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第21話:聖女との再会

 

 先程まで川を流れていたアイリスは全身ずぶ濡れで、腰まで伸びた長い銀髪からは水が滴り落ちている。

 肩口が見え、ボディラインがはっきりした白い衣服も濡れているせいで下着の色が若干透けて見えており、初日に出会った時よりも蠱惑的な印象を俺に与えた。


 このままではアイリスが風邪を引いてしまう恐れがあるので、俺は治癒魔法の最高ランクとされる《完全治癒フルリカバー》を使用する。

 対象の状態異常を治し、装備の状態を正常へと戻し、対象の体力を完全に回復する魔法(ガチ)だ。

 俺の魔力を9割ほど使用するため俺もよほどの事じゃなければ使用しないが、今回はよほどの事だと判断して即使用した。


 風邪を馬鹿にしてはいけない。


 以上だ。

 良い子のアイリスが風邪を引いたらロイドおにいさん本気で泣いちゃうかもしれないのでわりとガチめの魔法を使用した。


 数秒のうちに厳粛なる聖女服へと姿を変えた。

 これで一安心だな。お礼の言葉に対しては「友達として当然の事をしたまでだ」と紳士的に返した。


 その後、久しぶりの再会を喜んだ俺たちはお互いにハグをし合った。


「お久しぶりですロイド様。

 またお会いできて嬉しいです。

 こうやってお喋りするのは初日以来でしょうか」


「大体二週間ぶりか。アイリスの方こそお変わりなく元気そうで安心したよ」


 川を流れていたのはこの際置いておいて、彼女が笑顔ならそれでヨシ。


「元気だけが私の取り柄ですから」


 お互いの近況を報告する。

 アイリスは従者と仲直りし、滞在期間を1週間から一ヶ月に延長したそうだ。これは俺にとっても嬉しい知らせだな。

 俺の方からは冒険者になった事を伝えた。

 アイリスはとても驚いており、少し羨ましそうな表情を浮かべた。理由はわからないが、どうやらアイリスは冒険者になる事を許されていないようだ。


「ロイド様ならきっと立派な冒険者になる事ができますよ」

「ありがとう。俺もアイリスの期待に応えられるように頑張るよ」

「友達として応援してます」


 アイリスにも応援されちゃったし、これはますます頑張らないといけないな。

 目指せAランク。別荘ボーナスを狙ってます。


「ところで、アイリスはどうして川を流れていたんだ?」


「端的に申し上げますと魔法の修行中でした。

 《ウォーターダイダロス》ってご存知ですか?

 その魔法を習得しようと訓練していたんですが、なかなか制御が上手くいかず、最終的には自分がその魔法に巻き込まれてしまった次第です」


 あの最上級魔法か。

 アイリスが口にした魔法名に思わず納得してしまう。


 ウォーターダイダロス。

 七種類存在する最上級魔法の一つであり、青魔導士の一つの到達点とも言える属性奥義だ。


「なるほど納得した。たしかにあの魔法は習得が難しいからな。俺もコツを掴むまでに一か月近くかかった」

「その言い方……もしやロイド様は《ウォーターダイダロス》が使用できるんですか?」

「うん」

「ロイド様、もしよければ私に制御のコツを教えていただけないでしょうか? お礼なら後日なんでも致しますので」


 アイリスの頼みなら断れないな。

 後日お礼も貰えるらしいし。お礼ってなんだろう。


「じゃあ午後から一緒に練習しようか」

「ありがとうございます」


 最初の一言に感謝の言葉を口に出せる。

 これはアイリスの人柄を象徴する証。二週間ぶりに再会したアイリスはよりいっそう魅力的な女性になっていた。


「では、従者に午後の修行の件を伝えてきますので一旦失礼します」

「アイリスが戻ってくるまでここにいるからゆっくりで大丈夫だよ」


 アイリスはお辞儀をして一旦その場を離れた。

 10分後、戻ってきたアイリスの手にはバスケットと水筒が握られていた。


「それは?」

「サンドイッチが入っています。ロイド様と一緒に食べるようにと渡されました」

「気を使わせて悪いな」


 従者さんにはあとで直接お礼を言っておかないとな。


「じゃあせっかくだし、一緒に昼食でも食べようか」

「はい」


 ホワイトシチューもそろそろ完成する頃合いだし、タイミング的にもバッチリだ。


「ところでアイリスは苦手な野菜とかあるか?」


 シチューを皿によそいながらアイリスに尋ねる。ニンジンとか苦手な人たまにいるからね。


「神の代行者である私に苦手な野菜があるとお思いですか?」

「それもそうだな。アイリスは偉いな」

「強いて言えばピーマンがほんと無理です。視界に映っただけでもギルティです」


 苦手な野菜あるじゃん。

 幸いなことに今回のシチューにピーマンの姿はない。アイリスも問題なく食べることができるだろう。


 シートにお互いの持ち込んだ料理を並べて仲良く食事。

 まずはあったかいうちにシチューを一口食べる。

 うん、美味しい。

 アイリスも笑顔で口にスプーンを運んでる。喜んでくれてるみたいだし、問題無さそうだな。


 アイリスが持ってきたバスケットにはサンドイッチがたくさん入っている。

 そういえば従者さんは昼食どうするんだろうと一瞬脳裏によぎったが、細かい事を考えすぎるのは俺の悪い癖なので一旦忘れてアイリスとの食事に集中する。


「おれも一つ食べていいかい?」

「一つだけでなくどんどん食べてください。ネロさんも喜んで下さると思います」

「ネロさん?」

「このサンドイッチを作った料理長です」


 従者に料理長とかいるのか。なんか本格的だな。

 料理長が作ったサンドイッチか。とても楽しみだ。

 個人的にハムサンドが好きなのでハムサンドを手に取り、それを口に運ぶ。


 その瞬間、俺の脳に電流が走った。

 あ、あまりにも美味すぎる。なんだこのハムサンド。俺が知っているハムサンドとは全然違う。


「どうかなさいましたか?」

「このハムサンドがとても美味い」

「良かったです。

 ネロさんが聞いたらきっと喜ぶと思います。

 ロイド様にも今度紹介しますね」

「ああ、頼むよ。このハムサンドの謎を解き明かしたい」

「なんか探偵みたいなこと言ってますね。こっちのツナサンドも美味しいですよ」


 アイリスはそう伝えると、サンドイッチを手に取って俺の口元へと運んだ。


 こ、これは恋人同士がするとされる「あーん」という甘い食べ方。


 まさか今の俺にこんな機会が巡ってくるとは夢にも思わなかったので、少しだけ気恥ずかしかったが、しっかりとアイリスとの交流を楽しむ。

 普通に食べるよりも「あーん」をして食べた方がより一層美味しく感じた。


「サンドイッチも美味しいですが、それに負けず劣らずロイド様のホワイトシチューもとても絶品ですね。すごく美味しいです」

「本当?」

「はい。ロイド様のホワイトシチューなら何杯だって食べられられそうです」


 アイリスは微笑んだ。

 料理を褒められるのがこんなに嬉しいなんて知らなかった。

 いや、正確には『忘れていた』というのが正しいかもしれない。


 アイリスとのやり取りで、遠い昔にあった、楽しかった頃の記憶を思い出す事ができた。


 

 ********


【メイド長視点】


 ふむ、なかなかいい雰囲気のようですね。

 お嬢様のあのような純粋な笑顔を見たのは久しぶりかもしれません。


 我々と一緒にいる時は立派な聖女としてあり続けようと無理しておりましたからね。

 ありのままのお嬢様を拝見できるのはとても新鮮です。


 二人の健全な食事風景を眺めてるとこちらまで心が洗われるようだ。今ならキッチンにこびり付いたしつこい油汚れもまとめて一掃できる気がする。


 すると、背後から不穏な話し声が聞こえてくる。


 振り返ると男女二人がヒソヒソと話し合っている。



「よし、セフィリア。聖剣は持ったか? 標的はアイリスの隣にいるあのインチキ魔導士だ」


「聖剣は家に忘れましたが大根なら持ってきてます」



 若いメイドは真顔でそう答えた。

 肩付近まで伸びた銀髪で、頭には黒いカチューシャをつけており、とても知的な顔をしている。

 真面目な雰囲気が漂う立派なメイド姿。


「バカかお前!? 聖剣は肌身離さず装備しておけっていつも言ってるだろ!」


 男性はひどく驚いており、メイドを怒鳴る。

 しかし、当のメイドはまったく気にしてる様子がなく、表情一つ変えることなく淡々と答えていく。


「申し訳ありません。

 大根を買ってこいとネロさんに申しつけられていたのを今朝思い出しまして、ついそちらに気が回っておりました」


「それいつの話だよ!

 お前に買い出し頼んだの3日前だぞ!

 お前が全然買ってこないから、大根ならとっくの昔に自分で買ってきてるわ!」


「流石ネロさん」


 セフィリアは目の前の男を称賛する。


 私は二人のやりとりにため息を吐く。

 一人で怒ってる情緒不安定の男も面倒だが、直属の部下であるセフィリアの言動は特に頭が痛くなる。

 あの子はいつになったらまともに買い物できるようになるのだろうか。

 しっかり教育できてない私も悪いのだが、聖剣と大根を間違えるなんて普通ありえないでしょう。


「おいティルル! お前メイド長だろ! しっかりとセフィリアを教育しておけ!」

「黙れであります。周りの方々に迷惑ならないように静かにしろであります」


 現在私たち三人は岩の背後に隠れてお嬢様を観察しておりますが、後ろの二人がうるさいので危ない三人組として注目を受けています。


「セフィリア、お前はメイドとしては及第点ギリギリだが、《西方剣術(エクストリオン)》の腕前なら帝国一だ。

 お前なら大根でも奴を消し去ることが充分可能だろう」


「お任せくださいネロさん。

 このセフィリア、聖騎士の名にかけてネロさんがおっしゃる『ウチの可愛いアイリスをたぶらかす大悪魔』をこの世から消し去ります」


「よし、その意気だ。奴を殺れ」


 私は立ち上がり、目の前の男の尻をハリセンでぶっ叩いた。



「ぐわああああああ!?」


 奴はケツを押さえて絶叫する。思わず海老反りになるほど全身の筋肉がビーンと硬直し、その場に倒れて痙攣している。今は尻をこちらに突き出してるような体勢だ。


「ネロさん!? メ、メイド長、なんてことをするんですか!? いまネロさんのお尻は痔の悪化で常時レッドゾーンなんですよ!」


「夜更かししてお菓子ばかり食べてるからそうなるんですよ」


 私は感情を一切込めずにそう答えた。


「て、ティルル。お、お前俺たちを裏切るつもりか!?」


 私がいまぶっ叩いたアラサー男のネロは、尻を突き出したまま半泣きでこちらを睨む。

 相当痛かったのだろう。ネロはその場から一切動けずにいる。


「裏切るも何も最初から仲間ではありませんよ。アラサーになって頭の中まで老化したんですか?」


「俺はまだアラサーじゃない。俺の心は永遠の18歳だ」


「最近ダイエットに失敗した事を全部歳のせいにした男が偉そうなこと言うなであります。

 大の大人が子供たちの恋愛に口出しするなんて呆れたものです。

 恥を知れであります」



 パンパンパンパンパパン!

 ハリセンで何発も尻を叩くとネロは動かなくなった。

 こいつはいま痔で苦しんでるので尻へのダメージがすべて致命傷だ。

 お嬢様の平穏を守るためならネロのケツくらいならいくつ壊れても全然構わない。


「セフィリア、この男を邪魔にならない所に廃棄しておきなさい」

「り、了解しましたメイド長!」


 セフィリアはネロの死体を引っ張ってその場から消えた。

 さて、私は引き続きお嬢様を見守りますか。


 たしかあの魔導士は……ロイドと言いましたっけ?


 魔導士でロイドといえば、素材採取率40%のロイドが有名ですが、同一人物でしょうか?

 おそらく別人だとは思いますが……個人的に同一人物であって欲しいですね。


 世間ではひどく叩かれてるみたいですが、あの魔導士が採取してきた幻の花(ドンケルハイト)は、私の最愛の友達の治療に、たしかに役立ちました。


 私は彼に報いたい。

 だからこそ、目の前の魔導士が専属魔導士のロイドである事を、心から望んでいます。




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― 新着の感想 ―
[一言] 痔が悪い人の尻を叩くとか極悪非道! 40過ぎたおっさんが子供に痔尻タイキックされて泣きながらグーパンするレベルなのに…。
[気になる点] 従者の前で聖女たらんとしてる? 従者ってアイリスの「家」が雇用してるのかと思ったら聖女としてのアイリスに付けられてるんですか? あの子、追放された元聖女なんですよね? っていうか、買…
[気になる点] ……別行動と言いながら覗いてそうな気がする二人組。 [一言] ……えーと、ストーカー気質があらわれてるの? 細かいところが気にかかって、意外と剣も使える、ロイドの悪い癖はそんなに歳…
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