走向継続
以前入ったことのある源龍と貴志、羅彩女は、当時と中が変わっていないと思った。
「まあまあ、座りなさい」
そう元煥に促されて、一同円座になる。
「李志明殿にも使いを送った。早ければ明日にもここに来るであろう」
「はあ……」
貴志は言葉もない。代官として光善寺のある慶群を治めている兄の志明は、一度ならず二度までも、と驚き魂消ることであろう。
今回は人も増えているし。さてさて、どのような反応をするか。気掛かりではあるが、変に興味もあった。
「世界樹は人使いが荒いからのう。さて次はどこにゆかされるであろうか」
「あのう」
「なにかね?」
元煥に貴志は問う。
「あなたは、李志煥殿の生まれ変わりで、世界樹をご存知なのですね」
「左様」
即答で肯定した。その呆気なさに拍子抜けする思いだ。
「役目を果たし、天寿を全うして眠りについて。そうすれば、一本の大樹そびえる草原におった」
元煥は天井を見上げ、懐かしそうな顔をして語る。
「髪の色、目の色、肌の色。様々な子どもがたくさんおって。大樹の周辺であそんでおって」
言いながらリオンとマリーを一瞥し、
「のう」
と、不意に振り。リオンとマリーは苦笑して、頷く。他の面々は、黙って成り行きを見守る。
「まあ、暁星時代に木っ端ながら役人の家に生まれ変わって。それなりに学問をおさめ。僧になって。さらに様々なことを学んだ。……しかし、白羅の亡びを知り、なんとも言えぬ気持じゃったのう」
そう切なそうにしみじみ語る元煥。独演会であった。
「まあ、国など、幻よ」
江湖の住人ならまだしも、宰相の子を前に元煥はぬけぬけと言ってのけるから。貴志は苦笑し。その一方で、内心では賛同していた。
(いずれ暁星も亡ぶんだろうなあ)
「しかし、国は亡びようと、人は残る。人じゃ、人こそ大事じゃ」
「人、ですか」
「左様、人に比べれば、国など足元にも及ばぬ」
貴志の問いかけに元煥は即答する。気が付けば独演会であり講演会であった。
「国に忠誠を誓い、そのために命を懸けるなど、阿呆のすることじゃ」
「わはは!」
源龍は途端に大声で笑った。
「じいさん、あんた面白いことを言うな」
「気に入ってもらえてなによりじゃ」
ふと、言葉が通じていることに気付いた。辰と暁星の言葉は違うから、意思疎通は一苦労だったが。
意識せずとも、暁星の言葉が源龍の口から出る。
「ん、言葉が……」
「世界樹の方で、そのように取り計らってくれたのであろう」
と、元煥は答える。
(なんてご都合主義な)




