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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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永無止境

「……」

 貴志と虎碧は船縁越しに絶句する。

(どうして、また屍魔が!?)

 宮廷を取り囲む人民の集まりの中から、突然暴れ出す者が出て。あろうことか、人に噛みつくのである。これは完全に屍魔の所作であった。

 その数は咄嗟に数え切れないほど多く、宮廷を包囲する人民の集まりの各所に同時多発的に現れては、人に襲い掛かる。

 殺せの怒号が一気に悲鳴に代わり、阿鼻叫喚の地獄絵図が湧現した。

 怒りに任せて多くの人が宮廷を取り囲んでいたため、混乱と混雑が生じ、互いにぶつかり合って、倒れたりして、それが人のゆく手を阻んで満足に身動きも取れず。逃げ遅れたところを屍魔にしがみつかれて、噛みつかれて……。

 そんな光景があちらこちらで見られた。

「ぎゃあああーーー!!!」

 天地をも引き裂かんがばかりの悲鳴が宮廷を包む。

 監禁されている皇族たちは、何事かと驚き。皇后と皇太子、公主は身を寄せ合い。不安そうに窓の向こうを眺めるが。壁窓の向こうの庭には壁が立ち、外の様子は見えない。

 見張りの兵も何事かと不安を禁じ得ないようで、互いに顔を見合わせて、なんだこれはと言う。

 香澄と源龍たちも、驚き、しかしついにこの時が来たかと覚悟を決め。香澄は閉じた目を開いて、それぞれ無言でうなずき合う。

 悲鳴は宮廷内のところどころまで轟いてくる。中の者たちも異変をさとり、何事かと不安を禁じ得ない。

「大変です、屍魔です!」

 石狼の部屋に兵が飛び込んできて、屍魔の出現を報せる。

 関焔はたいそう驚いた。しかし、石狼と秦算は、

「左様か」

 と、落ち着いたものだった。

「どうしたんですか、なんでそんなに落ち着いてるんですか!」

 頭領たる者、いかなることがあろうともうろたえず冷静さを保つことが大事なのはわかるが。それにしても、違和感を禁じ得ない落ち着き方だった。

 すると、石狼の姿がみるみるうちに変わってゆく。

 顔や手が剛毛に覆われ出したと思えば、顔立ちも変形し、その名の通りの狼そのものとなった。関焔はただただ唖然とするばかり。しかし秦算は落ち着いていた。

「頭領、これは!」

 関焔は咄嗟に腰の大刀を抜いた。狼の姿になった石狼からただならぬ殺気を感じ取ったのだ。

 側近や小姓の少年もこれにはたいそう驚いて、小姓などは驚きすぎて腰を抜かしへたり込む有様だった。

「はっはっはっはっ!」

 狼と化した石狼はたからかに笑った。悲鳴に包まれながら。その悲鳴が心地よいようだった。

「いい顔をしているじゃないか、愚かな人間ども!」

 異変に気付いて、部屋に兵が数名飛び込んできて、狼の石狼、人狼にたいそう驚き、度肝を抜かれていた。

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