてしまったが、これはチャンスだ。
彼のパートナーになれば、ただのアルケミア卿から一つ上のグレードに進める。
あの無能よりも美形で、優しく、地位もあり、能力もある。
これほどまでに私に相応しい相棒はいない。
「クロウリー様のような素晴らしい方が私を選んでくださり、すごく光栄です」
私は改めてクロウリーにお礼を言った。
「とんでもない。
お礼を言うのはこっちの方ですよ。
こちらこそ誘っていただき本当にありがとうございます。
ルビーさんの誘いが、私の中で眠っていた魔導士としての魂を、もう一度目覚めさせました。
ずっと悩んでいた《ノワールのアトリエ》を離れるきっかけにもなりました」
ノワールのアトリエ。
一度も聞いたことがない名前のアトリエだ。
先ほども口にしたノワールというのはこのアトリエの錬金術師だろうか。
クロウリーほどの魔導士を抱えて成り上がれないとか無能錬金術師の極みだね。
「サウスライト地方ってご存知ですか?」
「ローランド国境沿いの辺境地方ですよね」
「あそこのルミナスという小さな町に存在するアトリエです。
辺境なので私も能力を持て余してたんですよ。
先代にはお世話になったので、孫のノワールの面倒を長年見てきましたが、やはり私も人間なんでしょうね。
もう一度表舞台に出て脚光を浴びたいと思っていたんです。
私ももう長くないですからね。
だから今回の誘いは私にとっても渡りに船なんです」
これまでクロウリーは、ノワールという無能錬金術師の専属魔導士だったようだ。
たしかに言われてみれば、勇者パーティの魔導士としてはかなり有名でも錬金術師の専属魔導士としては無名だ。
そんな事情があったのか。お互いに無能のせいで足を引っ張られていた者同士、親しみやすさが持てる。
「そうだ、アルケミア卿。
さっそく依頼を引き受けたいんですが、何か私にできるような依頼はありますか?」
クロウリーは笑顔でそう言った。
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