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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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慶群帰還

「王様、緘口令を布きましょうか」

 などと太定は、民衆のたくましい想像力からの、あらぬ噂から騒ぎになるのを警戒してそう言うが。雄王は首を横に振り。

「人の口に戸は立てられぬ。好きにさせておけ」

 と言う。

 それに対して太定は、好意的な頷きを見せた。

「なるほど。緘口令を布けばさらなる疑惑を生みましょう」

「いずれ飽きる。むしろ飽きぬ者がおれば、それは……」

 雄王の目が強い光を帯びる、ように見えた。

 やがて馬車は慶群の庁舎に着いた。見張り番がうやうやしく礼をするのを見届けつつ門をくぐれば、慶群に仕える文官や武官の中で高位の、わずかな者らが並んで直立不動の姿勢から、馬車を目にすると同時に深々と礼をする。志明もいる。

「王様は慶群の様子を気にされて、お忍びで来られた。滅多なことを口にせぬように」

 と、改まった口調で言う。

「色々と世話を焼かせてしまうな」

「滅相もございません」

 志明は、余計な騒ぎにするまいと、雄王のことはわずかな数の者にしか知らせてない。劉開華のことは秘密にしてある。今の服装はチマ・チョゴリで、公孫真も暁星の服装で、何も言わなければお付きの者である。幸いふたりも、自分のことは秘密にして、お付きの者のように振る舞っている。

 雄王は志明と太定に付き添われて、用意された部屋にゆく。劉開華と公孫真も用意された部屋にゆく。それぞれ個室で、部屋に入って、それぞれ安堵して、ふうとひと息ついた。

(自分の部屋ではないが、ゆっくりと出来ることがこんなにもありがたく感じるとは)

「しばしゆるりとさせてくれ。用があれば言うゆえ」

「かしこまりました」

 と、文官武官は応え。信頼出来る警護の者を残し、部屋から離れる。警護の者のそばには、志明が付き添う。

 代官として、王から離れることは出来なかった。食事の用意もしていたのだが、ゆっくりしたいとなれば運ぶことも出来ず。言われた通り、静かに待機するしかなかった。

 しかしその一方で自分の勤めもある。文官も付き添わせて、立ち机と代官の印璽も用意させて。王の部屋のそばで、重要書類の確認や押印をこなすのであった。

 それからしばらくして、他の者たちの馬車が到着した。これもすでに手筈は整えている。

 王らのために部屋を使ったので、各個人に部屋を用意することは出来なかった。悪いが広間で雑魚寝してもらうしかなかった。その旨を出迎えの役人から聞いた面々は、仕方ないと受け入れるしかなかった。

 男女が一緒だが、間違いを犯す連中ではないのは信用してもよいだろうから、一緒に広間にいてもらうことにした。

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