第19話:本当にやりたい事
冒険者登録から一週間は新人研修が中心だった。
専属魔導士としての経歴があったとはいえ、冒険者という括りでは俺は完全に新人だ。
そのため、マルスとレラの二人は俺のためにわざわざ時間を割いて冒険者のノウハウを教えてくれた。
クエストの際は、俺にお手本を見せながら一から丁寧に知識を教えてくれた。
もちろん知っている知識もあったが、俺は一回も口を挟むことなく、彼らの話を真剣に聞いた。
レラは説明がとても上手で、マルスは説明があまり上手ではなかった。
だが、相手の事を思って一生懸命伝えようとする言葉は必ず伝わる。マルスの説明も要点はしっかりと伝わった。
なにより二人の良かったところは、こっちが理解したらちゃんと褒めてくれたところだ。
褒めてもらえると当然やる気が湧くし、こうやってわざわざ時間を割いてるのは「ぜんぶ俺のためなんだ」って素直な気持ちになれた。
彼らには感謝の気持ちしかない。
魔法の師匠もそうだったが、俺はきっと先生には恵まれているんだと思う。
それぞれの先生が教え方の違いこそあったが、俺のために全力で向き合ってくれた。『教えた』ではなく、『向き合ってくれた』という部分がなにより大事だ。
俺がやるべき事は、先生たちの教えをしっかりと守り、今後の人生に生かしていくことなんだと思う。
「ロイドさんは本当に素晴らしいです。
本来なら我々年下の意見など聞き入れたくないとは思いますが、文句一つ言わずぜんぶ素直に聞いてくれましたね。
ロイドさんは私たちの誇りです」
「俺なんてマジで教えるの下手くそだったのに、先生は嫌な顔一つせずちゃんと聞いてくれたからな。
先生の優しさで説明してるこっちの方が泣きそうになったもん」
「マルスくんハーブの鑑定のくだりでちょっと泣いてたもんね」
「馬鹿やめろって、もう忘れたいんだからその記憶」
ハーブの鑑定のやり方をマルスに教えてもらった時、マルスはハーブの種類を五回ほど間違えた。
その分野に関しては俺も完全にプロだから頭の中で修正して話を聞いていたが、レラが間違いを指摘したせいで、マルスがパニックになって泣いていたのを覚えている。
その時は俺がフォローして場が収まったが、その失敗のせいでしばらくマルスは自信を無くしていたな。
「でも先生がその時言ってくれた『レラの言葉ではなくマルスの言葉でもう一度聞きたい』という言葉には感動しました。先生になら抱かれてもいいと思いました!!」
「俺は男を抱きたくない」
俺は苦笑いをする。
マルスはたしかに教え方はあまり上手ではない。でもそれは彼の個性だと思っている。
彼から学んだ事はたくさんある。
剣の扱い方、手入れの仕方だって彼から学んだことだ。魔導士である俺は剣を扱う機会が極めて少ない。だから知らない事もたくさんあった。
自分の知らない事を丁寧に教えてくれる相手。それは何者よりも大切にしなければいけない。
「我々からロイドさんに教えることはもう何もありません。研修は終了です」
「研修が終了したってことは、いよいよクエスト本番って事か?」
「そうです。
その事なんですが、ロイドさんって今欲しいものとかありますか?
ロイドさんはこの一週間頑張りました。
私たちからなにかプレゼントしたいなと思っているんです」
欲しいモノか。
正直に言えば特にない。お金ならすでにたくさん持ってるし、金銭面に関しては昔から結構無欲だった。
「かわいい彼女が欲しい」
「それは自分で探してください」
いくら優しいレラでも彼女はプレゼントしてくれないらしい。
「欲しいものは特にないが、やってみたい事ならこの一週間で新しくできた」
「やりたいこと?」
「いまは自分一人でクエストをやってみたいなぁと思っている」
俺は子供っぽく笑いながら二人にそう伝えた。
二人は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに優しく笑みを浮かべた。
彼らと出会い、彼らの話を聞いている内に、俺は世間の常識を本当に知らないんだなと実感した。
そして、魔法の強さだけではこの世界は生きていけないと学んだ。
これまではそれが怖くて、その足りない知識を補うために二人に依存していた。
きっとそれは悪い事ではないと思う。正しい選択肢の一つでもあるはずだ。
少しだけ、大人っぽくないだけ。
新人研修を経て少しだけ考え方が変わった。
彼らから得た知識を実際に生かしてみたいと思った。
彼らと共にではなく、自分一人の力で頑張ってみたいと感じた。
子供っぽい考え方から卒業し、俺は『大人になりたい』のだと気づいた。
「ロイドさんも言うようになったじゃないですか。
一週間前までレラちゃんにおんぶ抱っこしてもらわないとヤダーって赤ちゃん状態だったのにもう立派になって……お母さん嬉しいです」
レラは大げさに泣いたふりをしながらそう答える。
レラからそんな風に見られていたのか俺。子ども扱いされていた事実に少しだけショックを受けてしまう。
「今回のロイドさんの自立的な発言はすごくいいと思います。
私たちは冒険者ですからね。
いつまでも仲良く一緒にいられるとは限りません。
自分の力で色々と挑戦してみるのも良い経験になると思います」
冗談っぽく振る舞ってごまかそうとしているが、彼女の目の端にはうっすらと涙が浮かんでいる。
その言葉は嘘偽りのない本当の気持ちなのだろう。
「そう言ってくれて俺も安心したよ。マルスもそれで大丈夫か?」
「先生と離れるのは少し寂しいですけど、先生の言っている言葉は正しいと思います。
先生、今までありがとうございました!!」
マルスはしっかりと頭を下げて、声を上げて泣いた。
「別に今生の別れというわけでもあるまい。これまでどおり、冒険者ギルドでは普通に顔合わせるぞ」
「ロイドさんの言うとおりですよ。
マルスくんは大げさだなぁ。
ですが、お互いに別々のクエストを本格的に始めると、こうやって毎日お喋りするのは少し難しくなるかもしれませんね。
ランクも違いますし、一緒にクエストをやるのはしばらく先の事になりそうです」
レラの言っているランクの意味とは、ギルドの規則を指し示している。
自身の冒険者ランクより下のランクのクエストを受けるにはギルド側の許可が必要。
俺の冒険者ランクはDランク。
レラとマルスの冒険者ランクはBランク。
俺と二人のランクは二段階も違う。
それは当然だろう。
彼らは俺が冒険者になる前からずっと長く冒険者をしていたのだ。
同じ支配領域でも、冒険者ランクの位置づけには大きな幅があり、二人はその中でも最高ランクに位置している。
ギルドの規則的に、俺たち三人が同じクエストを行う事は、はじめから難しかったのだ。
それに気づいたのは昨日の事なんだが、いま思えばそれでよかったんだと思う。
もしこの規則がなければ、俺はいつまでたっても冒険者として自立することができなかったかもしれない。
だが、俺はこの規則がなかったとしても今と同じ気持ちになっていたと思う。
研修を終えて自信もついた。
なんとなくだけど冒険者としてやっていけそうな気がする。
おそらく今が、俺にとって一番良い『精神的な自立』のタイミングだ。
「それじゃあ二人とも。また今度、冒険者ギルドでな」
『明日』という言葉はあえて使わなかった。それが俺なりの『感謝』の気持ちだ。
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ランクD 支配領域
・仕事:魔物退治
・報酬:銀貨30枚
・仕事内容:ゴブリン討伐
・場所:ヴィッド大森林 低層
・期限:3週間
・目標討伐数:ゴブリン10体
・備考:夜間は危険なので森の近くにあるキャンプ地をご自由にお使いください。
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俺が最初に引き受けた依頼はゴブリン討伐。
期間内にゴブリンを合計10体討伐すればクエスト達成となる。
ギルド側としては、より多くのゴブリンを倒してもらいたいと思っているようで、ゴブリンを50体以上倒せば『追加ボーナス』が貰える。
今回俺が狩場とする《ヴィッド大森林》は王国内でも屈指の大森林地帯。
人の入った前半部だけでも相当の広さがあるので地図とコンパスは必須だろう。
事前に調べたモンスター情報によると、ヴィッド大森林に出現するモンスターは255種類。
獣型が12種類、植物型が243種類だ。
植物型のモンスターが大半を占めているため炎魔法が効果抜群なのだが、火事になる恐れがあるため火魔法の使用は固く禁じられている。
俺は炎魔法以外も幅広く使えるのでその点はまったく問題ない。
距離はミネルバからやや遠く、一般的な馬車を使えば三日程度かかるだろう。
今回は《魔導人形》を使って移動しようと思っている。
魔導人形とはその名の通り、魔力で動く人形だ。
人型と動物型の二種類があり、俺はそのうち動物型の魔導人形を所有している。
アイテムボックスから魔導人形のパーツを出してその場で組み立てていく。
5分ほどで魔導人形は一頭の馬の形になった。
これは俺の愛馬である《アルテミス》だ。
一般的な馬の二倍の速度で走る事ができ、急斜面の崖すら登る事ができる機動力と柔軟性を持っている。
人形なので餌もいらないし、排泄物の処理も必要ない。
魔物から攻撃を受けて破損しても、俺が魔力を加えたら即座に再生する。
魔導人形の価値としては宝具級と言えるだろう。
この《アルテミス》はルビーが俺のために製作したものだ。
ルビーと絶縁して以来、俺は無意識のうちに《アルテミス》を避けていた。これを見ていると当時のパワハラを思い出して気分が悪くなってしまうからだ。
だが、立派な冒険者になる事を決意したことで色々と吹っ切れた。
トラウマを完全に乗り越えたとまでは言わないが、以前のような嫌悪感はなくなった。
だから今日からコイツを解禁しようと思う。
馬に跨り、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
「俺の目標はただ一つ。クエスト成功率100%だ」
口元を引き上げ、《ヴィッド大森林》に向けて勢いよく馬を走らせる。
大自然の中で久しぶりに風を切る感覚はとても心地よかった。
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※クエスト達成条件がわかりづらかったので変更しました。




