嵐将携帯
しかし女性にもてたからとて、それで鼻の下を伸ばすことはなく。禁欲的に、文武を修め、武人として国を守る任を果たした。
それがさらに女性の憧れを掻き立てた。麗もそのひとりだった。
(こんな機会でも瞬志オッパとお話ができるなんて)
厳しく詰問されるだろうが、事情を話せばわかってもらえるだろうという望みがあった。
「……」
亀甲船の船首に物見台があり、二名の部下とともに物見台から船を眺める。
もし矢が放たれたら、という危険もあり、止める部下もいたが。
「その時はその時さ」
と、将軍という立場に関わらず船首の物見台に立った。
「大きい船だな。……なのに、乗っている人数は少ないな」
不審なものを覚えるが、近づくにつれて、乗員の内容がわかるようになり。呆気に取られてくる。
「女子供もいるではないか」
「まるで家族連れのようですね」
「水夫らしきものもない。昨夜の嵐で水夫だけが沈むのも考えられませんし」
ふたりの部下とともに不審なものをおぼえつつも、警戒を怠るなと部下のひとりに、「甲羅」に伝えにゆかせた。
徐々にでも、互いの顔が見えるようになり、そこでさらに呆然とさせられる。
「兄さん! 僕です、貴志です!」
「オッパ、瞬志オッパ! 助けて!」
貴志と麗は思い切って、亀甲船向かって大声を上げた。
「な、何ッ! 貴志と、麗が? どうして!?」
将軍として威風も堂々とたたずんでいる瞬志でも、これには驚きを禁じ得なかった。部下も言葉もない。
しかし、すぐに気を引き締めなおし。
「接舷せよ! 船の乗員を拿捕する」
亀甲船はついに船に接舷し、梯が掛けられ、数名の部下とともに将軍の瞬志自ら乗り込んだ。そこには確かに、辰に留学をしていたはずの弟の貴志と、行方不明になっていた朱家の娘、麗がいた。
他の者たちは何者であろう。
部下は水軍用の短槍を構え、穂先を源龍たちに向ける。
源龍は鎧を着て、打龍鞭も携え、目つきも鋭く臨戦態勢だ。曰く、
「オレはただじゃやられねえぜ」
貴志は相手を刺激しないために丸腰がいいと言ったが、聞く源龍ではなかった。同じように香澄も七星剣を腰に帯びて臨戦態勢だ。彼女は何も言わなかったが、源龍と同じようにただではやられないと思っているのだろうか。
将軍の瞬志は、一同を見据える。その目つき顔つきから、心情を探ろうとする。
(恐れも諂いもなく、我らと対峙するとは。刃を交えれば、こちらもただでは済まぬ)
黒い鎧姿で硬鞭を携える武人と、腰に剣を帯びる少女剣客ともいうたたずまいの少女。それだけではなく、麗以外はそれなりの手練れであることを、瞬志は察した。




