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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我想展示

「……」

 筆の天下を握りしめて、貴志は鳳凰と自らが創り出した穆蘭と鵰を交互に見上げて眺める。

(悪い鳳凰を生み出したのが人の心ならば……)

 筆の天下を掲げれば、他の者は、なにをするのだろうとその様をながめる。鵰もその筆から描き出されたのである。さらにその直前に穆蘭が忽然と現れた。

(貴志おぼっちゃまは、不思議な力の持ち主なのだろうか)

 そう思った者がいても、仕方のない話だった。

 事実、役人や召使いらは皆、貴志を見る目が今までと違っていた。それは言葉にするのは難しいものだったし。

 貴志自身も、そんな視線を痛いほど感じていた。しかし今はそれに頓着する場合ではない。

「貴志殿!」

 聖智スンチだった、得物の軟鞭を手に、必死の形相で貴志を見つめていた。

「あの、鵰をまた描けませんか?」

 などと言うではないか。そこから、穆蘭のように鵰の背に乗って戦おうという意思が感じ取れた。

「……、ちょっと待ってください!」

 貴志は筆の天下を手に、そらの鳳凰・天下を見上げていた。

 あの、悪い鳳凰の天下が人心によって生み出されたというならば……。

「聖智さん」

「はい?」

 貴志は知らず微笑んでいた。微笑まれた聖智は、一瞬どきりとしながらも、目をそらさずに次の言葉を待った。

「本当に変わられましたね」

「……」

 貴志の言葉に聖智は絶句した。自分のことをひどく恨んでも仕方ない貴志だが、それにかまわず親切にしてくれていた。それに対して恩義も感じていたが。

「ちょっとー!」

 空から穆蘭のあらぬ叫びがこだまする。貴志と聖智がいい雰囲気っぽいのを空から見下ろし、やきもちを、つい焼いてしまった。

 鳳凰の天下は、上空を旋回しながら、さてどうしてくれようとばかりに鋭い嘴を開け。けたたましくいなないた。

 その獲物を狙う猛禽類のような獰猛さを感じさせる鳴き声は、吉兆と思って手を合わせる人々の肝を突き、寒からしめ。その場にへたり込ませる有様であった。

 穆蘭はそれに怖じることはなかった。やきもちをつい焼いてしまったが、すぐに気を取り直し。

 貴志と聖智のことを気にしているどころではない、ええい、もう! とばかりに鵰をけしかけ、鳳凰の天下に突っ込ませた。

「天光北斗弾!」

 穆蘭の青い珠の七星剣から、七つの青い光弾が迸り出る。

 しかし鳳凰の天下は、光弾を避けようともしない。尾羽をひと振りすれば、光弾は打ち返されて。

 穆蘭と鵰は咄嗟に避けて。はるか彼方で、爆発した。

「なんのッ!」

 めげず、穆蘭は上手く鵰を操り、鳳凰の天下から間合いを取り。天光北斗弾を撃つ機会をうかがう。

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