幻在相交
「あの方角は、都じゃぞ」
鳳凰、天下の飛び去る方角を見、元煥もさすがに唸る。この法主には前世の記憶、李志煥であったころの記憶が残っており、鳳凰のことも覚えていた。
「都にゃ、餌がたんまりありそうだな」
源龍は吐き捨てる。
やはり鳳凰は餌を求めて都へと向かったのかどうか。しかし球体のこともあり、身動きが取れないでいた。
が、しかし、球体にはいつの間にかひびが入っており。それは亀裂となって目立ってゆく。同時に羽毛のようにふわふわと、ゆるやかに高度を下げてゆきつつ、球体自体も小さくなってゆき。
一同が見守る中、庵の屋根の少し上まで来たかと思えば。
ばあーーーん!
と、耳をつんざくような破裂音をさせて、破裂して。中から人間が弾き出されて、地面に転がり落ちた。
それは貴志と香澄とマリーとリオンで。香澄は鮮やかに着地し。貴志は少しよろけつつもどうにかふんばって着地し。香澄はリオンを、貴志はマリーを受け止めて、優しく下ろした。
が、弾き出されたのはその四人だけではない。紫の衣をまとう少女や、武装した兵らに、貧者だの、大陸内陸部らしきの男の装いをした長い髪の女だのが、ばらばらと何かのつぶてのように落ちてきたのだ。
「なんだこいつらは」
貴志との再会を意識するいとまもなく、源龍は見知らぬ者たちへの警戒を怠らない。
球体は完全に姿を消したが、謎の者たちは立ち上がり得物を構えて、こちらをじっと見据える。
特に貧者二人こと馬豪に宋巌、少女こと穆蘭、実は刹嬉女王だった孫威。この者らからはただならぬ雰囲気を感じてやまなかった。
「なんだこれは!」
「なんじゃこりゃあ!」
「なに、これ!」
球体から弾き出された者たちは突然異世界に放り込まれて、ただただ驚いていた。貴志たちはというと。
「え、ここはお寺!?」
と、見慣れた庵と光善寺の門に、その向こうの石造りの寺や、山岳風景を目にして。自分たちが帰ってきたことを理解していたが。
源龍らは得物を構えて、臨戦態勢である。何があったのか。
四人は素早く源龍らのもとまで駆けて。それぞれが別れて対峙する。
「お前ら今まで何やってたんだよ」
「色々と」
「色々とじゃわかんねーよ」
「話はあとで、今それどころじゃないよ」
源龍の言葉に香澄が応え、少しばかりのやり取りがあったが。羅彩女に言われて、すぐにやまって、臨戦態勢。
球体から出て来た少女は、香澄と同じ七星剣を得物としている。彼女は何者か、四人以外の面々にわかるわけもないが。貴志も話をする余裕もなさそうだ。
馬豪と宋巌はどっちにもつかず、双方の集まりから距離を取って様子見するしかなかった。




