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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

「くそ、こいつはこんなにやべえ奴だったのかよ!」

 源龍が唸る。いよいよオレも年貢の納め時かという気持ちも強くなり、内心覚悟を決めた。

 これに負けたらどうなってしまうのだろう。さっき見た人狼や画皮に劉賢、光燕世子のように、彷徨える魂となってしまうのだろうか。

「どうして……」

 マリーとリオン、コヒョとともに、へたりこむ聖智に寄り添う貴志は、皆が戦う様を見上げて、知らず思案して。思案して、思案して、思案しつつ、筆の天下を掲げて、

「幸福」

 と書いた。

「か、書けた」

 当の貴志が驚いた。驚いてから、

「みんな、幸福になりたいんだ。幸福になりたくて……」

 と、ぽそっとつぶやいた。

 幸福の字が宙に浮く。すると、どす黒い何かは動きを止めた。そうかと思えば、一瞬にして、ぱっと消え去り。

 瞬く間に世界樹の草原世界が戻ったではないか。

「な、なんだ!?」

 突然のことに、源龍や羅彩女に龍玉と虎碧、鵰の背の穆蘭は得物を持ったまま呆気に取られた。

 鳳凰は静かに佇み、世界樹と並んで二大巨頭であるかのような威厳を放っている。

 どす黒い何かと戦っていた面々は、呆気に取られつつ。金色の羽を伝って下りて。穆蘭も鵰を下ろして、自分も草原に下りて。

 世界樹のそばで、一同集って、周囲を見渡し、空を見上げた。

 空は青く澄みわたり、太陽も燦然と輝き。白い雲が思い思いに空を泳ぐ。そんな中で、筆の鄭拓が気まずそうに浮いているが。火に包まれたまま……。

 香澄の目から、一粒涙がこぼれ落ち。咄嗟に鳳凰の背に飛び乗ったと思えば、鳳凰もまた猛禽類のごとくの咆哮を放って、翼を広げて、飛翔した。

 火に包まれた鄭拓の筆は何の反応も示さないまま、鳳凰に迫られて。香澄は七星剣の柄を握りしめて、その背から跳躍した。

「お眠りなさい」

 紫の珠が七つ埋め込まれた七星剣が一閃すれば、紫の一閃ともなり。火に包まれた鄭拓の筆は、火に包まれたまま斬られて。

 風に吹かれて、火は消えて。筆は塵芥のように散り散りになって、消失していった。

 筆を斬ってから落下する香澄を鳳凰は背で受け止め、降下し、優しく着陸し。香澄は背から跳躍して下りた。

 その様は蝶が舞うようであり、一同は思わず見惚れてしまった。

「終わったのか……?」

 貴志は筆の天下を手にしたまま、筆の消えた空を見上げた。源龍も打龍鞭を担いで、空を見上げ、

「みてえだな」

 と、ぽそっとつぶやいて言葉を継いだ。

「無残な、そして哀れな……」

 聖智はかつての自分と重ね合わせながら、宗教家らしく心の中で鄭拓の冥福を祈った。

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