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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

「そうだな、我ながら無粋なことであった。では早々に決着をつけよではないか」

 言うや、見よ、東に伸びる影が、むくりと起き上がってきて、それぞれと対峙するではないか。

「影が!」

 貴志は思わず唖然として、一瞬身を固めてしまった。が、すぐに気を取り直して影に備えれば。かかと落としが頭目掛けて振り下ろされ、それを咄嗟にかわした。 他の面々も、影が起き上がると同時に得物を構えて、やりあっていた。といってもリオンとコヒョは、

「ひゃああ、僕は喧嘩はからきしなんだよお~」

「僕ももう戦えないんだよお~」

 と、影を引きつけながら影から逃げるのを余儀なくされた。

 他の者もなんとかしてやろうと思っても、自分の影に襲われ他者にかまってやる余裕はなかった。

 鳳凰や鵰でさえ、己の影に襲われて翼を激しく羽ばたかせて空中戦を余儀なくされていた。

「おらあ!」

 怒号が響き、影が吹っ飛ぶ。源龍であった。自身の影を打龍鞭で打ち、吹っ飛ばし。影は打たれたのと気迫に押されたのか、倒れてへっぴり腰の有様をさらしてしまっていた。

「よくそんなんでオレの影をしてたな!」

 容赦なく打龍鞭が振り下ろされて、影の頭を粉砕した。それから影そのものが塵のようになって、風に流されて消失してしまった。

「ふん、他愛もねえ!」

 打龍鞭を空振りさせれば、咆哮のようにぶうんと唸る。影に視線というものがあるのか、頭の角度から視線を源龍に集中させているようにも見える。

「目がイってる……」

 羅彩女は苦笑交じりに言う。貴志は何も言えなかった。皆が影に苦戦する中で、源龍だけは、なんと楽勝してしまった! 

 それでも満足していないようで、その、羅彩女の言うイった目が、他の影に向けられる。

 香澄はリオンとコヒョをかばいつつ、微笑んで頷いた。

「ほほう、面白いではないか!」

「ああ、楽しいぜ」

 不気味なくらいにふてぶてしい顔つきになって、源龍は西の太陽を見上げた。

 影は相手に襲い掛かるのを一旦やめて、休戦状態になった。その間に鳳凰と鵰が下りてくる。

 穆蘭は素早く鵰の背に乗った。

「さあ、この間に!」

 香澄は声をかけて、鳳凰の背に乗るよう皆に促せば。承知と皆一斉に鳳凰の背に飛び乗った。ひとり源龍を除いて。

 鳳凰と鵰はともに飛翔した。

 それとは逆に鳳凰と鵰の影は地上に下りて、他の影と一緒に源龍を囲んだ。

「本当にすごく楽しそうな……」

 貴志は源龍の気性を知っているようで、まだまだ知らないと痛感していた。見よ、影に囲まれながらも楽しそうなあの顔を。それでいながら邪気がないその顔を。

「源龍は生粋の戦士。戦いこそ無上の喜び」

 香澄が詩を朗読するように言う。虎碧と聖智は戸惑いつつも頷く。

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