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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

 あっけないものだった。あまりにあっけなさすぎて、安堵するよりもぽかんとしてしまったほどだった。

 太陽も姿を見せ、地上を照らす。

 陽光が降り注げば、不思議にも生命の気配を感じさせぬ岩盤の世界にも生命があるかのように感じられた。いや、感じられたではない。

 ぷうんと、羽虫の羽ばたく音が小さいながらも聞こえた。生命があったのだ、この岩盤の世界にも。

 ともあれ、一旦別れた面々だったが。

 香澄。

 源龍。

 李貴志。

 羅彩女。

 リオン。

 マリー。

 コヒョ。

 龍玉。

 虎碧。

 南達聖智。

 穆蘭。

 と、再び勢ぞろいをしたのであった。

 善い鳳凰が下りてくる。その時に起こされる風は心地よく、まるで春風のようでもあった。

 香澄は微笑んだ。善い鳳凰も、微笑み返したように見えた。

「でっけえなあ」

「ほんとにねえ……」

 源龍は打龍鞭をかつぎながら見上げて、ぽろっとこぼしてしまった。豪奢な鶏冠に尾羽、黄金の羽毛の覆われたその姿は威厳に溢れていた。意地っ張りな源龍と羅彩女でさえ、素直に威厳を感じてしまうほどだった。

 リオンとコヒョも、鳳凰をまじまじと見やる。空では太陽が輝き、雲は払われて。澄んだ青空が広がっていた。その空を、鵰は悠々と飛び、その背の穆蘭は空の遊覧を楽しんでいた。

 これを、聖智が筆の天下から出した旨を伝えられて、驚き、視線が彼女に集中する。

「よしてくれ、照れるじゃないか」

 彼女にしてみれば、ただ必死だっただけで。鳳凰が出るなんて思わなかったから、自身の驚きも大きかった。貴志は筆を聖智に託してよかったと感慨深かった。

「と言っても、まだ終わりじゃないわ」

「……そうだな」

 暁星のことは大丈夫そうだが、辰である。鄭拓が反乱を起こし実権を握っている。どのようにしてなのか。鄭拓が最後の敵であり、それを倒せばすべてが治まるのかどうか。

 世界樹にしても、この戦いによって、どこに導くというのか。

 五里霧中での戦いはまだまだ続く。

 鳳凰は着地し、優し気な眼差しを一同に向ける。香澄は微笑み、跳躍し、その背に乗る。

「行きましょう。もうひと息よ」

 などと言う。

「もうひと息か」

 本当にもうひと息なのかどうか、わからないが。源龍も香澄に続いて跳躍し、鳳凰の背に乗った。それから羅彩女がリオンを抱きかかえて、貴志がマリーを抱きかかえ、聖智がコヒョを抱きかかえて、跳躍して鳳凰の背に乗り。龍玉と虎碧も、互いに頷き合って跳躍し、鳳凰の背に乗った。

「すっげえな」

 源龍は驚きが止まらない。鳳凰の背は広く、まるで黄金の草原にいるような心地よさだった。

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