我想展示
胸の奥底から、軽蔑の念も湧き起こり、それをなだめつつ。曇天の一部を見つめていれば。
一部は切り取られて破片となり、破片は人の姿になりつつ、降下してゆく。
いや、人?
人のように見えたが、目を凝らせば、それは人ではなかった。それはふたりと言うか、ふたつと言うか。一方は、人狼。一方は、蚯蚓が集まったような画皮の中身。
そう、空を覆う曇天の分厚い雲の一部が破片として切り離されて、人狼と画皮の姿に変じたのである。
灰色の雲の人狼と画皮は、手足をじたばたさせて、大口を開けてなにやらわめいているようだった。
それは光りの中の蜘蛛の巣の網の中の四人にも見えた。
「ありゃあ、狗野郎に蚯蚓野郎じゃねえか!」
「え、ちょっと、待って。ああやって、雲にってことは?」
「うん、そうだね」
「悪い鳳凰の天下に食べられちゃったんだね……」
それから、四人して絶句。源龍すら減らず口を叩かない。
とかやっている間に、そのふたつと同じように曇天の分厚い雲が、一部がちぎれて、ちぎれてして破片となって、同じように何かしらの姿に変じて。降下してゆくではないか。
「おろろ~ん」
という、不気味な唸り声も響く。
人の気配はおろか、生命の気配すらない、ごつごつの岩盤の世界で。鳳凰に食われた者たちの怨念の響きがこだまする。
香澄は七星剣をひと振り。七つの珠の剣は空を切り。それから、高く跳躍した。この岩盤の世界で、紫色の蝶が羽ばたいたようであった。
同時に、雲から変じた様々なものが、香澄に迫る。
「……。えい!」
コヒョは窮屈な中でどうにか合掌して、気合の一喝を放つ。そうすれば、香澄はまさに蝶にでもなったかのように、飛躍してゆく。コヒョは自ら飛ぶことも出来て、他も飛ばすことが出来る力があった。
香澄はコヒョを信じて跳躍して、コヒョもそれに応えたのであった。
「うおおおーーーー、忌々しい、何もかもが忌々しいぃぃーーー!」
「ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!」
灰色の雲の人狼と画皮は目一杯喚く。とても聞いていられないような、酷い言葉を。
そこに迫る七星剣。
香澄の腕前ならば、雲の人狼も画皮も一巻の終わりと思われたが。憎たらしいことに、
「なんだぁおめえはぁー!」
「あらよっとぉ!」
などと言いながら、ひょいひょいとかわしてしまう。
「あいつら、あんな手練れだったか!?」
香澄の七星剣がかわされて、源龍も驚きを禁じ得ない。反射神経だけで動いているのではない。武術の体捌きとしての技能も感じられるかわし方だった。




