第27話:追放された理由
練習試合の後、観戦していた騎士達は俺の強さを素直に認めた。
王国騎士団の中で最も強い騎士団長を倒してしまったという事実は大きく、彼らの心情はともかく、俺の強さを認めるキッカケにはなっただろう。
イゾルテさんも言っていたように、体育会系に一番伝わるのは、100の言葉ではなく1つの試合のようだ。
その後、俺は騎士団長に《完全治癒》をかけ、練習試合で負わせてしまった傷を治療した。
ここの治療は聖女であるアイリスでも良かったのだが、俺がワガママを言って騎士団長の治療をさせてもらった。
この《完全治癒》は、対象の状態異常を治し、装備の状態を正常へと戻し、対象の体力を完全に回復する魔法なのだが、どうやらその流れで左膝の古傷まで治ってしまったようで、騎士団長はその喜びのあまり、テンションが3倍に跳ね上がった。
温厚なおじさんが、若い頃のチャラくてイケイケさを取り戻したような感じだ。
「おお、羽根のように体が軽い!
今なら何でもできそうな気がするぞ!!
ロイドくん、もう一度私と練習試合をしないかい?」
「いえいえ、今の私では団長の足元にも及びませんから勝ち逃げさせて頂きます」
「はっはっはっ、これは一本取られた!
ロイドくん、王国騎士団に入隊したい時はいつでも言ってくれ。
私が座っている団長の席をキミに譲ろうじゃないか!」
「ええ!?」
「はっはっは、冗談だ!
だが、王国騎士団に入団して欲しいという気持ちは本当だ。
キミのように強い魔導士を歓迎しない理由はないからな」
騎士団長はこれ以上にないほどご機嫌だ。左膝の古傷が治って嬉しいのだろう。若い頃はイケイケだったんだなーってのがすごく伝わってくる。
騎士団長は団員を呼び集めて整列させ、以下のように叫んだ。
「お前たちにはこれまで苦労をかけてきた!
これまで団長室に籠ってあまり訓練を見てやれなかったからな!
だが、ロイドくんのおかげでこのとおりエレガントらしさを取り戻した!
団長室に閉じこもるのは今日でおしまいだ!
今日から毎日私がお前たちの訓練に付き合ってやろう!」
「は?」
「え? 鬼……じゃなくて団長がですか!?」
「あわわ!? う、うそでしょう、鬼の団長が毎日監視に来るんですか!?」
「手始めにそうだな。
本日より王国騎士団の訓練時間は8時間から16時間に延ばす!!
もっと強くなれるんだ! お前たちも嬉しいだろう!!」
「「「ほげええええええええええええええ!?」」」
うんうん、騎士団長が楽しそうで何よりだ。優しくてダンディなおじさまありがとう。俺も騎士団長みたいなエレガントなおじさまになりたいな。
協力してくれた騎士団長に改めてお礼を言って、俺たちはその場をあとにした。
訓練所をあとにした俺たちはイゾルテさんの知人の屋敷に赴いた。
イゾルテさんの屋敷ほどではないが、この屋敷も中々大きくて、屋敷の主も優しい人だった。
豪奢な客室に案内されて、その日は屋敷の中でのんびりと過ごした。
夕食も豪華で、アイリスと仲良く食事をとった。
アイリスはご飯はいっぱい食べるタイプで、何杯もおかわりするので、従者のティルルさんに窘められていた。ぐうかわ!
ちなみにアイリスの従者は他にも二人いて、メイドのセフィリアさんと料理長のネロさんがいるんだが、彼らは食事中に一度も姿を現さなかった。
ティルルさんはアイリスとよく一緒にいるけど、残り二人はアイリスと距離を取って行動している事が多い印象だ。
仲が悪いのかと言われたらそういうわけでもなく、プライベートではとても仲がいい。現在は仕事モードなのだろう。
「ロイド様、あーんしてください」
アイリスがピーマンを肉で挟み、笑顔で俺に渡そうとしてきた。
「アイリス、ピーマンも我慢して食べなさい。屋敷の主に失礼ですぞ」
「はい……」
「お嬢様に注意していただき、本当にありがとうございます」
と、ティルルがお礼の言葉を言った。
夕食後は屋敷の大浴場で体を休めた。浴槽に浸かっている時、もしやアイリス達がやってくるのではと妄想したが、冷静に考えると混浴ではないのでやって来るわけないのだ。
お風呂から上がり、さっぱりとした気持ちで寝室へと戻り、ボーっとしているとアイリスが寝室にやってきた。従者さんはおらず、一人でやってきたみたい。
アイリスからほのかに石鹸の香りがした。
「どうしたんだ? 何か俺に用か?」
「用がなければ会いに来ちゃいけませんか?」
「ううん、そこのソファでお喋りしようか」
「はい」
アイリスとお話をした。
今回の会話は、これまでとは少し内容が異なり、俺の専属魔導士時代の内容が中心だ。
専属魔導士時代の俺の様子を知りたがる人は初めてだったので、新鮮な気持ちで話した。
「ロイド様が採取にいく地域は未開領域が多いですね」
「うん、どこも危険な地域ばかりだよ。あんまり楽しい所じゃないし、アイリスは近づかない方がいいよ」
俺も何度死にかけたかわからない。
「難しい相談ですね。エメロード様の神託があれば、私の意思とは関係なく出向かなければならないでしょう」
「エメロード様も人使いが荒いんだな」
「その時はロイド様も一緒に来てもらいますよ」
大聖女様も人使いが荒いようだ。
俺の昔話が終わり、今度はアイリスが話す番となる。普段の俺なら当たり障りのない事を聞くんだが、今回に限っては、少し踏み込んだ内容にしようと思っている。
「アイリスに一つ聞きたいことがある」
「何なりと仰って下さい」
「アイリスはなぜ神聖ローランド教国を追放されたんだ?」
これまで一度も話してくれなかった追放の理由。
前回はやんわりと拒絶されて聞きそびれてしまったので、アイリスの追放された詳しい理由を知るのは、今日が初めてとなる。
すでに終わった事だし、これまでどおり曖昧なままでもよかったのだが、アイリスが俺の事を知ろうとしてくれたように、俺もアイリスの事をもっと知りたくなった。
「お恥ずかしい話なのですが、私が追放された理由は、私が無愛想だったからです」
どゆこと!?
無愛想ってアイリスから一番縁のない言葉だ。アイリスほど感情豊かな女の子もそういない。
「当時の私は秩序神の代行者としての責務を果たす事に必死で、笑うことなど一度もなく、黙々と仕事に専念しておりました」
「でもそれって悪い事なの?
聖女としての仕事を一生懸命まっとうしてるだけなんじゃ」
「プライベートと仕事の境界線が曖昧なのが一番の問題ですね。
どのような場でも秩序神の代行者として行動していました。
融通が利かず、近寄りがたい存在になっていたと思います。
ギース様もそんな私に嫌気が差して、だんだんと距離を取るようになりました」
「ギース様?」
「神聖ローランド教国の第一皇子です。
我が国は宗教国家でもあるため、ギース大司教とも呼ばれております。
ギース様は私の元婚約者でありましたが、普段の私がこんな感じなので、最終的に婚約破棄され、偽聖女として国を追放されてしまったのです」
宗教用語が多くて混乱したが、ギース大司教と第一皇子は同一人物のようで、神聖ローランド教国のアグニス皇帝の第一後継者である。
ギース第一皇子から嫌悪された事で、聖女としての立場が大きく揺らぎ、新聖女を擁立された事で完全に居場所を失ったようだ。
また、婚約者に対して恋愛感情が一切なかったのも、周りから擁護されなくなった理由の一つだ。
アイリスの話をまとめるとこんな感じ。
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○追放された理由
ギース第一皇子に婚約破棄されてしまい、さらに新聖女を擁立された事で、聖女としての居場所がなくなってしまった。
○追われている理由
黒鴉が言っていたようにおそらく、聖女は一国一人という正統性を保つため。
神聖ローランド教国は宗教国家であるため、ここの定義が他の国よりもかなり厳しく、国外に逃げようとも確実に殺そうとしてくるのだと考えられる。
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「私からは何も事情も教えてないのに、ロイド様を巻き込んでしまって本当に申し訳ありません」
話が終わるとアイリスは、俺に深々と頭を下げて謝罪する。
「巻き込まれたなんて思ってないよ。俺が好きでやっているだけだ」
俺からもアイリスにそう伝えた。
アイリスの目には少しだけ涙が浮かんでいた。彼女に近づいてハンカチでそっと拭った。
彼女は真面目なので、俺を巻き込んでしまったと罪悪感を覚えていたのかもしれない。
だからこそ、それは違うとしっかりと伝えられてよかった。
「その言葉で私も心が軽くなりました。ロイド様、本当にありがとうございます」
俺もアイリスと同じ気持ちだよ。
騎士団でのあの時、アイリスの言葉で心が軽くなったんだ。
俺の方こそアイリスにお礼を言いたい。
アイリス、本当にありがとう。
お互いの過去がわかったおかげで、俺たちの関係は少しだけ進展した。
たとえばアイリスは、聖女時代の自分を話してくれるようになった。
彼女の話を聞いている限りだと、たしかに感情のない執行者みたいな感じだが、そこには代行者としての使命を精一杯果たそうとしている彼女の一生懸命さが伝わってきた。
ずっとお喋りをしていると、次第に眠たくなってきたのか、アイリスはいつの間にか居眠りしていた。なので、眠っているアイリスをお姫様抱っこしてティルルさんの所まで運んだ。
その後、俺も就寝した。
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