突撃流星
ふもとの騒ぎはいずれ寺にも及ぼう。何が起こっているのか。幻界が現世にとは。なにやらただならぬことが起こっているようである。僧侶は不安を覚えるのを禁じえず、元煥の読経の法力にすがる思いで託すしかないと思い、法主代行を引き受けた。
時は少しさかのぼる。
港に寄港していた五隻の亀甲船だったが、そのうち一隻、亀甲船艦隊の旗艦である李瞬志の亀甲船が忽然と消えていたから、さあ大変。
もちろん港にも船にも寝ずの番がいて、巡回をしているのだが。その寝ずの番も気付かないうちに、李瞬志の亀甲船が消えていたのだ。
船の寝ずの番は、一種こっくりとしたかと思えば港に降り立っていて。旗艦がないのを見て、大いに慌てた。
李瞬志の亀甲船には、翼虎の旗が立てられていた。翼虎伝説を慕って瞬志が立てさせているのである。
「大変だあ!」
思わず絶叫して、寝ていた者たちを叩き起こし。慶群の庁舎に報告すれば。庁舎の役人や水軍の者たちもたいそう驚き港に駆け付けてみれば、たしかに李瞬志の亀甲船がない。
「大変だあ!」
鍛え上げられた水軍のつわものたちすら驚きを禁じ得ずに絶叫して、その場にへたり込む有様。
彼らにとって李瞬志将軍は、王様と同等に慕う存在。魂が抜けたように、唖然とするしかなかった。
その一方で騒ぎ立てる者が圧倒的に多く。あっという間に李瞬志の亀甲船が消えたという話が広まり。寺のふもとにまで至り。
そこで山を下った元煥の側近僧侶も騒ぎに接したという次第。
現世はそんな有様である、その一方で、さて、当の李瞬志。
船内の自室にて睡眠を取っていたところ、なにやら騒がしく、慌てる声が寝耳に触れる。
「何事だ」
寝台からすぐに起き。暗い中でも手慣れた様子で、素早く寝間着から制服に着替えて部屋から出てみれば。
「……」
これはどうしたことか。たしかに人の声が聞こえて、それで起きたというのに。船内には誰もいないではないか。
何度も何度も周囲を見渡したが、誰もいない。
「これは」
瞬志はすぐに部屋に戻り、手燭に火を灯し、もう片方の手で剣を持ち。船内を歩いた。
部屋は甲板下にあり、階段を上がり、甲板に出てみれば。
誰もいない。
しーん……。
と、船内は静まり返っている。
尋常ではない。
亀甲船は甲板の上に鋼鉄に覆われた丸型の屋根に覆われて、側面には矢を放つための窓が開けられていた。
時には装甲で固めた船体をもって相手の船に体当たりをして転覆させ、それができなくても、兵員が乗り込んで白兵戦をする。




