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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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突撃流星

「これ、王様を差し置いて!」

 と、瞬志は言いそうになったが。それより先に、

「見事だ」

 と、香澄の動作や身のこなし、平衡感覚に、雄王は感心しきりであった。暁星のチマ・チョゴリも映え、その裾も軽やかに舞うようだった。

「高いところから失礼いたします」

 欄干の上に足を乗せ、よろけることなく。華麗な仕草でお辞儀をする。それがどのようなことか。瞬志は、香澄の技、そしてわざに心を奪われそうになりながらも、畏怖も禁じ得なかった。

 貴志は尚更だった。

「って言うか、鋼鉄の火龍!」

 龍玉の声で緩みそうな緊張感が引き締めなおされた。そう、亀甲船が目指す北辰から、鋼鉄の火龍が無数に迸り出たのだ。

「貴志、王様に筆を」

 言うや、青銅鏡から星がひとつ浮きでるようにしていでて、宙を漂い雄王の胸元まで来る。

「これは」

 恐る恐るながら手に触れて、握ってみた。星は丸く、光り、小さな鞠のような柔らかな感触であった。そこに貴志が筆を差し出す。

 他の者たちはしわぶきひとつなく、静かに成り行きを見守っている。マリーとリオン、コヒョは聖智のそばにいてやっていた。

「これに、王様が願うことをお書きください」

 貴志が言う。瞬志は何を言うんだと眉をしかめたが。雄王も戸惑いつつ、貴志から筆の天下を受け取り。星に「安」と書いた。

 聖智と一緒だった。

「やっ」

 安と書かれた星が王の手を離れ、ふわりと浮き上がる。それを不思議がって見るいとまもなく、

「お筆を次のお方に……」

 と香澄が言えば、青銅鏡から、ぽん、ぽん、ぽん、と星が次々と飛び出し。それぞれの手元にやってきて、胸元でふわふわ浮かぶ。

 皆、不思議な面持ちで星を手にして。手毬のような柔らかな感触を感じて。ほのかに光る星を静かに見つめる。

 不思議なことに、星を手にし、見つめるうちに心が安らぐ。

 雄王は瞬志に筆を渡せば、星に安の字を書き。次に貴志に手渡されて、同じように「安」と書き。

 それから香澄に筆が渡されれば、物見台からふわりと浮くようにやわらかに跳躍し、他の面々の前に降り立ち。まず太定に筆を渡せば、星にはやはり安の字。

 それから、志明、劉開華、公孫真、龍玉、虎碧、マリー、リオン、コヒョ、二度目となる聖智が、星に安の字を書いた。

 そう、皆が星に安の字を書いた。示し合わせたわけでもないのに。安の字の書かれた星は、それぞれの手から離れてふわりと浮き上がり。北辰より出でた鋼鉄の火龍目掛けて飛び去った。

 まさに流星だった。

 鋼鉄の火龍は火焔を吐き、こちらに向かってきていた。そこに流星が突撃すれば。強く弾かれるように大きな光がまたたく。

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