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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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慶群帰還

 羅彩女は素早く離れて源龍の横に駆け戻った。その源龍は香澄と向き合い、「三国伝」の朗読に耳を傾けていた。羅彩女も同じようにした。

「国亡びて群雄割拠す。互いに相争い、弱きは強き降り、あるいは滅ぼされて。強きは新たに国を興す。その国三つにして、それらもまた互いに相争う……」

「いつのことだ?」

「ずっと昔の事よ。前に行った白羅よりも昔」

「ふん。人間ってな、昔から同じことを繰り返すもんだな」

 源龍はぽそっとつぶやく。

 辰も統一国家の大帝国、とはいえ、戦は全くなくなったわけではなく。各地で小競り合いの紛争はあって。源龍は戦場を駆け巡った。

 歴史など学べていない源龍だったが、同じことが繰り返されてきたというのは、なんとなく察した。

「わずかばかりのお偉いさんのために、どれだけ死んだか」

「一将功なりて万骨枯る」

「なんだそりゃ?」

「一人の将軍の功績の陰で、たくさんの人が死んだ、という諺よ」

「そんな言葉があったのか。まあ、そんなのばっかりだぜ」

 源龍は苦々しく言う。戦を起こすと決めた者は大仰な大義などと声高に叫ぶが、実際の兵卒の扱いときたら、ろくなものではなかった。それでも、とりあえずでも食っていけるから貧しい者は募集に応じた。あるいは嫌がるのを無理矢理駆り出された。

 そして、たくさん、死んだ。

「おふくろおふくろ言いながら死んだ奴。金目当てで戦行って死んだ奴。どさくさに紛れて泥棒働きをして、女をいじめる奴。そそのかされた奴。血と泥がいやでお偉いさんに取り入ってうまいことやる口八丁手八丁な奴。色々だ」

 源龍の脳裏にまざまざと人間の汚い部分が思い起こされる。で、戦をすると決めたお偉いさんたちは、戦場に出ず後で格好だけの参戦。

 そして、全てを自分ひとりでやって来たかの如くの、傲慢な振る舞い。

「そこまで見てきているなら、読んであげる必要はなさそうね」

「なんだそりゃ?」

「これはそんなお話」

「軍記とか戦記とかいう奴か。まったく、戦争に行ったことのねえ奴らがそんなので戦争を楽しんでやがるのか」

「そうね。英雄豪傑の活躍は胸躍るわね」

「ふん。他人事だな」

 源龍はひねくれた様を見せる。香澄は微笑む。

「でも、そればかりじゃないわ」

「なんでえそりゃ」

「これは人の愚かさや儚さを書いたものでもあるわ。三つの国はいずれも亡んで、別の新しい国が天下を統一するの」

「あーなんか散々見せられたことだな」

 戦を始めるお偉いさんたちは、負ければそれはそれは悲惨なことになるが。お偉いさん同士共倒れでつぶれて、他の成り上がり者がいつのまにかお偉いさんになっていた、なんてことも、散々見せられたものだった。

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