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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

 都は騒然としているが、成り行きはどうあれ護衛付きで王宮行きである。これでどうにか孫威に会うことが出来れば。

(っていうか、僕らが孫威に会ってどうしようってんだ?)

 自分の空想世界とはいえ、あくまで空想なので命懸けで戦ういわれはない。一刻も早く元の世界に戻りたいのだが。

 貴志はちらりとマリーとリオンを見つめた。

 その意を察してか、なんだか気まずそうに苦笑交じりの微笑みを返された。

 やれやれと、貴志は改めて観念して歩を進めた。

 路地裏から出れば、周囲は思ったより静かになっている。

「あらかた片付いたようだな」

 隊長がひとりごちる。貴志はぎくりとする。没有幇は壊滅させられた、ということだ。

(しかし、穆蘭ぼくらん……)

 彼女はどうしてしまったのだろう。何か彼女をああさせたのか。と、考えてもわかるわけもない。自分の空想世界で空想の登場人物に悩まされるとは。

(人は自分の心もままならないものだけれど)

 ともあれ、余計なことを考えず、言わず、兵らとともに王宮を目指す。その途中で、省欣しょうきんらとばったり出くわした。

 隊長は彼を見つけると機嫌よさげに声をかける。貴志らは顔をそらす。

「すまんがそれどころではない、穆蘭はやはり穆蘭だ!」

「なんだと!」

「あのクソアマ、畏れ多くもお国を罠に嵌めようとしていたのだ。没有幇もそのための自己犠牲だったのだ!」

「なんと、天をも畏れぬ大胆な奴らよ」

(え?)

 貴志には話の意味がわからない。穆蘭が国を罠に嵌めようとし、没有幇はそのための自己犠牲とは、これいかに。

 省欣はよほど慌てているのか、それでは、と言って。穆蘭を求めて、遠ざかってゆく。

「穆蘭め、とんでもない娘っこだ!」

 隊長は吐き捨てるように言って、貴志らに向いて、では行こうと歩を進める。

 貴志はなんとも言えない気分だった。自分の空想が自分の手を離れて、一個の独立した存在になっているようで。

 戒厳令のため、家屋や様々な建物は締め切られて。夜であるとはいえ、異様な静けさがかえって緊張感を高めさせた。

(これが僕の空想世界)

 貴志は気を引き締めなおして、歩を進めて。やがて、荘厳さを湛える建物が、篝火の灯火に夜闇から掬い出されるのが見えて来た。王宮だ。

 空は月も星もない。真っ暗闇。それを火を焚き夜闇を払う。

「おかえりなさいませ。……この者らは?」

「孫威殿の知り合いだ。この騒ぎに迷い込んだというので、保護した」

「わかりました」

 警備の兵が隊長に一礼し、道を譲る。貴志に香澄、マリーとリオンは警備の兵に一礼をして、隊長に続く。

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