打敗女王
「王様、お逃げください!」
鋳王は近衛兵に守られながら、馬車に乗り門を出ようとするところだった。一旦捕らえられたものの、近衛兵に助け出された。
「刹嬉はどこだ!」
と、愛する妻を探し求めるが、いない。こんな時にどこへ姿を消したのか、気が気でない。それでも、近衛兵は強引に鋳王を連れ出し、馬車に乗せ、王宮から逃げようとする。
いつの間にか省欣までいる。
没有幇の貧者たちを取り締まっていた最中だったが、気まぐれを起こしてか穆蘭は王宮に帰ると言い出して、戻ってみれば。
王宮内は混乱し、そのどさくさで穆蘭とはぐれてしまった。しかし王宮を脱出しようとする鋳王一行と行き当たって、行動を共にする。
「女王様は我らが捜しますゆえ、まずはご避難を!」
「あッ!」
球体は王宮から溢れて、王宮そのものをついに飲み込んでしまった。鋳王らも、逃げようとしたが。恐怖のためか身体は動かず、そのまま飲み込まれてしまった。
球体はさらに大きくなってゆき、王宮や王や官人らを飲み込み、それでもなお収まらず。さらに拡大を続けながら、ふわりと浮き上がって。空に舞い上がり。
大胤城を月とともに見下ろす。
人々の恐慌はひどいものであった。
夜空に浮かぶ球体を見上げ、指を差し、あれはなんだと叫ぶ。家に閉じこもり窓も締めきり、恐怖をしのごうとする者もある。どさくさに紛れて狼藉を働く者もある。
大胤城は大混乱であった。
それを見下ろしながら球体の拡大はとどまらず、その光は夜闇を払い、まるで昼のように世を照らし出すが。そうなるほどに恐怖も拡大し、伝染してゆく。
ついには、球体の拡大は下界に迫り。背の高い建物の最上階が飲まれた。人々はこの世の最後を悟った。
球体はみるみるうちに大胤城そのものを飲み込んでしまった。人々も飲み込まれてしまった。
「あ……!」
「あったかい……」
光に飲み込まれるとき、人はなぜか温かみややすらぎを感じた。
………
ここは半島の国、暁星は慶群。
慶群には、光善寺という、由緒ある古刹がある。
夜が明けて、秋の涼やかな朝。太陽の光も優しい。
秋の優しい陽光が光善寺を包む。その寺の建つ山を登る一行があった。徒歩でとことこ、整備されたとはいえ坂道を上ればいかに秋の朝とて汗ばむのは免れぬ。
一行は坂を上り切り、ふうとひと息ついて呼吸をととのえ。門前まで来て。門番の僧に用件を伝えれば。
法主の元煥がやってきて、一行と相対す。
「これはこれは、李志明殿」
この一行は王に謁見する群守の李志明らの一行であった。連れの部下はふもとで待機させている。
打敗女王 終わり




