永無止境
源龍と香澄は関焔のなきがらのそばで、人狼と画皮を見据える。
貴志は、手に筆の天下を持ち。今書くべきことを考える。
考えつつ、それにしても……、と思案する。
人は過ちを犯す。
貧しき者も、富める者も、等しく過ちを犯す。過ちを犯す故に、人外の妖魔につけこまれて。
それはなんのため。
「生きるため……」
そう、すべては生きるために!
人の行いの全ては、所詮生きるために。
「ひゃはあああーー!」
突然、画皮は香澄に反魂玉を投げつけた。驚かせ、ぶつけて痛い思いをさせるためにか。しかし咄嗟に七星剣を閃かせば、弾き返された反魂玉は貴志向けて飛んでくる。
「……!」
どうして、と思いつつ。目に飛び込む、切れ目。
咄嗟に貴志は筆の天下を突き出し、切れ目の中に差し込んだ。するするすると、筆は滑るように反魂玉の中に入ってゆき。さらに手首まで入った。
(熱いッ!)
玉の中は炎が燃える。たまらず貴志は眉をしかめた。しかし、その熱さは……。
「みんな、生きたかっただろうに……」
貴志の脳裏に、今書くべきことが閃いた。その時、筆先は炎を墨とするかのように、真っ赤に染まる。
貴志は、そのまま反魂玉の中に、
「活」
の一字を描いた。真っ赤な真っ赤な、炎を墨として描かれた真っ赤な「活」の字だった。
描き終えて切れ目から手を抜き出した。
すると不思議なことに、反魂玉は宙に浮いたまま動きを止めて。それから、なぜかぶるぶると震え出したと思えば。
見よ、みるみるうちにひび割れが生じ、玉の中にまでひび割れが走る。それを見る画皮と人狼の驚きは尋常ではなかった。
ひびから炎が漏れる。と思うや、
「ぱりーん!」
と耳をつんざく音を響かせて、粉々に割れた。
破片は宙を飛びながら、霧のように消えてゆき。中の活の字といえば、風に乗り、舞うかのように上空へと昇り。
鳳凰はそれを見つけ、小鳥を襲う鷹か鷲のごとく鋭い爪のある脚で捕らえ。そのままどこかへと飛び去って行った……。
一同はその様を見上げて、見届けるしかなかった。
「あー!」
画皮は頭を抱える。
「ほんのいたずら心で、玉を投げつけてやったが。かえって仇になってしまったー!」
もう間抜け丸出しである。人狼は、
「この大阿呆!」
と怒鳴るが、後の祭りである。
源龍と香澄は弾かれるように駆け出す。
鳳凰の天下が飛び去り、その危機がなければ何の憂いもなく人狼と画皮と戦える。貴志も筆の天下を握ったまま、駆け出す。
「人の心も命も弄ぶお前たちを許さないぞ!」
武術や戦うことが嫌いな貴志だったが、今回はそうも言っていられなかった。




