打敗女王
最初は信じず、捕らえようとしたがあまりの強さのためにそれは出来ず。やむなく試しに路地裏に連れてゆき、適当な貧者、魏徴を穆蘭に捕らえさせれば。彼はあまりの恐怖に拠点となる偽装の宋のぼろ食堂や、食堂の主、宋巌に幇主馬豪のことを全て、求められるがままに白状した。
確かに穆蘭は国のために働く気なのだと、省欣も納得して。行動を共にすることになった。
このことはまだ王や女王には言っていないが、結果を出せば事後報告でも許してもらえるだろうと思っていた。
「厳戒令が出ているのだぞ、誰も外に出てはならぬ!」
夜を昼にするかのようなほど火が焚かれて、大々的に没有幇の摘発がおこなわれれば。騒ぎになり、野次馬も繰り出す。それらを刃をちらつかせて家屋に押し込み。外に出るなと厳命した。
この摘発には、もちろん都詰めの兵の大部分が動員されている。各所には武装した兵が五人単位で佇んで、周囲に睨みを利かせている。怪しい者は貧者でなくともひっ捕らえて、少なくともひとり一発拳なり脚なりを食らわせた。
「これはえらいことになった」
恐れる者は家族友人らと身を寄せ合い、嵐が過ぎ去るのを身をひそめて待つしかなかった。
「暴政のために食うもままならず。都こそ、都ゆえに地獄じゃ」
「我ら悪しき時に生まれ落ちた哀れな者どもよ」
そう己の悲運に涙するしかなかった。
都、大胤城は、都とはいえ。多くの者たちは重税が課せられ。払えなければ、追放はおろか死罪にも処された。
問答無用で兵が押し掛け、家財を奪い去ってゆくなど日常茶飯事。要領のよい者は国にうまく取り入り、奪う側に回って美酒にありつけたが。それが出来る者はごくわずか。
多くの人民は生活苦や餓えにあえぎ。その上に少ない王侯貴族が胡坐をかいて、悦楽にまみれるという、貴志の目から見て明らかに、そして小説「打敗女王」の設定通りの、典型的な暴政国家となってしまっていた。
それを憂えてなんとかしようと、馬豪は没有幇を結成したのだが。あらぬことで壊滅的打撃を受けることになってしまった。
没有幇は虐げられる人民の希望の星であった。乱暴を働く兵をこらしめ、都から逃げる者を手助けし。
悪い金持ちの蔵から盗み出した財宝を配る義賊的なこともした。その一方で良い金持ちがいれば、その護衛に当たり。義援のための金や食べ物を託されて配ったりもした。
また多くの短冊を作っては密かにばらまく。短冊には、
没有幇 在這裡
(没有幇、ここにあり)
と書かれており。幇の存在をよくよく知らしめて、国にゆさぶりをかけていた。




