鋼鉄姑娘
香澄は淡々とした口調ながら、助け舟を出す。
「彼の話すことは本当です。胤帝は人不足を魔術である反魂術で補っています」
「……ふむ。反魂術か。聞いたことがあるぞ」
秦算は白い髭を撫でながら頭の中にある知識を手繰り寄せる。
「そのような魔術を使う妖しい者が北娯の宮中におるということじゃな」
「そういうことになります」
「ちぇ、なんてけったいな」
石狼は思わず舌打ちする。魔術を使う魔術師がいるとなると、やっかいなことだ。
(って言うか、なんでそんな妖しい魔術が僕の小説に紛れ込んでいるんだ!?)
作者の貴志は困惑するばかり。自分の書いた小説の世界に紛れ込まされたと思えば、設定外のこともあって。もう滅茶苦茶だ、と頭の中で繰り返さざるを得なかった。
「それで、このお方たちにご助力をお願いしたんです。維新を成し遂げるためには、特に香澄さまのお力が必要になってくるんです」
「うーむ」
石狼は東牙のあだ名の通り、鋭く突き刺すような目つきで思案する。打破麻煩の秦算はうんうん頷き。
「よいではないか」
などと、あっさりと香澄たちの仲間入りを認めた。
「おいおい。軍師さんよ、やけにあっさり決めてくれるじゃねえか」
「今まで関焔の連れて来た者は、食いっぱぐれのただのちんぴらばかりじゃったから、ことごとく追い返したが。この者らは信用してもよいようじゃ」
「ちょっと待て!」
源龍は叫びながら立ち上がった。
「オレは仲間になるとは言ってねえぞ!」
周囲に緊張の糸が張り詰められた。源龍はお構いない。
「オレはな、大仰なことを言って正義だなんだと抜かす奴は信用してねえんだ」
「なんだとこの野郎!」
北娯維新軍の他の面々も立ち上がって、源龍に襲い掛かりそうなそぶりを見せたが。石狼と秦算も素早く立ち上がって、鎮まれ! と皆を制した。少し遅れて関焔も立ち上がって。
貴志と羅彩女に、香澄も素早く立ち上がった。
「座れ、オレの命令が聞けねえなら骨まで粉々だぞ!」
頭領らしい威厳を見せて石狼は他の面々に座るよう促す。気が付けば小姓らしき少年が跪いた格好で、刺つきの棍棒、狼牙棒を掲げ持っていた。その様子から、それが石狼の得物のようだった。
「……あの、こんな時にすいません。お名前をお聞きしていましたが、どのような字を用いるか教えていただけませんか?」
「ん?」
石狼と秦算は、こんな時に何を言うんだと貴志を見据えて思いつつ、場を鎮める好機ととらえて。まず自分が座って他に座るよう促す。




