第24話:王都行きの誘い
一週間後、俺とアイリスの二人はミネルフォート家の屋敷に呼ばれた。
正門の所で現れたのは、立派なカイゼル髭の執事で初老の男性。黒色の仕立てのいいスーツを着ている。
「アイリス様、ロイド様、本日はお忙しい中、お越しいただき誠にありがとうございます。
案内役のセバスチャンです」
セバスチャンと挨拶を交わし、屋敷を案内してもらう。
ミネルフォート家の敷地はフランク式の庭園を模した豪奢な造りで、あちこちに噴水や花壇があり、その合間には心地よい芝生がある。シンメトリーの様式を取り入れた屋敷の外観は、美しさと規則正しさの両方を併せ持っている。
屋敷の内装も立派で、情緒あふれる異国の絵画や壺が飾ってあり、床には赤い絨毯が綺麗に敷かれている。隅々まで掃除が行き届いているので埃一つなく、ピカピカに磨かれた窓ガラスには、苦節19年付き合った俺の顔が映っている。
母親譲りの穏やかな風貌は、女性受けは悪くないが、魔導士としては舐められるのが悩みの種。
イゾルテさんは来客室にいた。
今のイゾルテさんは私服であり、王都で流行っているようなコルセットの締め付けの強いドレスではなく、腰回りがゆったりとした白色のドレスを着ている。
来客室も豪奢な造りで、壁には荘厳な宗教画が壁にかかっている。
こちらに気づくと、イゾルテさんは柔和な笑みで来客用のソファを勧めてくれた。
俺とアイリスは隣同士に座り、俺たちと向かい合うようにイゾルテさんも座った。
10分ほど世間話をして、いよいよ本題へと入る。
「先日アイリス様を襲った刺客だが、王都の情報部が調べあげた結果、『黒鴉』と呼ばれる殺し屋であることが判明した」
「「黒鴉?」」
俺とアイリスは口を揃えてそう言った。
「東方大陸で活動している危険な殺し屋だ。
《煉獄殺戮団》のメンバーで、《黒鴉》のコードネームで活動している。
奴の特徴を《ガルド》に書いたらすぐに特定できたよ」
イゾルテさんがサラッと言ったガルドは通信用の小鳥の事だ。
ミストル地方に生息しており、遠方への通信手段はすべてこのガルドが行なっている。
手紙を配達するすごい速い鳥で、普通のガルドなら王都までは二日程度、速いガルドなら半日で到着する。
かわいいのでペットとして購入する愛好家も多く、俺も昔飼っていた。
でも窓を開けたまま外出してたらそのまま逃げちゃった。悲しい……。
「殺し屋なのに随分と簡単に情報がわかるんだな」
「ごじゃる口調が独特だからな。あんな特徴的な語尾を使う奴は『黒鴉』しかいないそうだ」
あのふざけた語尾って個人を特定できるほど超重要な伏線だったのか……。
ネタの延長線上だと思っていた俺。
「語尾が特徴的って、それ殺し屋として大丈夫なんですか?」
アイリスがもっともらしい質問をした。
「殺し屋も人間だ。
中には自分の強さを誇示したい奴もいる。
語尾によって自分の恐ろしさが世間に知れ渡り、自分はすごい、自分は強い、自分は恐ろしい存在なんだと他の人に知ってもらう事がなにより快感なんだろう」
「たしかに言われてみれば、あの刺客は話したがりでしたね。
最初から無言で攻撃してくればいいのに、わざわざ自己紹介までして、挙げ句の果てには自分がこれから使う流派まで我々に教えてくださりました。
たしかに自分の力を誇示したい、自己顕示欲のつよい人種と言えるでしょう。
そもそも、最初の笑い声の部分絶対余計ですよね?」
アイリスは同意を求めるように俺の顔を見た。
冷静に分析するのはやめて差し上げろ。
あの刺客の残念さが際立つじゃないか。
でも剣術は本物だったから……(謎の擁護)。
ノートに書いた黒歴史小説を身内に暴露されているような気分。
「ここは私の知識不足ではあったが、どうやら奴は国際指名手配の一人みたいでな。
西方大陸で身柄を拘束した場合は、東方大陸の《紅煌帝国》に引き渡すのが決まりのようだ。
我が国……《メルゼリア王国》も同様の手続きを踏まないといけない」
「つまり、黒鴉を紅煌帝国に引き渡すという事ですか?」と俺は確認した。
「そういう事になるな。ちなみにこれはお前にとって喜ばしい知らせだ」
イゾルテさんは俺の顔をジッと見ながらそう言った。
「それはどういう意味ですか?」
「現在の黒鴉は、アイリス様の事がどうでも良くなったようで、お前を殺すことに躍起になっている」
ちょ、なんで俺に殺しの矛先変わってんの!?
「お前に負けたのがよほど悔しかったんだろうな。
ロイドの話をする時だけ語尾が綺麗に抜け落ちていたぞ。
私はあの魔導士をかならず殺す、決して許さない、絶対にだ。
これが今の奴の口癖だ」
めちゃくちゃ怒ってるじゃん。
一人称も拙者から私に変わってるし、黒鴉の発言には憎悪の感情が伝わってくる。
まあ、お前はこのあと紅煌帝国に送還されて終わりなんだけどな。
「わかりました。ところでギルド長。俺たちはどうすればいいんですか?」
「今回私が二人を呼んだのはそれが理由だ。
二人とも王都まで同行して欲しい。
女王陛下もアイリス様が聖女を辞めさせられた事を深く心配しているご様子です。
手紙にも『アイリス様に一度お会いしたい』と一言記されております」
「メルゼリア女王がそうおっしゃるのでしたら行かないわけにはいきませんね。
ロイド様、私に同行してくれませんか?
ロイド様が側にいらっしゃるのでしたら私もすごく安心できます」
「それはつまり遠回しの告白と受け取っていいのか?」
「ちょっと何言ってるのかよくわかりませんが、凶悪な魔物が出現した際に戦力にはなりますね」
アイリスはサラッと俺の言葉を流した。アイリスも俺の扱いが徐々に上手くなってきたようだ。
イゾルテさんは俺とアイリスの二人の顔を交互に見て、
「それでは出発は明日にしましょう。
女王陛下を待たせすぎるのは、あまり良くありません。
明日、屋敷の方から王都行きの馬車を用意します。
ロイドも明日以降の予定はすべてキャンセルしておいてくれ」
そんなこんなで俺たちの王都行きが決まった。
王都に行くのは全然構わないんだが、一つだけ問題があった。
出発が明日であることだ。個人的に明日は困る。
「明後日じゃ無理ですか? 明日は友達二人とバーベキューに行く予定があるんですよ」
ミネルバに来て陽キャになった俺。
大人の余裕を見せながら休日のプランを相手に見せつける。
別に一日くらい遅れても問題ないでしょ?
と、言わんばかりな余裕の表情で答える。
メルゼリア王国のカレンダーによると明日は休日。
その日は《カレイド海岸》で、俺とマルスとレラの三人でバーベキューすることになっている。
だからそこを潰されるとガチで辛い。
頼むから遊びに行かせてくれ!
「ああそれか、ロイドの代わりにキャンセルしておいたぞ。マルスとレラのことなら心配するな、すでに私が話をつけてある」
「は?」
「それではよろしく頼む」
ナチュラルに俺のプライベートに干渉してきて怖いんだけどこの人。
ヤンデレの素質あるよ。
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