打敗女王
しかもよそ者が屋敷にいたという。その話をしてから、小役人ははっとする。
今更気付く。少女の存在に。
「穆蘭?」
小役人は腰を抜かしてへたりこんだ。
ただでさえ都は騒然として緊張感が張り詰めているというのに、そこに穆蘭の姿があるなど、どうして想像しえよう。
「穆蘭、お前、お前が連れて来たよそ者に庄屋たちを殺させたのか」
「きえええ!」
省欣は突然、怪鳥のような鋭い声を発し、腰に佩く剣を素早く抜き放って、穆蘭目掛けて白刃を振るった。
穆蘭は素早く避けて、間合いを取るが。その目は憎悪の炎に燃える。
他の兵も省欣に倣って得物を構えて、刃先を穆蘭に向けた。
「うぬ、我らを嵌めようとしたな!」
「知らない、私は何も知らない!」
「黙れ、今まで散々我らに抗ったお前が、調子がいいとは思っていたが。畏れ多くもお国を罠に嵌めようとしていたな!」
「ああ、もう、やっていられない!」
何も話す気になれず、穆蘭は脱兎のごとく逃げ出した。
もちろん見送るわけもない省欣は自ら駆けて穆蘭を追ったが。その逃げ足速く、みるみるうちに間は開いて。ついには夜闇の中に飲まれるように姿が見えなくなった。
「くそ!」
捕まえられない悔し紛れに剣をひと振りし。はっとして、
「王宮へ戻るぞ!」
と、手近な者たちだけで急ぎ王宮に戻った。罠であるなら、王宮に曲者が忍び込んで、何か事を起こすかもしれないと。
さて、貴志たちである。
宋のぼろ食堂から逃げ出し、大通りに出て、怪訝な目で見られながら貴志はマリーを、香澄はリオンを担いで駆けて。
もちろん警備の兵に目をつけられて、
「そこのお前たち!」
と、追われた。
やむなくまた別の路地裏に逃げ込み。驚く貧者たちをよそに、警備の兵を撒いて。扉がぶらぶら空いている空き家があったので、そこに逃げ込み。息を潜めた。
が、兵もさるもの。
「いたぞ!」
ぬっと窓から顔を覗かせて、貴志らを見つけ。十名ほど集まって。いよいよ追い込んだ。
貴志と香澄が兵らと対峙し、マリーとリオンはその後ろに隠れた。やむなくも、強行突破せねばならないかと悩んだが。
(あ、そうだ!)
何かがぴんと閃いて。
「申し訳ありませぬ。私らは孫威様の知り合いで、都に招かれて来たのですが。あまりの賑やかさにちんぷんかんぷんになって慌てた次第。決して怪しい者ではございません」
などと言う。
「なに、孫威殿の知り合いとな」
「はい。孫威様には昔お世話になりました」
もちろん嘘である。しかし追い込まれて、いちかばちかの賭けに出た。




