打敗女王
そばに控える兵の鎧が音を立てた。手燭を持つ者と、手が空いてる者がいる。手が空いている者が、剣を抜いた。
「悪い王と女王をこらしめることに、賛同できないですと。それは、あなたが翻意したとみなしてよろしいですか? いや、意志を翻したのだ!」
(この人、様子がおかしいよ)
リオンは眉をひそめる。マリーも無言ながらリオンと同じだった。いかに世界樹の意志を司るふたりとて、全てを知って様々な世界を行き来しているわけでもなく。危機になれば香澄や貴志を頼らざるを得ない。
(正義感が暴走したのか、やはり孫威の様子はただごとじゃない!)
没有幇との繋がりや、歴史上のよい印象をもとに頼ろうと思ったのだが、まさかこんなことになるとは。
「あはは!」
途端にけたたましい笑い声がする。女の声で。
「穆蘭!?」
貴志は魂消る思いで、いつの間にか孫威の後ろに控える穆蘭に驚かざるを得なかった。
香澄の瞳が鋭く輝く。
「女王様、もうそろそろ本当のことをおっしゃってもよろしいのではありませんか。見ててお兄さま方がかわいそうになってくるわ」
「……!?」
穆蘭は何を言っているのか。孫威が、女王様、つまり刹嬉?
「ふ、ふふふ。それもそうだな」
声色が変わった、高めながら男のような声だったのが、低くとも女声だとわかる声になった。
「これはどういうことなんだ!」
貴志はたまらず叫んだ。しかし孫威と穆蘭は冷たい笑顔のまなざしで四人を見据えるのみ。
王宮の兵が次から次へとやってくる。今いる狭い部屋に多くの兵が詰め掛ければ、どうなることか。
「刹嬉様、こいつらをあの庄屋みたいにぶっ殺してやるんでしょう?」
などと言う兵まであった。それを見て貴志ははっとする。
あの庄屋みたいに、とは、四頭山のふもとの集落の、あの庄屋のことだろう。兵らは、あの時、庄屋たちを皆殺しにして屋敷から飛び出た暗殺集団だ。
「そうだな、しかし、お前たちでは無理だな」
「むっ」
兵は不機嫌そうに貴志や香澄を見据える。確かに、飛び出したどさくさに貴志や香澄も襲ったが、逆にかかと落としを食らってしまう有様だった。
とは言え、貴志は眉をしかめっぱなし。
「僕の小説の登場人物が、僕を弄んでいる?」
冷や汗をかく思いだった。自分の小説の世界に飛ばされて、小説の登場人物に振り回されているではないか。
「貴志!」
香澄は鋭く光る瞳を向ける。
「しっかりするのよ!」
「そんなこと言ったって」
何か有益なことを言ってくれるかと思ったが、ごくごく普通の励ましで肩透かしを食らう。




