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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄激突

 立っていたと思ったら、椅子に座っている。そばにいたと思っていた奴が、いない。自分ひとり椅子に座っている。

「なんだいなんだいこりゃあ?」

「こりゃあなんだ、なんだこりゃあ?」

 源龍も羅彩女も、周囲が明るくなって自分の状況が分かると同時に、度肝を抜かれるほどの驚きを禁じ得なかった。

 自分らは離れ離れになって、狭い部屋の中で、椅子に座っている。

 打龍鞭は狭い部屋に立てかけられて。軟鞭は巻かれて椅子の後ろに置かれていた。

「準備はいいか?」

 などと、声が聞こえる。

 老若男女のいずれの声にも聞こえる不思議な声というか。外から耳を通じて聞こえるのではない。心の中から頭へと通じて伝わるのだ。

「世界樹か?」

 と思いつつ、きょろきょろするが、声を発するものは見当たらない。

 源龍と羅彩女は身体に密着するような、それでいて座り心地の良い柔らかな座椅子に座らされている

 座椅子はやや高めで脚を伸ばせば、床は斜めになってそこに足を乗せて踏ん張れるようになっている。

 目の前には、水晶が浮いている。

 四方の内左右と後ろこそ漆黒の壁なものの、前面は視界が開けている。広い青空と広い海が広がる。

 自分たちは海上にいるようだ。詳しく言えば、海を見下ろす、宙に浮かぶ狭い部屋の中にいるようだ。

 両肩の上と腰のあたりの左右から帯が四本出て、丹田のあたりで結ばれて。身体を固定されていた。

 腕と脚は自由に動かせる。帯の結び目もほどこうと思えばほどけそうだ。

「おい、世界樹、声が出せるならオレの声も聞こえるだろ!」

 眼前に広がる大空に向かい源龍は吠えた。羅彩女も同様に、

「なんとかお言い!」

 と、吠えた。

「……お前たちは」

 声が伝えられた。同時に眼前に広がる海と空に変化が起き、なんと、あの鋼鉄の火龍が出現したではないか。

 源龍には黒いのが、羅彩女には赤いのが。

「それぞれ、この、火龍の中にいる。お前たちがいるのは、顔の中」

「なんだって?」

「なんだそりゃ?」

 何を言ってるのか、要領を得ない。自分たちは狭い部屋の中、帯で座椅子に固定されていて。それが鋼鉄の火龍の中だというのか。

「馬鹿も休み休みにしろ!」

「水晶玉に触れてみろ」

 ふたりの文句おかまいなく、言葉が伝えられる。

「……」

 眉をしかめ舌打ちしながらも、ふたりは水晶玉に触れてみた。すると、透き通った水晶玉はほのかに光を発した。

「水晶玉を通じ、火龍に生命を与え、意のままに動かすことが出来る」

「うおお……」

 まさか、と思いつつ、源龍は宙返りを、羅彩女は上昇をさせてみれば。それぞれが乗る火龍はその通りの動きを示した。

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