幻在相交
「おもしれえ、かかってきやがれ!」
太陽を覆うほど大きな完の字は、陽光を遮り下界を陰らせている。それが、またぶるっと震えたかと思えば。また再び球体に戻ったが、今度は光を発せず。漆黒をまとった黒い球体となっていた。
それが、一直線に地上目掛けて落ちてくるではないか。
羅彩女に龍玉、虎碧は得物を構えて備える。それを横目に、源龍は駆け出し、跳躍した。
球体は源龍のすぐ前。太陽を覆うほどだった大きさは、落下するうちに一気に縮み、大鷲ほどになっていた。
ぶうんと唸りを上げて打龍鞭が下段から振り上げられ、迫る球体にぶつけられ。
びしっ、という鋭い音とともに強い光が一瞬発せられて。球体は打龍鞭に打たれて空高く舞い上がった。
源龍は着地し。球体を見上げる。
「あ、ああー!」
志明は驚き声を上げる。他の面々も、唸ったり、口をつぐんで黙り込んだりと、球体を眺めて驚かされていた。
なんと、黒い球体は宙に浮いた状態で、ぼやっと何かを映し出したかと思えば。その黒い表面に映し出されるは、貴志と香澄にリオンとマリー。
「あいつら何やってんだ!」
源龍もさすがに声を漏らさずにはいられなかった。球体の中で、四人は何か格闘をしているようである。
香澄は七星剣を抜いて誰かと渡り合い、貴志も襲い来る暴漢らしき者らからリオンとマリーをかばっていた。
さきほど打龍鞭で球体を打ったが、中には何の影響もないようで。それは宙に浮き、四人を映し出すばかり。
「一体これは」
虎碧は冷静さを失わないように努めて、深呼吸する。そばの龍玉もそわそわしつつも、剣の柄をぎゅっと握りしめて落ち着こうとする。
羅彩女は源龍のそばで軟鞭をたらしつつ、臨戦態勢を崩さない。
志明はただただ呆然とするばかり。消えた弟たちが、どうして球体の中にいるのであろうか。
「これは夢か幻か」
そう、ぽそっとつぶやけば。
「夢でもあり幻でもあり現でもあり」
と、元煥は返した。
すると、耳をつんざくような、猛禽類の鳴き声が響いて。一同はっとして空を見上げれば。
朝空を悠々と泳ぐ鳳凰の姿があった。
ついに志明は腰を抜かしてへたりこんでしまう始末だった。
「天下!」
羅彩女はその名を叫んだ。
その姿こそ荘厳なるものの、実体は人を食らって肥え太る化け物。
球体は高度を上げて、太陽と並んだ。鳳凰、天下はその周辺をぐるぐると、悠々泳ぐように飛ぶ。
しかし鳳凰、天下は、しばしぐるぐる回ると、そ知らぬ顔で彼方へと飛び去ってゆく。まるで下界にも球体にも興味なく、空の遊泳をただ楽しんでいるかのようだった。




