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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

 ぶつかる直前、源龍は打龍鞭を突き出せば。先端は殺の字に当たり、手を離せば、柄は幹に当たり。源龍は身一つで咄嗟に離れて。

 柄は幹にめり込み、先端は殺の字の棘を突き、さらに殺の字そのものにもめり込んだ。

「どうなってんの?」

 穆蘭は鵰を着地させて、自分も下りて様子を見れば。殺の字は世界樹の木陰で、ぴくりとも動かない。無手の源龍が木陰から出て、忌々しく殺の字を睨んでいる。

「ははあ」

 なるほどそうかと納得した途端、殺の字はぼやけて。風に吹かれて霧散するように消失していった。

 打龍鞭の柄は幹にめり込んで突き刺さったままだ。

 源龍は咄嗟に目を戻して、迫る殺の字に打龍鞭を突き出し。柄の先端を幹に着け。打龍鞭がつっかえになって殺の字の動きが一瞬鈍って、その隙に源龍は逃げ出した。その後も勢いのまま殺の字は自ら打龍鞭に突き刺さる格好となって、そのまま自滅してしまった。と穆蘭は読んだ。

「殺の字が殺されたわけだ」

 などと諧謔を込めたつぶやきも漏らす。

「世界樹に助けられたな」

 源龍は木陰に戻り、幹に突き刺さる打龍鞭を引っこ抜いた。幹には穴が開いてしまった。それを撫でて、

「すまねえことをしたな。だがおかげで助かったぜ」

 と、労わるように言った。

 そよ風が吹く。枝葉がややささやくように音を立てた。源龍に応えるように。

「結構てこずっちゃって。あたしなら瞬殺だったよ」

「うるせえ」

 打龍鞭を担いで木陰から出て、鄭拓の筆を睨み上げる。

「これで終わりか。雑魚なんざ出しやがって」

 と、啖呵を切る。

「見事だ!」

 鄭拓の筆は賞賛を惜しまなかった。

「敵ながら天晴。惜しいと思う者ほど我が敵となる」

(そうやって忠臣を始末していったのか)

 貴志は背筋が寒くなってくる。だが源龍はふんと鼻で笑う。

「その言い方だと、てめえに着くのは馬鹿ばかりだってことか」

「率直に言えばそうなる」

「ふん、ざまあねえもんだな。馬鹿にまとわりつかれるたあよ。字の読めねえオレでもこんな諺くれえは知ってるぜ。類は友を呼ぶってな!」

「それは、私が馬鹿だというのか!」

「ああそうだ。何が筆を制するものは天下を制すだ、字の読み書きができてもその程度じゃ話にならねえぜ、馬鹿宰相さんよ!」

「おのれ、言わせておけば……」

 鄭拓の筆はわなわなと震えているようであった。

 羅彩女と龍玉は胸がすっとするものを覚えるその啖呵の切れっぷりに感心し、

「いいぞ、いいぞー、もっと言ってやって!」

 と声援を送り。

 貴志と香澄に虎碧、マリーとリオンにコヒョは互いに顔を見合わせ、源龍の戦いぶりや話しぶりに同じく感心した。

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