慶群帰還
貴志は思い切って聖智に声を掛けた。
「あなたも、一緒にどうですか?」
貴志は聖智が一旦は光善寺に赴いて、元煥と面会していることを知らない。
声を掛けられた聖智は、静かに目を開き、じっと貴志を凝視する。
「私が憎くないのか?」
「……」
貴志はすぐには応えられなかった。が、少し間をおいて、静かに語った。
「複雑な気持ちは、ありますよ。でも、だからこそ、一緒にお寺にと」
「お寺なら行ったことはある。法主にも会った」
聖智は自身の来し方を語った。もちろん全員初めて聞く話だ。
「そうだったんですか」
「そういえば、初めて会った時にコヒョのこと、虐待してないか疑われたねえ」(410部参照)
龍玉が言うと虎碧と当のコヒョも頷いた。
「あんたも、オレと同じ人間だったんだな」
源龍にとっても仇ではあったが、わかるところもあった。源龍とて、傭兵として、食っていくために戦場を駆け巡り、刃を振るった。ということは、人を殺してきたのだ。
聖智のことを責めるのは、自分のことを棚に上げるような恥を覚える。ということまでは感じなかったが。同類相哀れむ、ということは少しながら感じるのだった。
ともあれ、一同、寺に行こうというときであった。丁度その寺から遣いが来たという。
何事か。まずは遣いが何を伝えに来たのかを教えてもらってから、寺に行こうと思ったが。
「寺には来るな、ということだ」
遣いが帰って、伝えられたことを一同に報せに来た志明が言う。
「どうしたってんだ?」
「今、災厄を払うため皆で経を唱えているとのことだ。その邪魔をされたら、法力も萎える、と」
「はあ?」
源龍は、元煥のことを法主や僧侶というよりも、面白いおっさんくらいにしか思っていなかったので。その真面目な理由で来るなとか伝えられたことに呆気に取らされたものだった。
寺に行くのも、その面白いおっさんが目当てだったから、失望も大きい。
「遣いをよこしたということは、よほどのことだな」
元煥は基本的には、来る者は拒まず、去る者は追わずなので。いつでも寺に行けた。特に悩みをもって寺に赴いた者は、いかなる用事があろうとまず差し置いて、その者の悩みに耳を傾け、心からの助言をしていたものだった。
それが、来るな、とは。
「オレもまあ、あんな思いをさせられたんだ。いやでもおかしいと思わざるを得ん。凡夫がこうなのだから、法主ともなればなおさら世の異変、妖異を感じているのだろうな」
「ちぇ、つまんねーの」
源龍は素直に言い。志明は眉をひそめ、貴志は苦笑する。




