第32話:ミネルバへの帰還
ギースの介入によって一時中断となってしまった女王陛下との謁見。
実際に謁見が行われたのは謝罪状が届いた翌朝である。
俺たちはメルゼリア城へと赴いて陛下と謁見する。
陛下の象徴とされる金色の髪は扇状に広がっており地面に届くほど長い。
陛下はとても幼く、十代前半の少女で、頭にはピンク色の王冠をかぶっている。
上半身には体の線が露わになるようなピッチリとした衣服を身に纏っており、下半身は白色のミニスカートとニーソを着用している。
少し気が強そうな容姿をしており、とてもお若いながらも立ち振る舞いには威厳がある。
女王陛下は優雅というキーワードを大変好むため、謁見の際は気品のある行動が常に求められる。
気品のない人間には基本的に無関心だ。
その典型例が俺だろう。
陛下と顔を合わせるのは今回で五度目の上に、半年前に顔を合わせたばかりなのに陛下は俺の事を完全に忘れており、側近に指摘されても思い出せないようだった。
終いには『エレガントさが足りないアナタが悪い。もっとエレガントになりなさい』と理不尽な事を言われてしまった。
このようにちょっと面倒くさい所はあるが、多少の粗相があっても笑って許してくれるので俺としては会話しやすい。
陛下の質問が集中したのはアイリスとティルルさんの二人。
聖女であるアイリスは当然ながら、なんとティルルさんにも関心を抱いていた。
ティルルさんは現メイド長というだけあって気品があるからだ。
アイリスへの忠誠心が高いのもポイントで、俺への好感度を1とするならティルルさんへの好感度は99くらいの格差がある。
最終的な結果であるが、アイリス一行に対して、メルゼリア王国への永久滞在権を快く認めた。
それから2日後、予定より随分遅れたが俺たちは無事王都をあとにした。
現在はミネルバに帰還している途中である。
刺客が襲ってくる心配がなくなったおかげか、ミネルバ出発時よりもメンバーは和気藹々としていた。
アイリスも積極的に護衛騎士たちに話しかけるようになり、他者との距離感が近くなったような気がした。
アイリスも口には出さないだけで身内以外への警戒心はあったんだろう。その警戒心が取り払われた形となる。
俺に対してはどうなのかと言えば正直そこまで変わっていない。
これまでどおり友達関係だ。
ただ、アイリスの方から話しかけてくる頻度は若干上がったかもしれない。
王都を出発して一週間後。
カタリナ高原で野営する事になった。
とても見通しのいい広大な草原で魔物と遭遇しても対応しやすく、かなり安全な土地だ。
植物型の魔物はほとんど見かけず、大半が獣型の魔物でレッドボアが高頻度で出現する。
遭遇しても近づいて来ることはほとんどなく、遠くからこちらを眺めているだけだ。すべての魔物が即座に襲ってくるわけではなく、刺激さえ与えなければ大丈夫という魔物も大勢いる。
領域レベルは支配領域となる。
基本的に凶悪な魔物は現れないはずなんだが、俺たちの真上を巨大な黒い影が通り過ぎる。
五大竜の一匹とされる妖精竜であった。
緑色を基調としたカラフルな体色をしており、そいつはなんの前触れもなく現れた。魔物が近づいて来たら気配ですぐにわかるが、今回は目視するまで存在に気づかなかった。
特に危害を加えられたわけではない。妖精竜はそのまま遠くに飛び去っていったからだ。だが、その姿は圧巻で印象に残った。
「あの緑色の大きいドラゴンはなんですか?」
と、アイリスがイゾルテさんに話しかけた。
「あれが妖精竜です」
イゾルテさんも冷や汗をかいており、妖精竜を間近で見るとは予想していなかったようだ。
「よ、妖精竜!? 妖精竜ってまさかあの化け物ですか!?」
「奴はミネルバ山脈を住処としています。そこに帰ってる途中なんだと思います」
イゾルテさんは妖精竜が向かっている遥か先、ミネルバ山脈がある方角を指差した。
「私たちが敵だと認識されなくて本当によかったです……」
ホッと胸を撫で下ろすアイリス。
もし敵だと判断されていたら俺たちは全滅していただろう。
「それよりロイド、戦闘の準備が必要なようだ」
イゾルテさんが剣を抜いて真顔でそう言った。
イゾルテさんが指差す方角を見てみると、はるか遠くの方からレッドボアの群れが近づいて来ているのがわかった。その数はおよそ50体程度。
「先程の妖精竜がきっかけでレッドボアの群れに異変が起きたんだろう」
「どうやら恐怖が伝染してパニックが起こってるみたいですね。
彼らに近づかれたからアイリス達が危険です。
まずは俺が魔法を使って足止めするので、それまで近づかないように皆さんに指示をお願いします」
「わかった。頼りにしてるぞ」
イゾルテさんは俺の指示通りに動き出した。
俺は4秒ほど詠唱して、レッドボアの群れに向かって最上級雷魔法の《ライトニングストーム》を放つ。
巨大な雷撃が落ちてレッドボアをすべて感電死させた。その威力は凄まじく、爆心地には巨大なクレーターができるほどである。
少しでも数を減らす目的で撃ち込んだ魔法であったが、一発で勝負がついてしまった。
マスター級魔法の影に隠れがちだけど、やっぱり最上級魔法も強いなと実感した。
「すごいですロイド様! あの魔法は何という魔法なんですか!?」
アイリスは興奮気味にそう言った。
「す、すごい……。なんだあの雷魔法……」
「噂とは全然違うなぁ」と騎士たちも口々に感想を述べている。
少しずつだけど周りの評価が改善されていくのを感じる。
一生懸命この魔法を覚えてよかったよ。
レッドボアの群れを倒した事で大量の素材が手に入ったので今日はバーベキューをすることになった。
王都からミネルバまでは三週間の長旅となるので、どうしても食事は質素になり、お腹いっぱいになる食事は難しくなる。
今回のレッドボアの群れは俺たちの胃袋を満たしてくれる至高の存在となった。
バーベキューの中、俺はステーキを作ることにした。
東方大陸から取り寄せた特産品の《黒雷》を使ってステーキソースを作る。
この黒雷は西方大陸ではマイナーな調味料であるが、さまざまな料理と合うのでとても使い勝手がよい。
黒雷を絡めたお肉を鉄板の上で焼くと、とても香ばしい匂いが漂ってきて周囲にいる人々の食欲を誘う。
「な、なんだこの美味しそうな匂いは!?」
「今まで嗅いだ事がない匂いだが、なんだかすごくお腹が空いてくるぞ!」
騎士達にステーキを振る舞うと、彼らはあまりのおいしさに舌を鳴らす。中には喜びの涙を流す騎士まで現れた。喜んでもらえて本当に良かった。
「ローランドでは初めて食べる味ですね」
と、アイリスも笑顔でそう言った。アイリスもお気に召しているようで何よりだ。
「これは黒雷という調味料だ」
「珍しい名前ですね。いままで一度も聞いた事がありません」とアイリスが言った。
「西方大陸ではマイナーな調味料だからな」
「ロイド様はお料理にもお詳しいのですね。ロイド様の事を改めて尊敬しました」
「たまたまだよ。前職が素材を集める職業だったから、自然と料理の方面にも詳しくなったんだ」
今回は前職の経験が生きたという形だ。
そう言う意味では専属魔導士をやっていて良かったと思う。アイリスの笑顔をこうして見ることができたわけだしな。
俺の人生は失敗ばかりだと思っていたが、こうして見方を変えると、俺は失敗ではなく『経験』を積んでいたんだと思う。
これまで培ってきた知識と経験を生かして、これからは自分のためのみならず、誰かを幸せにできるような人間になりたい。自分の周りに笑顔が増えていけば、きっとそれは自分の幸せにも繋がるんだと思う。
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次回は8/5(金) 19:00に更新となります!




