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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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遇到公主

「この者たちは畏れ多くも皇帝皇后を弑し奉らんとする謀反人じゃ、であえであえー」

 鄭拓の叫びにより衛兵が甲冑の音を響かせて集まってくる。

「おい、世界樹はこんなときどっかに飛ばして助けてくれるとかしねえのか」

「残念ながら、ないみたいだよ」

「なんだそりゃ」

 源龍はいよいよ忌々しく舌打ちをする。

「強行突破かい?」

 羅彩女は腹を決めたようだ。さすがに貴志も憤りを感じ、逃げるついでに少しくらいは痛い目に遭わせてやりたいと考えていた。

 子どもは身も心も準備をしていた。

「阿澄(澄ちゃん)、僕を守って」

「わかったわ」

「じゃあいくぜ!」

「よーい、どんだ!」

 もはや四の五の言わぬ。一斉に駆け出し、宮殿から逃げようとする。その時、鳳凰を倒してからおとなしくなったたちまでもが、一斉に宙を駆けるようにして飛び、臣下らに襲い掛かった。

「餌、餌!」

 鬼らはそう叫んでいた。

 鄭拓をはじめとする臣下らの前に衛兵が立ち、源龍たちや鬼たちを迎え撃とうと剣を構えるが。

 鬼は弾き飛ばせても消せず、また数も多く払いきれずについには噛みつかれたり、目や鼻、耳など体の穴から入り込まれてもがき苦しむ衛兵もあった。

「どけどけえッ!」

 鬼の思わぬ援護を得て、源龍は打龍鞭を振るって衛兵を払いのけて。貴志も衛兵から短い槍を奪い取って柄で相手を打ち。香澄は七星剣で相手の得物を弾いて羅彩女が蹴りを入れる連携を見せ。

 子どもは必死に香澄のそばについている。

 鬼どもがなぜ人を襲うのか。援護を得ながら貴志はそんな疑問を抱く。

「それにしても、悪鬼あっきの怨念はすごいね」

「怨念が怨念を呼ぶんだ。人は誰でも何かの怨みを持っているもの。それが鬼に憑き殺されて、増幅させられるんだ!」

「そうなんだ……」

 子どもがこたえて、貴志は完全ではないにしろ納得する。 

 ともあれ、そんな鬼どものおかげで立ちはだかる衛兵を突破でき、宮殿の中を駆けた。

 鄭拓らはいつの間にか姿をくらましてしまっていた。なかなかに逃げ脚が早い。しかし運の悪い、のろまな者は鬼どもにつかまり、とり憑かれてもがき苦しんで悶死した。

 そう、悶死である。さっきはとり憑かれてあらぬ所業に出たが、今度のは死ぬのである。どれほどの怨念がこもっていたというのか。

 その悶死した口から、あらたに鬼があふれて宙に漂う。それがまた悪い鬼となって人を襲うという、負の連鎖が起こっていた。

 羅彩女はタチの悪い鬼を桃の木剣で消滅させる。これがなければ、自分たちもどうなっていたかわからない。

 宮殿は天地をひっくり返したかのような大騒ぎだ。

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