我画願望
(これらは全て、人の心が生み出したものか)
聖智と貴志の心の中では、しきりにそのことが反芻されていた。この禍々しい、人食い鳳凰の天下に、人狼に画皮に、鋼鉄の阿修羅に火龍。
(人の心に向き合えるのは、人の心のみ)
ということも、同じように反芻していた。
「……」
聖智はふとふと、鳳凰の背に我が身を預けながら思惑を巡らし。
「火龍を頼む!」
と言って背から跳躍し、金の羽を伝って地上へと降下する。
空には無数の金の羽が舞っていたが、それらは地上へと舞い降り。角では吹き溜まりもいつの間にか出来ていた。
地上の人々も、この天から舞い降りる金の羽を見て、触れて、何事かと驚いていた。中には懐にしまう者まであった。そうであろう、金の羽である。手触りこそ鳥の羽そのものだが、金色というものは人心を捕らえてしまうものである。
だが世の中甘くないもので、金の羽はしばらくすると露のように消えてなくなってしまった。吹き溜まりでさえも、春の雪のように消えてなくなってゆくではないか。
人々はおおいに驚き。やはり鳳凰というのは人知を超えた幻獣なのであるという認識を改めてしたのであった。
そんな中、金の羽とともに聖智が金の羽を伝って降りてくるから。それを目にした人々は改めて驚き。
「て、天女さまだ!」
と、跪く者までった。
「よしてくれ、私は天女などではない」
誤解に複雑な気持ちになりつつ、貴志のもとまで駆けた。貴志もこれに気付き、どうしかのかと聖智と向き合えば。
「ちょっとーッ!」
と、空からの叫び。穆蘭だった。鵰をけしかけ逃げる悪い鳳凰の天下を追っていたのがいつの間にか戻っていた。ということは、悪い鳳凰の天下もいるということで……。
(それどころじゃないだろう)
貴志は苦笑する思いを堪えて敢えて無視して聖智と向き合い、聖智も取り合わない。
「もうッ!」
穆蘭も自分の思惑が身勝手な嫉妬にすぎないのをわかっているので、頬を膨らませつつもこだわらず。悪い鳳凰の天下を追った。
「しつこい奴め!」
悪い鳳凰の天下は逃げ惑いながら悔し紛れの叫びを放って。そのまま慶群を突っ切り、空の彼方へと消えてゆき。穆蘭と鵰も同じく空の彼方へと消えてゆく。
「なんなのよ……」
龍玉と虎碧も苦笑しつつ、鋼鉄の火龍と対峙する。
今は筆の天下から出でた鳳凰の背から離れて、金の羽を伝い伝いしながら、青い炎を、赤い氷を放っていた。
鋼鉄の火龍の放つ紅蓮の炎と龍玉の青龍剣の放つ青い炎とがぶつかり合い。衝撃音と爆発音を轟かせ、弾けて消える。




