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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

「これも世界樹の仕業か」

「うん、まあ、そうだと思う」

 リオンは苦笑しながら応え、マリーは娘の膝枕で無言。

 元煥と志明も無言。もう何も言えない。

 馬豪と宋巌を吸い込んだ阿修羅刹嬉は、途端に、ふらふらしながらも起き上がって一同を睨み据える。

 かッ、と目が見開かれて、渡り合う香澄と穆蘭目掛けて駆け出す。

「いかん」

 源龍らも咄嗟に駆け出すが、阿修羅刹嬉が早く、渡り合う香澄と穆蘭はすぐ目の前まで来た相手に対峙するため休戦し七星剣を構え。

 迫り来る六本の腕、脚をかわしつつ得物を繰り出す。

「多勢に無勢なんかかまうか。とにかく早く始末するぞ!」      

 二、三合渡り合ったところで源龍らがやってきて阿修羅刹嬉を囲んで。一斉に得物を振りかざし、打ちかかった。しかし、ふらついていたのがにわかには信じられない素早さで跳躍する。

 一同の背丈よりも、庵の屋根よりも高く跳んで。そこで止まり、宙に浮かんだ。

「お前らの相手は楽しくもなんともないから、もう相手をするのはやめる。もっと面白そうなところに行く」

 などと言い。穆蘭を、きっ、と睨み据える。

「穆蘭、お前はどうする!」

「うるさい、お前の命令なんか受けない。私は私だ!」

「なにをごちゃごちゃ言ってやがる!」

 源龍だった。他の者が思わず成り行きを見守り身動きを止めてしまった中、ただひとり、得物の打龍鞭を振るって跳躍した。が、届かない。阿修羅刹嬉はせせら笑った。

 貴志はハッとして、懐から筆の天下を取り出し。咄嗟に「完」の字を書けば。その文字は宙に描かれ、それを源龍のもとまで飛ばす。

 源龍も人間としては優れた身体能力を持ち、高く跳躍できたものの庵の屋根より高く跳べるわけもないが。目の前に「完」の文字が飛んできて、それを打龍鞭で横薙ぎに打てば。 

 「完」の文字は阿修羅刹嬉目掛けて飛んだ。

「これは!」

 慌てた表情を浮かべ、「完」の文字を避けようとした、その時。口から腕がにゅっと伸びて。なんと、阿修羅刹嬉の首を絞めたではないか。

「うッ」

 思わぬことに宙に浮いたまま身動きままならず。迫る「完」の文字は額に当たった。

「う、ぎゃあああーーー!」

 阿修羅刹嬉は「完」の文字を額に浮かべた状態で、耳をつんざく悲鳴を上げて宙でのたうち回った。

 口から生える手は首を絞め続ける。袖からして馬豪のものだった。あんなぐにゃぐにゃの無様な姿で獣のように成り果てていたのに。

「すんでのところで侠客の意志を取り戻したのか」

 あまりのことに貴志も唖然としつつ、そうつぶやく。

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