第31話:再会
アトリエは朝日によって随分と明るくなっており、ルビーの鮮やかな赤色の髪はアトリエの中でも一際目立ち、宝石のように美しく輝いている。
二ヶ月ぶりの再会となるが、お互いに驚いたりしている様子もなく、お互いの心境はまったくわからない。
ただ、いまルビーが纏っている紺色のコートは例外で、これを見ると当時の思い出が鮮明に頭をよぎった。
「帰って来てたんだ。やっぱり上手くいかなかったんだね」
先に口を開いたのはルビー。
昔の思い出は綺麗に映るが現実のルビーはこんな感じなのですぐに現実へと引き戻された。
小さく首を振って、俺は当時の記憶を振り払い、人を見下すルビーの物言いに俺は眉根を寄せる。
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味。
グズでノロマのロイドが家出しても上手くいきっこないってこと」
「勝手に決めつけるな。俺は順調だ」
上から目線の態度に気分を害した俺はルビーを睨みつける。
しかし、ルビーの尊大な態度はいつもの事なので本気で怒っているわけではない。
それに俺たちの関係はすでに終わっているため怒るだけ時間の無駄だ。
「じゃあどうしてここにいるの?」
ルビーは理由を訊ねた。
「二階に忘れ物があっただけだ。用ならもう済んだから今から出て行くところだ」
ギースの話は伏せて、忘れ物という曖昧な言葉で短く説明する。
ルビーも大して興味がなさそうで小さく鼻を鳴らす。
「ふーん、そうなんだ。
それならいいけど、もう帰ってこないでね。
ロイドがここにいることクロウリーに知られると面倒なことになるし」
「クロウリー?」
聞いたことのない名前だ。
「新しい専属魔導士がようやく見つかったんだ。魔導協会のナンバーワンで、とびきり優秀な魔導士だよ」
今まで見つからなかったのか。
まあ、ルビーに匹敵する専属魔導士を探すのは大変っちゃ大変かも。
魔導教会のナンバーワンならきっと大丈夫だな。
「よかったじゃん。ルビーに相応しい奴だと思うよ」
「うん、無能魔導士のロイドとは違うからね」
一言余計だ。口を開くたびに俺をカチンとさせるのはもはや才能だろう。
それはそうと、無能魔導士というキーワードで騎士団でのあの出来事を思い出した。
目の前には張本人もいるし、頼むなら今しかないだろう。
アイテムボックスから財布を取り出してルビーに手渡した。
「これ依頼料。
なんか俺、勝手にアトリエを去ったヤバい奴みたいな扱いになってるし、いちいち訂正するの面倒だから代わりに訂正しておいてよ。
俺も心機一転で頑張りたいし、その悪評で俺のセカンドライフが邪魔されるのはすげえ嫌だから頼む」
効率を考えたらルビーに頼むのが一番だ。
また、今回ルビーに渡したのは専属魔導士時代に稼いだ全財産。ルビーの力で稼いだようなモノなので元あるところに返したという形だ。
心機一転して頑張りたい気持ちもあったし、専属魔導士時代のお金が手元にあると決心が揺らぐと思った。
「ロイドの癖に生意気だね。まあいいよ。頼まれてあげる」
引き受けてくれるんだ。重箱の隅をつつくようにもっとしつこく文句言ってくるのかと思った。
「ロイドがいなくなるおかげで私も新しいステップに進めるもん」
顔見知りの他人くらいの関係がちょうどいいのかもしれないね。イライラしないで済むし、ルビーが大成していたら素直に祝福できるし、それを見て俺も頑張らなきゃなって元気な気持ちになれる。
アトリエを立ち去る前に、今度やってくる新しい専属魔導士のクロウリーさんに頼む依頼書を見せてもらったが、そこまで難しくない素材ばかりだった。
あっ、でも《フルールド・エインセル》は転移魔法陣ないと時間的にちょっと厳しいかも。
引き継ぎのことを考えずに転移魔法陣消しちゃったけど大丈夫かな……。
まあいいか、魔導協会一位のクロウリーさんならなんとかしてくれるだろ。
というか、なんとかしてくれないと、「なんで俺いままで叩かれてたの?」という疑問になるしな。
「じゃあ、さようなら」
ルビーは最後にそう言った。
俺もルビーに合鍵を返して別れの言葉を伝えた。
お互いに納得した上で俺たちはさよならした。
色々あったけど気持ちよくルビーと別れることができてよかった。
早朝だからか、風もひんやりしていて心地いい。
次第にクロウリーの事も忘れて、朝の景観を楽しみながら屋敷へと帰っていった。
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※次回の更新日は8/3(水) お昼12:00となります!




