第14話:友達として
ミネルバはメインストリートを外れると非常に入り組んでいるため追手を撒くのには適している地形だ。
路地を走り回っているといつの間にか追手の影は消えていた。
その代わり現在地がわからなくなったが、今回は地図があるので昨夜のように迷う事はないだろう。
マルスとレラの二人に視線を移す。彼らは疲労困憊であり、呼吸は乱れ、お互いに背中を預けてその場に座り込んでいる。
「相当疲れているようだな」
「はあはあ……当たり前じゃないですか先生……!」
「てか、なんでロイドさんは、息一つ……はあはあ……切らしてないんですか……!」
「《グロウ》の効果が持続しているからな」
肉体強化魔法のグロウを使用している間は、全身の筋力が上がるので疲労が溜まりづらくなる。これくらい魔法の常識だと思うけど、どうやらレラは知らないようだ。レラもまだまだ魔法の勉強が足りないな。
俺は《アイテムボックス》を開き、ジュースとタオルを二つずつ取り出して二人にそれぞれ手渡した。
「ありがとうございます先生」
「ロイドさんの《アイテムボックス》って本当に便利ですよね」
レラはタオルを首に巻いて、ジュースを飲みながらアイテムボックスの感想を口にする。
「その事なんだけど、あいつら《アイテムボックス》に驚きすぎじゃないか? そんなにすごい魔法なのかこれ?」
先ほどの騎士たちの態度が気がかりだったのでレラに質問する。
「超すごいですよ。その魔法を使える方はこの王国にロイドさんを含めても三人しかいませんからね」
「冗談だろ?」
「この顔が冗談に見えますか?」とレラは真顔で言った。
嘘でも冗談と言ってくれよ。
平穏な日常がテーマだったのにいきなりやらかしてしまった。
でもおかしいな。
俺の魔法の師匠は「マスター級魔法は誰にでも使える」と断言していた。
だから俺もそういうものなんだと単純に考えていた。
だが実際はこの有り様だ。
師匠を信じた結果のトラブルだから後悔の念はないが、もうちょっと勉強しておけばよかったと自分の知識不足を若干反省している。
もしかしたらマスター級の魔法は、俺が考えている以上に習得が難しいのかもしれない。
「だが、まだ大丈夫のはずだ。奴らは所詮俺たちとは他人。ほとぼりが冷めるまで待てば大丈夫だ。うんうん、大丈夫。いまの状況はアウト寄りのセーフってやつだ。キミもそう思わないかレラちゃん?」
「アウトに近いならそれはもうアウトなのでは?」
だから大丈夫だって言ってんだろ! 誰でもいいから俺に束の間の休息を与えてくれ。
「ですが先生。偉大なる先生の実力を隠し通すなんて難しいですよ」
「元はといえば今回一番悪いのはお前なんだぞ。お前が変な事言うから大騒ぎになったんじゃねえか」
「細かいことばかり気にしてると器の小さい男だと思われますよ先生。責任転嫁は良くありません」
「面白い冗談を言うねキミ。最高だよ、お前いま『ワンアウト』な?」と俺は笑顔でそう返した。
今の発言には本気でイラッとしたが、馬車を止めるために出しゃばった俺にも多少の非がある。
今回の一件はマルス一人の問題ではないと考えている。
それにマルスは俺より三歳も年下だ。年長者としてクソガキの失言には余裕のある態度で対応すべきだろう。
「ところでロイドさん。スリーアウトになったらマルスくんどうなるんですか?」
「………………」
「あっ、今の質問は聞かなかった事にしてください」
レラは触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに話題を変えた。
「ロイドさん、マルスくん」
レラは真面目な表情で俺たち二人を見つめる。
「二人とも、冒険者ギルドでの目立つ行為は控えてください。今回の件は日にちをおけばなんとかごまかせますが、ギルド内でマスター級だとバレてしまうともう手遅れです。マルスくんもギルド内でロイドさんの事を先生と呼ぶのはなしでお願いしますね。ロイドさんのセカンドライフがかかっているのですから」
「わかったよ」
話し合いの結果、流石に今日はマズイと判断したので、冒険者ギルドには日を改めて出直すことが決まった。
冒険者登録が遠く感じる。心なしか、ミネルバに来てからずっとトラブルが起きてる気がする。
俺、この街から呪われてんのかな。
宿屋に戻りながら今後のことについて色々と考えを巡らせていると、突然マルスが俺に話しかけてきた。
「ところで先生。あの御者に最後渡していたアレはなんですか?」
「あれか? 俺の財布だよ」
「へ?」
マルスは間抜けな声を上げた。
「えー、突っ込みたいことは山ほどありますけどおいくら入っていたんですか?」とレラが尋ねる。
「えっと、あの財布には『金貨200枚』入れてたはずだ」
俺がそう答えるとマルスは飛び上がるように驚いた。
レラも言葉を失っている。
「金貨200枚!? めちゃくちゃ大金じゃないですか先生! そんな大金を見ず知らずの方にお渡ししたんですか!?」
「聖人の生まれ変わりかこの人」
「そう言ってもらえると助けた甲斐があったよ」
「いや別に褒めてませんよ。むしろ幸先不安ですよ」
どうやら褒めてるわけではないようだ。
二人はひどく呆れている。
二人はいったん俺から距離を置いて小声で話し合う。
五分ほど過ぎた頃だろうか、最終的にレラが一歩前に出て咳払いする。
「えっと、これは説教でもなんでもなく、ロイドさんの『友達』としての私たちの意見です。
いいですかロイドさん。
困っている人がいれば手を差し伸べる。
それはたいへん立派な事だとは思います。
ロイドさんはそれをできるだけのお金も能力も持ってます。正直普通にすごいと思います。
言葉のみの慰めだけで何もしない奴よりも100倍立派だと思います。
ですが言わせてください。今回に関していえばロイドさんの行動は間違っています。
困っている人を全員助けていたらキリがありません。
いくらお金があってもいずれ底をつきます。
ロイドさんは優しいですからそれでも満足するでしょうが、ロイドさんの友達としてそれは決して見過ごせません。
私はよくわからない奴のためにロイドさんが損をするのを見たくありません。
正直、私からしてみればあの御者がどうなろうと知ったこっちゃないです。
むしろそのまま死んでもかまわないですって感じです。
私から言わせてもらえば、あの方に金貨200枚の価値はありません。
ロイドさんはもう少し『優先順位』を考えた方がいいと思います。
目の前の人物は金貨200枚を渡すに値する人物なのか、それをしっかり考えてからお金を渡しても遅くはないと思います。
これはマルスくんも私と同じ気持ちです」
二人はきっと自分たちが悪役になってでも俺を諭したいのだろう。
彼女の言葉は俺の心に深く刺さった。
レラが言ってる事はもっともだ。
今回は俺も軽率すぎた。
本来お金は大切なものだ。むやみやたらに施すものではない。
たとえ自己満とはいえ節度は守るべきだ。
専属魔導士の時に稼ぎすぎたせいか、ちょっと金銭感覚がバグってたのかもしれない。
今回の件は深く反省しないといけないな。
「わかった。今度からは控えてみる」
「それが一番ですよ。お金はお金よりも大切な人を守るためにこそ思いっきり使ってあげてください」
お金よりも大切な人を守るためか。
レラは本当に良いことを言うな。
「俺にとって大切な人か。今はよくわからないな」
「時間ならたっぷりあるんですからゆっくり考えればいいじゃないですか」
レラは簡素にそう答えた。
たしかにレラの言うとおりだな。
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