打敗女王
人民らは、いつかきっと、没有幇がなんとかしてくれるのではと期待し。中には協力をする者ものもいたが。
それも、今、一気に萎えてゆく。
それに、誰であろう。胤の兵に交じって少女剣客がひとり、弾圧に加わっているではないか。そうとうな手練れで、隊長と親しそうにし。さっとどこかへと駆けるや、逃げる幇の者をあっという間にこらしめて、兵に捕らえさせるではないか。
彼女は誰とも組まず、単独行動を許されており。
路地裏を風のように駆けまわり、幇の貧者を恐怖のどん底に突き落とした。
とかく、きらめく七星剣は相手に恐怖を感じさせるようで。健脚を誇る者も恐怖で脱力してへたり込む有様。
ともあれ、穆蘭はよく働いた。ひととおり働いてから戻ってきて、省欣は得意げにうんうん頷く。
四頭山周辺は穆蘭のために解放されたが。これで取り戻せるぞ、と。これからのことも考え、それを言えば。
「何を言っているの? ふもとの集落は国に着いたわ」
と言うではないか。
「なんだと、そんな話知らないぞ」
「だって、私を毒殺しようとしたわ」
「まさか、お前さんを。密偵の話では、天女のように崇めていたというのに」
「……?」
「……?」
穆蘭は怪訝な顔をし、省欣も釣られて怪訝な顔をする。細かな話をせぬまま穆蘭を言われるがままに仲間にしたのだが、その判断が間違っていたかと、にわかに不安を覚える。
(あわよくば、うら若き娘の柔肌もいただこうと思っていたが)
どうも様子がおかしい。
ふもとの集落が国に着いたなど知らない。初耳である。穆蘭は何を言っているのであろう。支離滅裂に感じられる。
没有幇は穆蘭の助けのおかげで壊滅させられた。馬豪と宋巌はまだ捕らえられていないが、それも時間の問題だろう。と思うのは、甘いだろうか。
(まさか……)
幇の者が犠牲になっての、何らかの罠ではないか。こうして穆蘭は隊長の省欣に近づいている。
手柄を立てれば、王と女王も働きを認め、お目通りもかなうかもしれないが。
(奴らならやりかねん)
省欣は戦慄した。
王朝打破のために、穆蘭と没有幇が手を組み。肉を切らせて骨を断つ強硬策に出たのか。
「よろしいでしょうか」
兵がひとり、駆け寄ってくる。お知らせしたいことがあるというので、言わせてみれば。小役人を連れている。
その小役人は告げる。
「四頭山のふもとの集落の庄屋屋敷の者らが、何者かによって皆殺しにされてしまっています!」
「なんだと!」
屋敷で騒ぎがあって、何事か駆けつけてみれば。見るも無残な有様であったという。




