鋼鉄姑娘
「帝は悪政をほしいままにし、ついに天地の神の怒りを招き、屍魔をも招き寄せ。都は混沌の坩堝に落とされた。この罪、どのようにお考えか!」
(我らが何事も中心におらねばならん。突然現れた正体不明の者どもに、多くの配分を占められてたまるか!)
石狼は強引に前に進み出て、自分たちで主導権を握ろうとする。源龍と肩を並べて、香澄と対峙する格好になる。
「阿澄、悪い事は言わねえ、こっちに来い。こいつらは悪い奴なんだ、かばうだけ損だぞ」
関焔だった。優しげに言い、皇族から離れるよう促す。
その間にも、咆哮は空を揺るがすのが感じられる。他の兵らは屍魔が迫るのを必死に防いでいるようである。
守備兵も北娯維新軍も一緒にである。屍魔と戦うには、共戦せざるを得ない。皮肉にも屍魔が敵対する者同士を結び付けていた。しかし、その共戦の理由はほかにもあった。
「余計なことを言うな!」
秦算は関焔に怒鳴る。怒鳴られて、関焔は黙り込んだ。
「……」
重い沈黙が周囲に垂れこめる。気が付けば、咆哮の轟きも空に溶け込むように小さくなってゆく。屍魔もほとんどが片付けられているようであった。
「こっちに来い!」
と、どなられながら引き摺られてくる者があった。三十なかばか、その者も豪奢な衣を身にまとって、一見皇族のようなきらびやかさであったが。
「伴顕。今までどこに隠れておったのか」
秦算はにやりと笑う。
北娯維新軍の兵は、この伴顕なる者を引っ立ててきて。頭を押さえて、無理やり座らせ。刃を突きつける。
「伴顕、観念せい」
そう言うのは胤帝であった。
「そなたは魔術を嗜み、死人を生き返らせて人不足を補おうと朕に進言した。朕もそれを受け入れたが、それがすべての間違いだったのだ」
まず自分が観念しているという感じで、胤帝は切なげに語った。
「聞こえるであろう。阿鼻叫喚が。これらすべての地獄、我らが湧現させたのだ」
しかし伴顕は頭と肩を抑えられて無理矢理座らされて、がたがたぶるぶると震えるばかり。
(魔術を以って宮中に入り、栄耀栄華を我が手にできたと思ったのに!)
ということを恐怖の中で考えていた。
松明の灯の光に反射する銀光。関焔の大刀だった。
「さすがにここではまずいぞ」
秦算は鋭く睨みを利かせて言えば、関焔は頷き。伴顕の首根っこをひっつかんで、数名の供を伴って室外に出た。
妻子らはただならぬ雰囲気を感じ取り、身を硬くしながら寄せ合う。
中庭にまで出て、そこで有無を言わせず、関焔は大刀で伴顕の首を刎ねた。




