鋼鉄激突
「香澄や貴志もいるのか」
「うん、いるよ。でも、なんか楽しそうだねえ」
「そうだねえ、なんか思った以上に面白くてねえ、これ動かすの」
李兄弟はぽかんとしていた。龍玉と虎碧は顔を見合わせて苦笑。聖智は戸惑いのあまり、いっそ消えてなくなりたい思いに駆られていた。
(これは罰か……)
天頭山からわけもわからぬままに、亀甲船に乗って気が付けば海の上。これが天魔の業と言わずして何と言おう。これも天魔に魂を売ったゆえなのかどうか。
中に王や公主がいる。このことを言うべきか。瞬志は考えたが。考えるまでもなく、
「何事だ」
と、雄王は自ら外に出て、空を見上げて目を見張る仕草を見せた。やはり驚きを禁じ得ず。
(我が命運ついに尽きるか)
と覚悟を決めた。
その後ろには志明が控えて、同じようにぎょっとしていた。
「ああ、大丈夫大丈夫。これは源龍と羅彩女さんだよ」
「この龍は星龍っていって、味方だよ」
リオンとコヒョが言うが、要領を得ない。
雄王が出るのに続いて、劉開華らも出て。結局皆外に出て、鋼鉄の星龍を見上げることになった。
香澄は微笑んで、空の龍たちを見上げている。
甲羅の装甲の頂上で、翼虎の旗がはためく。
他の船もおり、その船の人々もひたすら驚き。皆、必死に帆を張って、艪をこいで逃げる。
「ねえねえ、やることがあるんだよ。忘れてない?」
「……おお、そういやあ、そうだった。あの狗野郎と蚯蚓野郎はどこ行った!?」
人狼と画皮を追っていたのだ。それがなぜか、今こんなである。まったく世界樹のやらせることは、人知の及ばぬことであった。
「そろそろ来ると思うよ。用心して!」
コヒョが言う。
風が出てきた。亀甲船は風に乗って速度を速めた。
「まさか、同じようなのに乗って来るんじゃないだろうね」
「お姉さん、察しがいいね」
羅彩女の疑問にリオンはにこりと応えた。
と思えば、空の彼方で何かがきらりと光ったかと思えば。猛烈な速度でこちらに向かって飛んでくる。
それは銀色に光る鋼鉄の何かであった。近づくにつれその姿が見えてくる。
風はさらに強くなり、潮の流れも変わり、亀甲船のみならず、他の船たちも港へと流されてゆく。
「巨人!?」
空の彼方からやって来たのは、飛んでるのも不思議な巨人であった。鎧を身にまとい、腕が六本、顔面も左右にある。
阿修羅だ。それも、鋼鉄の。不気味に銀色に輝いている。
どうやって造ったのか。誰もわからない。ただただ驚くしかなかった。
「鋼鉄の星龍に続いて、鋼鉄の阿修羅とは」




