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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

 なんと、碗の中の茶は、飲んでも飲んでも減らないではないか。飲み干したと思ったら、底から茶が湧いてくる。

「なんだこりゃ」

 これは夢か幻か。と思ったが、飲み食いする感触は確かにあった。もし、リオンなり、子どもの頃のマリーがいたら。

「これはねえ……」

 と、講釈をたれるところだっただろうが。あいにくと双方ともにこの世界樹のもとに戻っていない。

 それがどこか寂しく感じて、そのことに気付いて自分で驚く。

「考えてみりゃあ、出来すぎてるなあ」

 腹を満たして今度は源龍が仰向けに寝そべり。羅彩女が背を樹にもたれ掛けさせて、足を伸ばす。

「そうだねえ、貧乏のどん底にいたのが夢のようだよ」

 ともにろくな幼少期を過ごせなかったことで、心に傷もあった。生きるために汚いこともした。

 汚れるか死ぬかの、どれかしかない世界だった。

「あなたがたは汚れてはいませんよ」

 脳裏にそんな言葉が閃き、はっと羅彩女は上を見上げ、源龍も上半身を起こして上を見上げる。

 木漏れ日がちらちらする。

「なんだ、今のは」

「源龍も聞こえた?」

 子どもたちは自分たちの遊びに夢中で駆けている。双六すごろくや、蹴鞠に夢中になって。源龍と羅彩女など気にも留めない。

「汚れてねえ、ってか。生きるために随分と殺生をしてきたぜ。それでもか」

 しかし世界樹は黙して語らず。

 源龍は打龍鞭に目をやる。羅彩女も得物の軟鞭に触れ。鎧を眺める。

「まあでも、誰かは汚れ役を買って出なきゃいけないこともあるし。あたしらが、それなんだろ」

「ふん。気安い慰めはいらねえ」

 その刹那、空が光った。

「きゃああーーー」

 突然、子どもたちは悲鳴を上げて世界樹のもとまで駆け寄ってきた。泣きべそ虎炎石は他の子どもに手を引かれてやってくる。

「助けて!」

 と、子どもたちは源龍と羅彩女にすがった。

 見よ、澄み渡る晴天はみるみるうちに分厚い雲に覆われて。突如として雷鳴が轟きわたり。

 子どもたちは、

「きゃああーーー」

 と、また悲鳴を上げて。耳をふさいでしゃがみ込む。ある子どもは羅彩女にひしとしがみつき、ぶるぶると震えている。

 咄嗟に立ち上がった源龍の足にすがる子どももいた。

 何かある。羅彩女は子どもを離し、飛ぶように起き上がって、鎧を身にまとい。源龍も続いた。

 得物を手に、木陰から離れて。四方八方に注意を払う。

 殺気がする。

「雷が鳴る時は、木の下はだめだ!」

 源龍は雷鳴を耳にしながら周囲を見渡すが、だだっ広い草原が広がるばかりで、避難できそうな建物などない。

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